シリア難民の現状

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内戦の恐怖

2011年のシリア危機の勃発以降、戦闘によって亡くなった人は約25万人、負傷した人は100万人以上と言われています。そして、1,100万人が国内外で避難生活を送っています。
内戦前のシリアの人口は約2,200万人。実に国の半数の人が家を追われたという計算になります。

シリア国内では今も地上戦が続いているだけでなく、空爆も頻繁です。地上戦は、対立する勢力同士がぶつかり合う前線で起きることがほとんどですが、空爆は地上戦の前線に関係なくどこでも起こり得ます。トルコに逃れて来たシリア難民からは「学校から帰ってきたら空爆で家が破壊されていた」、「突然の空爆で逃げることができず家族が亡くなった」という話がよく聞かれます。人々は常に空爆の危険にさらされ、恐怖を感じています。

低迷する経済、高騰する物価

戦闘は経済の低迷も引き起こしています。シリアはもともと農業国でしたが、戦争の影響により農業生産量が低下しています。2014年の農業生産量は2011年と比較すると、約40%低下したと言われています。物流も打撃を受けたため、食糧などの物資がまったく手に入らないわけではありませんが、流通量は低下しています。そのため物価の高騰が激しく、2011年と2016年を比較すると、米の値段は10倍以上、小麦の値段は6倍以上になっています。同時に、首都ダマスカスなど一部の地域以外では行政機能が麻痺し、多くの病院や学校が閉鎖され、そこで働く人々は仕事を失ってしまいました。所得の低下によって、物資を手に入れることがさらに困難になっています。

国内で避難生活を送る人々

国内避難民

戦闘や空爆によって家を追われた人たち、元の生活を維持していくことができなくなった人たちのなかには、それまで住んでいた場所を離れ、シリア国内で避難生活を送っている人たちも多くいます。病気や障がいで身動きが取れなかったり、移動する手段がない、頼れる親戚がいないなど、シリア国内に留まる理由はさまざまです。「国内避難民」と呼ばれるこの人たちの数は650万人にのぼり、避難民用のキャンプなどで生活を送っています。生活の基盤が失われているため、支援がなければ生きていくことは困難な状況です。



トルコに押し寄せるシリア難民

難民キャンプのテント

世界で最も多くのシリア難民を受け入れている国が、隣国のトルコです。2016年6月現在、トルコで避難生活を送るシリア難民は約300万人。トルコにおけるシリア難民の数は2011年以降増加を続けています。ほかの隣国であるレバノン、ヨルダン、イラクにおいては、増加が止まっているのとは対照的です。ほかの隣国よりも経済的に強く、国境の管理が比較的ゆるやかで、ヨーロッパへの玄関口でもあるトルコに、多くのシリア難民が集まっています。また、トルコと国境を接するシリア北部は、シリア国内でも戦闘の激しい地域であり、戦闘から逃れてくる難民が短期間に大量にトルコに流れ込んでくることもあります。1週間で約15万人のシリア難民がトルコに押し寄せたこともあります。

難民キャンプの外に住む人々

難民キャンプの外に住む人々

トルコには25ヵ所の難民キャンプがあり、トルコ政府によって運営されています。2016年4月時点で、難民キャンプで生活しているシリア難民は、トルコで暮らすシリア難民全体の1割程度の約25万3千人。9割は難民キャンプ以外の場所で生活しています。

難民キャンプの中では住む場所と食料が提供されます。その一方、難民キャンプの外では自分で賃貸住宅を借り、食料を手に入れる必要があります。ただし、難民キャンプでは自由度が少ない、あるいはプライバシーが確保しにくい、などというマイナス面があることから、経済的な負担を伴ってでも、自由度の高い、難民キャンプの外での生活を、あえて選択する人が多く存在します。

シリア難民の生活

シリア難民の少女

難民キャンプの外で賃貸住宅を借りると、その相場は月300~400トルコリラ(12,000~16,000円)です。日本に比べると安価ですが、難民にとっては大きな負担です。そして、家賃だけではなく食料などにも費用がかかります。シリアで蓄えた貯金を切り崩すだけでは生きていくことができないので、仕事を見つけなければなりません。

トルコで働くための就労許可を取得することは困難なため、ほとんどのシリア難民が非合法に働かざるを得ません。また多くの場合、建設や農作業などの単純労働しか仕事が見つかりません。就労許可を持たないシリア難民はトルコの労働法で守られないため、最低賃金は保障されません。トルコの最低賃金は1日43トルコリラ(約1,700円)ですが、多くのシリア難民は1日15トルコリラ(約600円)程度の賃金で働いています。

