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急増するシリア難民―トルコの支援現場から

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コミュニティセンター外観

今年7月にシャンルウルファ県に開設されたコミュニティセンター

シリア国境に近い、トルコ南東部のシャンルウルファ県。2011年に勃発し、現在も収束の気配がないシリア危機を受け、多くの難民がここに逃れています。

AAR Japan[難民を助ける会]は祖国に戻る見通しが立たないシリア難民のために、コミュニティセンターを運営しています。2014年7月、1つ目のコミュニティセンターを開設し、このたび、新たに2つ目となるコミュニティセンターを開設しました。コミュニティセンターでは、トルコ語や英語をはじめとする各種講座や、シリア人とトルコ人が交流し相互理解を深められるようなイベントを行っています。今年7月から講座は開始していましたが、9月2日にあらためて開所式を行いました。

トルコ人とシリア人の交流の場がオープン

長有紀枝

開会のあいさつを述べるAAR理事長の長有紀枝

開所式には、シャンルウルファ県副知事のウフク氏をはじめとする行政関係者、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、NGO関係者などの来賓の方々、およびコミュニティセンターを利用するシリア人、トルコ人の方々、約40人が出席して下さいました。まず、当会理事長の長有紀枝が開会のスピーチを行い、トルコ政府とシャンルウルファ県政府に感謝の意を表明しました。トルコは2011年にシリア危機が始まって以降、193万人以上のシリア難民を受け入れ多大な支援を提供してます。また、AARの活動にも理解を示し、積極的にサポートしてくれています。続いて長は、シリア難民の方々が避難先で直面している言葉の壁や孤独感などの困難に触れ、コミュニティセンターが彼らや地域の方々の支えになれば、と述べました。

16歳のシリア人女性のスピーチ

コミュニティセンター利用者を代表して挨拶してくれた、16歳のシリア人女性

長とシャンルウルファ県行政関係者に続いてスピーチをしてくれたのは、センターを利用している16歳のシリア人女性です。「コミュニティセンターでは、トルコでの生活に欠かせないトルコ語や、国際語である英語を学ぶことができます。シリア人を代表して、日本の皆さんやAARにとても感謝していることを伝えたいです。今後は、手工芸等、直接仕事に結びつくような講座も開いて欲しいです。そうすれば私たちシリア人は、支援を待つのではなく、自分で生計を立てることができるようになります」と話してくれました。

トルコに逃れているシリア難民の子どもたちの多くは、言葉の違いなどの理由で、学校に通うことができていません。しかし、彼女をはじめシリア人の方々と話をしていると、教育を非常に重視する姿勢と、自立心の強さにはっとさせられることがしばしばあります。コミュニティセンターが、彼らの新しい学びの場となることを願っています。

セレモニーの最後を飾ったのは、子どもたちが歌うシリアの音楽です。シリア人の子どもと地域に住むトルコ人の子どもが元気いっぱいアラビア語の歌を合唱しました。7月からコミュニティセンターの音楽講座で練習を重ねてきた成果が発表でき、歌う子どもたちもとても楽しかったようです。また、トルコ人の子どもからは、「アラビア語で歌をうたうって、すごく楽しい!」という嬉しい感想も聞きました。今後もコミュニティセンターで、シリア人とトルコ人の交流を促すきっかけをもっと作っていきたいと思います。

合唱

アラビア語の歌を披露するシリアとトルコの子どもたち

集合写真

コミュニティセンタースタッフと。前列中央がAAR理事長の長有紀枝、前列左端がトルコ駐在員の宮越清美

「トルコ人の友達を作りたい」ハリル・マハッドくん(12歳・仮名※)
トルコ語講座の教室

トルコ語の講座を受けるハリル・マハッドくん(右)とお父さん(左)

ハリル・マハッドくんは、1年前に、両親、兄2人(16、13歳)、姉(14歳)、弟(1歳4か月)とシャンルウルファに避難してきました。

「故郷のハサカからデリゾールに避難していましたが、戦闘が激しくなってそこにも住めなくなり、トルコに逃げてきました。お父さんは、シリアでは薬剤師として働いていましたが、現在は無職です。トルコに逃げるのに乗ってきた車は、貯金がなくなったので、売り払いました。そのお金もいずれすぐに底をついてしまいます。トルコではシリア人学校に通っていますが、常に新しいことを学んでいきたいので、お父さんと一緒にコミュニティセンターのトルコ語講座を受講することを決めました。先生の教え方がとても上手で、学ぶのが楽しいです。まだトルコ人の友達はいないけれど、コミュニティセンターで絵画クラスができたら、参加してトルコ人の友達をつくりたいです」。

※シリアの政治状況に鑑み、登場する避難民の方々やその関係者に不利益の生じないよう、仮名を使っています。

周りの人とのコミュニケーションを大切に

語学教室にて、宮越清美

真剣に語学を学ぶ子どもたちと、授業の様子を見るトルコ事務所駐在員の宮越清美

シリアで紛争が始まってから4年半。母国を追われ国外に避難している人は400万人を超えました。そのうち190万人を超える人々が、トルコに逃れてきています。家族は離れ離れになり、避難先では孤立してしまっています。

こうした厳しい状況でこそ、他人との付き合いや、そこからの学びが重要だと感じます。家庭や学校・職場、友達や近所の人、親戚との付き合い。それぞれの「場」で、さまざまな人と接する中で、人は互いに学び合い、助け合い成長することができます。母国を追われ、学校に通うことができない、働く場のない人々にとって、コミュニティ センターがより良い「場」になるよう、これからもシリア難民や地域住民の方々、スタッフと協力してこのコミュニティセンターを発展させていきたいと思います。

これからもご支援いただけますよう、どうぞよろしくお願いします。

※この活動は、皆さまからのあたたかいご支援に加え、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受けて実施しています。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

トルコ事務所 宮越 清美

大学時代に中東地域文化を学ぶかたわら、在日難民の教育支援に携わり、国際協力に関心を持つ。大学卒業後、証券会社に勤務した後、国際協力NGOに転職。イランやヨルダンに駐在し、難民支援や教育支援に従事。帰国後、2013年10月にAARへ入職。タジキスタン事業担当などを経て、2015年4月よりトルコ駐在。宮崎県出身

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