駐在員・事務局員日記

理事長ブログ第40回「未来は変えられる:中等教育と難民支援」~ウガンダ・ケニア出張報告①

2017年06月07日  理事長ブログ
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執筆者

長 有紀枝

2008年7月よりAAR理事長。2009年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。2010年4月より立教大学社会学部教授(茨城県出身)

記事掲載時のプロフィールです

AAR理事長、長有紀枝のブログです。

 「社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」という言葉は聞いたことがある方が多いと思います。では、「規範起業家(ノーム・アントレプレナー)」はいかがでしょう? 国際政治学の分野ではよく知られた概念ですが、今まで問題とされていなかった事柄を問題として取り上げ、広め、新しい規範として、社会に浸透させていく人々や団体を指す言葉です。規範(ノーム)とは、特定の社会や共同体において、共有されている適切な、あるいは望ましい行為の基準と定義できますが、国家であれ、組織であれ、個人であれ、規範起業家となりえます。規範起業家としてNGOが果たす役割も大きく、まさに、AAR Japan[難民を助ける会]もメンバーである地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)やクラスター兵器連合(CMC)、そしてキラーロボット・反対キャンペーンなどのNGOの活動も、まさに、規範起業家と呼ばれるものです。

 先日、大学のとある講義で、2014年に史上最年少でノーベル平和賞を受賞した、マララ・ユスフザイさんのスピーチを読み、改めて、彼女は紛れもなく「規範起業家」である、という思いを強くしました。マララさんといえば、「女子教育の普及」が浮かぶでしょうか。ですが、私が感じた「規範起業家」としてのマララさんは、女子教育というより、中等教育についてです。
 マララさんのノーベル平和賞受賞スピーチには、有名な個所は沢山あります。最も引用されることの多いフレーズは、終盤のこの力強いメッセージでしょう。
 「兄弟姉妹のみなさん。いわゆる「大人の世界」では理解できるのかもしれません。でも、私たち子どもにはわかりません。どうして「強い」といわれる国々は、戦争を作り出すことにかけては強い力をもっているのに、平和をもたらすことにかけては、これほどに弱いのでしょうか。銃を与えることは、とてつもなく簡単なのに、どうして、本を与えることは、それほどに難しいのでしょうか。戦車を作ることはとてもたやすいのに、どうして、学校を建てることはそれほど難しいのでしょうか」。

 このフレーズの前に、「規範起業家」としてのマララさんのもう一つの強い信念を見ます。
 「15年前、世界の指導者たちは「ミレニアム開発目標(MDGs)」という地球規模の目標を決めました。その後、確かにある程度の進展はしています。学校に通えない子どもの数は半分に減りました。でも世界が焦点をあてているのは、初等教育だけです。そして、すべての子どもたちにその進展が行き届いたわけではありません。世界は、基礎教育だけで十分という発想を、もはや受け入れることはできません。どうして、世界の指導者たちは、自分たちの子どもには、代数や数学や科学、物理などを学ばせながら、発展途上国の子どもたちは、基本的な読み書きだけで十分という発想を受け入れることができるのでしょうか。指導者たちは、全ての子どもに対し、無料で、質の高い初等・中等教育を約束できるように、この機会を逃してはなりません。非現実的だとか、費用がかさみすぎるとか、難しすぎると言う人も、不可能だとさえいう人もいるでしょう。しかし、今こそ世界はより大きなことを考えるときなのです。現代に生きる私たちは、不可能なことはないと信じています。45年前に人類は月に到達し、まもなく火星にも降り立つでしょう。それならば、この21世紀には、全ての子どもたちに質の高い教育を与えられなければなりません」。

 この3月、南スーダンからの難民を数多く受け入れる、ウガンダとケニア両国の南スーダン国境に近い、AARの事業地を訪ねました。両国にある難民居住地(ケニア・トゥルカナ県のカクマおよびウガンダ・ユンベ県のビディビディ)でAARが行っているのは、初等教育に加え、まさにこの中等教育の支援です。
 カクマに駐在する兼山優希さんが言います。「南スーダンからの難民のうち約7割は、18歳未満の子どもたちです。多くの国や団体からの支援により、6歳から13歳までの初等教育は65.3%の子どもたちが就学できている一方、14歳から17歳までの子どもたちのうち、中等教育を受けられているのはたった2.3%にすぎません。戦闘により親や兄弟を失ったりトラウマを抱えている子どもたちも多いなか、教育へのアクセスがない子どもたちは、暴力や飲酒、薬物使用といった道に入り込み、その結果、貧困から抜け出せなくなる可能性が高まります。一方で、中等教育が受けられれば、専門学校や大学への進学の機会を得たり、祖国に戻った際に職を手にするといった道が拓けます。母国での紛争が終わり、帰還できた暁には、国の立て直しを担うための人材にもなりえます」。

 このためAARは、南スーダンからの難民が多く住むカクマ4キャンプでは初めてとなる、中等学校を建設しました。学校は16の教室や理科室などからなり、備え付ける椅子や机は別のNGOが運営する職業訓練校で訓練を受けている難民たち自身が製作。全教科の教科書も生徒全員に行き渡るように揃えました。
 ウガンダでも初等教育校とともに、中等教育校の支援に力を入れていきます。ビディビディ難民居住地では、流入した南スーダン難民の7割近くが18歳以下の子どもと言われています。親を目の前で殺されて、親とはぐれて、あるいは家財を守る親を残して、子どもたちだけで命からがら逃げてきた世帯も多くあります。
 あらゆる物資が不足している急性期、あるいは、緊急期の教育支援において、中等教育は後回しにされがちです。しかし、難民キャンプあるいは難民居住地という特殊な環境において、子どもの保護の観点から、中等教育の機会を早期に提供することの重要性は、UNHCRなどからも繰り返し指摘されています。多感な年頃の青少年が無為に日々を過ごすことで、喧嘩や非行、兵士へのリクルートなどのリスクに晒されていることが大きな課題となっているのです。さらには中等校学齢期の青少年が、中等教育機会がないために初等教育の高学年クラスに通うなどの例もみられており、ただでさえ過密な初等教育校の過密状態をさらに悪化させています。そこで駐在員の雨宮知子さんらウガンダチームでは、UNHCRやWTUなど関係団体と調整し、中等校の建設も行っていきます。

 「エンジニアになりたい」「看護師になりたい」「医者になりたい」ずいぶん、とうのたった学生もいます。25歳という学生もいました。 難民となった子どもたち、少年兵だった青年たち。過去は変えられないけれど、現在も自分の力ではどうにもできないけれど、でも、未来は変えられる、そんなことを実感したウガンダ・ケニア出張でした。

(2017年6月7日)

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