また、すべてのシリア難民が仕事を得ることができるわけではありません。特に、高齢者や障がい者が仕事を見つけることは困難です。働くことができず、貯金が底をつき、トルコで生活していくことができなくなり、危険なシリアに戻っていく人たちもいます。

シリア難民の法的地位

トルコ政府は、シリアから逃れてきた人たちを「難民」としては扱っていません。一時的保護(Temporary Protection)の枠組みのもと、「客人(guest)」として扱っています。これはつまり、シリアからトルコへの入国、そして滞在を認め、シリアに強制的に帰すことはしないが、難民条約上の「難民」としての法的地位は認めない、というものです。トルコ政府のこの姿勢は厳しいものに見えるかもしれません。しかし、難民条約上の「難民」としての法的地位を認め、権利を保障することはトルコ政府にとって大きな財政的な負担が伴います。そのため、一時的保護の枠組みのなかでシリア難民を「客人」として処遇することは現実的な処置と言えます。

シリア難民に対して高まる反感

シリア難民がトルコに押し寄せてきた当初、トルコ人はとても温かく受け入れました。近所のトルコ人たちは難民に食料や毛布などの生活必需品を提供していました。しかし、難民のトルコでの生活が長くなるにつれ、トルコ人の間でシリア難民に対する反感が広がっています。トルコ人とシリア難民両者の間の暴力事件がニュースになることは珍しくありません。トルコ人と話をすると「シリア難民が自分たちの仕事を奪っている」という意見を聞きます。今でもシリア難民に対して親切なトルコ人は多くいるものの、反感を持っているトルコ人も多くなっているのが現状です。

将来への不安

「難民」としての法的地位は認められていないものの、シリア難民の権利が全く保障されないわけではありません。一時的保護の枠組みの中で医療、教育、就労などの権利が保障されています。病院での医療を無料で受けることができ、トルコの公立学校に通うことができ、労働許可を取得して合法的に就労することが認められています。しかし、実際にはそれらの権利は十分に享受されていません。例えば、教育を受ける権利は保障されているものの、現実には学校の数が少ないため学校に通えない、労働許可の取得は現実には極めて困難であるため不法就労を続けなければならない、ということが起きています。教育を受けることなく大きくなっていく子どもたち、そして安定した仕事に就くことができないという現実を目の前にし、シリア人は将来に大きな不安を感じています。また、トルコ人の中で高まるシリア難民に対する反感も、その不安に拍車をかけています。



海を渡るシリア難民

ギリシャ、アテネ港に並ぶテント

2015年、約80万人が命の危険を冒してトルコから海を越え、ギリシャへと押し寄せました。そのうち、シリア難民が約4割で、残りは中東やアフリカからの難民や移民です。彼らの多くにとってギリシャは通過点に過ぎず、目的地はドイツやスウェーデンなど「難民にやさしい」とみなされている国でした。

難民がヨーロッパに向かった一番の理由は市民権の獲得です。市民権を獲得すれば教育や労働などの諸権利が保障され、家族の将来の展望を立てることができるようになります。ドイツやスウェーデンなど一部のヨーロッパ諸国では、難民が市民権を得られる可能性が高かったため、安定した法的地位を求めて難民が殺到しました。

閉ざされる国境

ヨーロッパへの大規模な難民の流入が始まった当初、ヨーロッパ諸国は難民の受け入れに前向きでした。しかし、あまりに多くの難民が押し寄せたため、国境を閉ざし始める国が相次ぎました。2016年3月にはギリシャとマケドニアの国境が閉ざされ、ギリシャにたどり着いた難民は先に進むことができなくなってしまいました。2016年7月現在、約5万人(シリア難民以外も含む)の難民が、マケドニアとの国境に近いギリシャ国内にとどまっています。

難民認定を待つ人々

ギリシャから先に進むことができなくなったため、ギリシャで難民申請をすることが、ギリシャに合法的に滞在する唯一の方法となっています。ギリシャ政府によって難民として認定されれば、ギリシャに定住することができ、ほかのEU加盟国に移住することもできます。しかし、難民申請をしている人が多いため、難民認定を受けるまでには時間がかかっています。難民申請が却下されれば、トルコに送還される可能性もあり、申請の結果を不安な気持ちで待っています。



難民を助ける会
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