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パキスタン:現場でわかった、強面お父さんの意外な一面

2013年11月22日  パキスタン緊急支援
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気難しそうなパキスタンのお父さんたちを前に、衛生知識の講習をすることになった駐在員の森田智彦。緊張する森田の心をほぐしてくれたのは、意外にもお父さんたちのまぶしい笑顔でした。ある講習会の様子を森田がご報告します。

「想像がつかない」―厳格そうなお父さんたちとのコミュニケーション

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AARはアフガニスタンとの国境地域、ハイバル・パフトゥンハー州で活動しています。

皆さんはアフガニスタンやパキスタンの男性にどのようなイメージをお持ちでしょうか?アフガニスタンでの長引く紛争、タリバンやアルカイダによる爆弾テロなどの報道から、明るい笑顔のイメージは浮かばないかもしれません。私も赴任する前は、現地の人たちとどんな話をしたら心を開いてくれるんだろうと、少し不安でした。

私は2012年12月よりAARパキスタン事務所に駐在し、難民キャンプとその周辺に暮らすアフガニスタン難民の子どもたちへの教育支援を行っています。小学校の教室や図書室、トイレや手洗い場などの衛生設備の整備を行っていますが、同時に周囲の大人から子どもたちに正しい衛生知識を伝えてもらおうと、先生や保護者を対象にした講習会も開催しています。2012年4月から今年の9月までに、793名の先生や保護者がAARの衛生講習会に参加しました。

講習会は男女別に4日間にわたって行われます。3月に行われた男性向けの講習会初日、集まったのは立派な髭を生やした厳格そうなお父さん方でした。「情報を整理して伝えること」の大切さを実感してもらうため、伝言ゲームを用意したのですが、「ゲームなんて参加してくれるだろうか」と内心ドキドキしました。

思いがけない反応

ところがゲームが始まると、みんなくすくす笑いながら楽しそうに、相手に密着するほど顔を近づけメッセージを伝言していきます。正解が発表されると狭い教室の興奮度は最高潮に達し、「合ってた!」「全然違う!」とテノールの歓声が響きます。講習会では子どものように純粋にゲームを楽しんでいる様子でした。ゲーム後もAARスタッフの問いかけに活発に手を挙げ、熱心にノートを取る真剣な様子に驚きました。

講習会の参加者はアフガニスタンから難民としてこのキャンプにたどり着き、これまで学校で学ぶ機会に恵まれなかった方がほとんどです。学校の授業のように、みんなで集まって何かを学ぶということが楽しくてしかたがないようでした。私が出会ったアフガニスタンやパキスタンの人々は、「険しい顔をした厳しい人たち」というイメージを見事に覆えしてくれました。

学んだことを地域の人にも広めよう

講習会の成果は上々のようです。小学校の管理人は、モスクでの夜のお祈りの後、ふだんはイスラム教の経典などを紹介する時間に、「水は飲む前に煮沸して殺菌しよう」と、モスクに集まった約80人に講習会で学んだ内容を1時間かけて話したそうです。また女性向けの講習会に参加したお母さん方は、近所に暮らす読み書きのできない女性や、講習会に参加できなかった友人に、安全な飲み水を手に入れる方法や手洗いの仕方な ど、学んだことを口頭で広めています。

学ぶことの尊さ、知っているから

アフガニスタン難民キャンプにある小学校の校長先生も、AARの衛生講習会に参加する1人です。1979年の旧ソ連軍によるアフガニスタン侵攻によって、先生は多くの人びととともに祖国を追われ、隣国パキスタンに避難を強いられました。国境を越える移動生活の最中、息子を感染症で亡くしました。ソ連軍や親ソ連派のアフガニスタン兵士に殺された友人や親せきもいます。先生を含め、約500家族が避難生活を始めた難民キャンプでは、誰もみな食べていくことに精いっぱいでした。先生は多くの子どもたちが教育を受けられずに育つのを目の当たりにし、旧ソ連軍の撤退後も長引く内戦で荒廃したアフガニスタンを復興させるには、子どもたちに教育を受けさせなければならないと、難民キャンプで寺子屋を始めました。以来30年以上にわたり教育の普及に尽力してきました。

かつて自宅の片隅で授業を始めた先生は、今や生徒数1,000人を超える小学校の校長となり、AARの衛生教育事業にも積極的に協力しています。「難民キャンプの人びとの多くは、祖国でもここでも教育の機会に恵まれていません。AARの衛生講習会に参加する前は、下痢や腸チフスになってもその原因を知ることができませんでした」と言います。

難民キャンプでは、AARが行っているような講習会が数少ない学びの機会であり、それが参加者の熱心な姿勢に現れているのだと感じます。厳しい生活を少しでも改善しようと熱意を持ってがんばる人々や、教育に情熱をもって取り組む人々の思いに応えられるよう、これからも支援を続けてまいります。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

パキスタン事務所駐在 森田 智彦

大学院卒業後、民間企業を経て在ジンバブエ日本国大使館に派遣人として2年間勤務。2012年5月よりAAR東京事務局でケニア事業を担当。2012年12月よりパキスタン駐在員。神奈川県出身

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