駐在員・事務局員日記

ミャンマー:1,000年の歴史に触れる遺跡巡り

2018年01月26日

ミャンマーの最大都市ヤンゴンから飛行機で1時間ほど移動すると、1,000年以上前に建立された仏教遺跡が建ち並ぶ、国内でも有名な観光地「バガン」にたどりつきます。遺跡のほかにも、金色に輝く仏塔や、漆器・操り人形・糸紡ぎや機織りなど、古くからの伝統技法が継承された、バガン独自の文化を見ることができます。ミャンマー・ヤンゴン事務所の中川善雄が、観光で巡ったバガンの文化をご紹介します。

弟と巡る魅惑の遺跡

シェエジーゴンパゴダの前で記念撮影をする中川と弟、2人とも笑顔が広がる

観光地で有名な仏教施設、シュエジーゴンパゴダにて。地元の人々も参拝で訪れます。写真右が中川善雄、左が中川の弟(2017年11月27日、バガン)

2017年11月、私の弟がミャンマーへ遊びに来たのに合わせ、一緒にバガンの観光巡りをしました。ミャンマーには、有名な観光地がいくつかありますが、バガンは国内外から多くの参拝者や観光客が訪れる場所の1つです。ヤンゴンから飛行機で1時間ほどの距離にあるバガンは、11世紀から13世紀にかけて建設された仏教の仏塔や遺跡が建ち並びます。私はミャンマー(パアン、ヤンゴン)に4年間駐在していますが、バガンには初めて訪れました。

大小さまざまな遺跡群がとても多く残っているバガンは、大通りを走る車窓から、次々と寺院が目に飛び込んできます。バガンにはオールドバガンと呼ばれる、法律で遺跡群を保護する地区があります。その保護地区のなかでは家や店舗を建てることは認められていません。広大な平地に遺跡だけが点在する光景は幻想的です。遺跡の上から眺める朝日や夕日はとても壮大で、じっと見入るほどです。一方で、軍政時代には、それまで住んでいた住民が強制的に保護区外へ移住させられたという過去もあります。

平地にバガンが立ち並ぶ壮大な風景

青々と緑が茂る、バガンの平地に点在する遺跡群(2017年11月27日、バガン)

2016年の大地震で多くの遺跡が倒壊、順次修復作業中

バガンでは、2016年8月にマグニチュード6.8の地震が発生し、多くの仏塔や寺院が被害を受けました。遺跡群の中でも特に大きく、多くの人で賑わうティーローミンロー寺院でも、上部が倒壊して修復作業が行われている途中でした。ほかにも、修復作業のため、倒壊した部分が竹の足場で覆われた遺跡を多く見かけました。ミャンマー政府が、順次修復作業を進めていますが、財政的な問題で未だに修復が始まっていない遺跡も多く存在します。

ミャンマーでは、各地に金色の仏塔が建てられていて、人々は釈迦の象徴としてとらえ参拝します。仏塔の形状ひとつひとつには、意味が込められています。多くの仏塔は、一番下に四角形の台座が3段、その上に八角形の台座が1段あり、それぞれ釈迦の袈裟(3枚の布)とお盆を表現しています。円錐型の部分は托鉢用の鉢と見立てられ、最上部に仏舎利(釈迦仏の遺骨等)や教文が納められています。ミャンマーで仏塔を参拝する際に、靴や履物を脱いだり、肌の露出が多い服を控える必要がありますが、それは人々が仏塔を釈迦そのものとして崇めていて、神聖な場所と考えているためです。

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2016年8月の地震で建物の上部が倒壊し修復が進められている、ティーローミンロー寺院(2017年11月27日、バガン)

ゴールドに光り輝く寺院の周りには国旗がいくつも建てられている。荘厳な雰囲気を感じさせるシュエジーゴンパゴタ

シュエジーゴンパゴダ。パゴダは釈迦に代わるものとして礼拝されており、形状にも意味が込められています(2017年11月27日、バガン)

バガンの有名な逸話とナッ信仰

フルーツなどの食料が寺院にお供えされています

マヌーハ寺院にある大きな托鉢の鉢。戦争で捕虜となった別の国の王様が建設した寺院。捕虜生活の限られた食生活を表したともいわれています(2017年11月27日、バガン)

観光客が多く訪れる遺跡のひとつ、マヌーハ寺院を通して、バガンの有名な仏塔や寺院の歴史的な逸話を知ることもできました。10世紀初頭、バガン王朝との戦いに敗れ、捕虜となった別の国の王様が、許しを得て建てたマヌーハ寺院。寺院内にある大きな托鉢用の鉢や狭い空間に作られた仏像は、捕虜になり食事が満足に食べられない状況や捕虜生活の閉塞感を表したかったと言われています。

