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カンボジア:障がい児教育の現在~専門家の視点から~

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障がいのある多くの子どもたちが学校に通うことができない、カンボジア。AARは、障がいの有無にかかわらず子どもたちが一緒に学ぶインクルーシブ教育を推進する事業を、首都プノンペン周辺に広がるカンダール州クサイ・カンダール郡で行っています。今年2月からは4つの小学校で新たに開始しています。具体的には校舎のバリアフリー化や、教員に障がいのある子どもへの教え方の研修などを行いますが、まずは地域の人たちの理解と協力が不可欠です。そこで、大阪大学大学院助教の川口純氏に4月29日から5月8日にかけてAARの事業対象となっている地域を訪問してもらい、関係者を対象に障がいについての知識を深めてもらうための研修を実施していただきました。

カンボジアでは政府が2008年からインクルーシブ教育を推進しているものの、国家予算の不足などから、限られた地域でしか実施できていません。専門家の眼に現状はどう映ったのか。現地のインクルーシブ教育の現在と未来について寄稿していただきました。

「これから始まる」段階のインクルーシブ教育

川口氏による講義

インクルーシブ教育について関係者に講義を行う川口氏(右端)(2015年5月7日、クサイ・カンダール郡)

この度のインクルーシブ教育研修では講義を担当し、クサイ・カンダール郡内の学校訪問も実施した。そこで垣間見ることのできた、現地のインクルーシブ教育の実態と展望について簡単にご紹介したい。

研修では、まず地域の保護者や校長、行政官を対象に、インクルーシブ教育に関する基本的な理解を深める講義を行った。参加者の間では、具体的に地域を中心として、いかなる取り組みが児童を学校に迎え入れ、教育の質の向上に繋がるのか、活発な議論がなされた。理想論ではなく厳しい現況を踏まえた有意義な議論が交わされていたが、参加者の意識の中でNGOへの依存度が高すぎる感が否めなかった。今後、さらに地域の主体的な取り組み、姿勢の醸成が必要となるのだろう。

学校での授業観察や先生への聞き取り調査を基に判断すると、カンボジア(少なくとも、今回の訪問地)では、軽度の障がい児のみを学校に受け入れている状況であった。つまり、重度の障がい児は通学がより困難な状況にあることが推測され、インクルーシブ教育が「これから始まる」という段階にある。また、他の途上国でも頻繁に確認されることだが、関係者と話す中で、学校側は「保護者が障がい児を学校に通わせない」という不満を持ち、保護者側は「学校の準備が不十分」という相反的な認識を持っているようにも感じた。インクルーシブ教育とは、「プロセス」であり、徐々に多くの関係者を巻き込みながら、作り上げていくものである。保護者と学校がその負担を押し付けあうことなく、今後のカンボジアのインクルーシブ教育を発展させていくことが期待される。AARの皆さんはその負担を減らす存在というよりも、何か地域の方々が実施したいことを手助けする"裏方の支援者"を志向している様子が伺えた。研修でも答えを押し付けるのではなく、地域の方々に実際に自分たちができることを考えてもらう場面が多く見られた。

プレア・プロソップ小学校の生徒たち

AARの事業対象校の一つ、プレア・プロソップ小学校の生徒たち(2015年4月27日)

驚いたのは、若いAAR現地スタッフの優秀さである。語学力は元より、研修の準備や片付け、進行の手際の良さに驚かされ、心配りの行き届いた対応に感銘を受けた。インクルーシブ教育とは突き詰めると「どれだけ各児童のニーズに対応できるか」である。カンボジアにAARスタッフのような方々が増えていくとインクルーシブ教育の展望も明るいのだろう。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

大阪大学大学院 人間科学研究科助教 川口 純氏

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程修了。JICA研究所研究員などを経て、現職。途上国でのインクルーシブ教育を専門に研究を行っている。

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