バガンの中心部から30~40分車を走らせると、ポッパ山という場所があります。ポッパ山は、ミャンマー古来の精霊を崇拝する宗教「ナッ」信仰の総本山と言われています。頂上には同宗教の像などが祭られていて、信者以外の一般の人でも登るっていくことができます。ふもとから階段で30分もすると頂上に着きます。頂上には、バガンの平野を一望できる壮大な景色が広がります。当日は平日にもかかわらず多くの人が巡礼に訪れていました。ちなみに、ポッパ山は猿の生息地としても有名で、餌のバナナをあげようとすると途端に20匹近く集まってきます。

丁寧な漆器作りや、表情まで変化する人形を鑑賞

女性が座って、自身の膝の上に漆器を乗せ、鉄筆で模様を描く様子。平らな漆器は、女性の顔4つ分はありなそうなほど大きいです

漆器工房の様子。漆器に鉄筆で模様を描く様子(2017年11月28日、バガン)

バガンは、ミャンマーの伝統文化の1つである漆器の有名な産地でもあります。漆器には、竹や馬のたてがみ、高級木材のチーク材を取り扱います。しかし、国内外で高級チーク材の伐採が急増し、現在は入手困難になっているようです。質の良い漆器は、漆を塗り重ねて乾かすといった作業を何度も繰り返すため、完成に1年以上かかります。竹材で漆器を作り始める作業や、鉄筆で模様を描き、色をつける作業など、一連の工程を見学しました。最近、漆器の中には価格を抑えるために漆を数回しか塗らず、熱い液体等を入れると塗料が溶け出すような粗悪品も出回っているのが問題になっている、という話も印象的でした。

ミャンマーは、操り人形も伝統文化であることをご存知でしたか?私は今回初めて鑑賞しましたが、人形の手足だけではなく表情まで動かせるようになっていたのには驚きました。劇中はナレーションなど言葉による説明はなく、ミャンマーの伝統音楽に合わせて人形たちが歴史的な物語を演じます。演目には、親の反対を乗り越えた男女の恋愛成就のストーリーや、孫悟空のような主人公が空や山、川を駆け巡る物語もあり、楽しいひと時を過ごせました。

また、今回訪れた村の中には、糸紡ぎや機織り、落花生栽培など、昔ながらの農作業を中心とした生活を続ける一方、観光客を受け入れてお土産を販売したりして生計を立てるところもありました。ほかにも、伝統的な方法でヤシの実から砂糖やお酒を作り続ける工房を見学することもできました。

自然豊かな風景に、手仕事を中心とした生活―懐かしさを感じる人も多いのでは

専用の木工品を用いてカラフルな糸で糸紡ぎをしている女性

昔ながらの生活を続け、観光客の訪問を受け入れる村。糸紡ぎをする女性(2017年11月28日、バガン)

国内外から多くの人が訪れるバガンですが、観光以外に主な産業はありません。観光業に関わる仕事も、乾季が始まる11月から2月までは多くの観光客で賑わいますが、雨季(5月~10月)になると収入が少なくなってしまうそうです。また、乾燥した気候のバガンは、農業に適しているとはいえません。中心部から車で30分も離れると、細々と農業を続ける家々が点在していて、中心部と比べると貧富の差を感じました。ポッパ山へ向かう途中のハイウェイ沿いには、観光客からの寄付を求めて、多くの年配の方々が距離を置いて並んでいたのが印象的でした。若い年代の人々は、バガンでは仕事が見つからずにヤンゴン等へ出稼ぎに行くことも多いそうです。

初めて訪れたバガンでしたが、1000年以上も前に建てられた仏塔や寺院、古来から続く伝統的な工芸品や生活様式に触れて、ミャンマーの歴史を学ぶことができました。皆さまも機会がありましたら、ぜひバガンへお越しください。

座っている男性の周りには竹材の漆器が所狭しと並ぶ

竹材で漆器を作る漆器工房の様子。漆器は非常に綺麗な弧を描き、とても手作業が中心で作っているとは思えないほどの漆器です。(2017年11月28日、バガン)

操り人形が10体以上並ぶ、それぞれ多彩な服を着せられている

操り人形劇に登場する人形。1つとして同じデザインや色の衣服を着用している人形はなく、細部まで丹精込めて装飾されていることが伝わってきます(2017年11月27日、バガン)

ポッパさんの山頂で記念撮影する中川と弟。青い空がどこまでも高く突き抜けるように広がる。

ポッパ山頂上の風景。写真左は中川善雄、右は中川の弟(2017年11月28日、バガン)

執筆者

ミャンマー・ヤンゴン事務所
中川 善雄

大学卒業後、日本赤十字社に約5年勤務。その後、国際協力の現場を希望しAARへ。2011年3月より2013年9月までタジキスタン駐在。2013年10月よりミャンマー・パアン事務所駐在。趣味はジョギング。神奈川県出身

記事掲載時のプロフィールです

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