第二の広島、長崎を生まないために
原爆の日を迎えて
8月6日に広島に、8月9日に長崎に原子爆弾が相次いで投下された年から、今年で70年。多くの一般市民を巻き込み、広島で約14万人、長崎では約7万人が犠牲となりました。その後の米ソ冷戦時代を経て現在に至るまで、人類は核兵器と共存することを余儀なくされています。
もし、人類が原子爆弾の開発を止めることができていたら、広島と長崎での言語を絶する非人道的な悲劇は起こらず、現在も核戦争の脅威にさらされることはなかったかもしれません。さまざまな兵器の中でも、人道的な見地から鑑みて、誕生させてはならない、開発段階から禁止すべきものがあります。AAR Japan[難民を助ける会]が現在予防的な禁止に取り組んでいる「キラーロボット」もそのひとつです。
新しい危険:キラーロボット
第2次世界大戦後、科学技術の発達に伴い、兵器の無人化が追及され実用化されてきました。近年では人工知能の研究が進み、一部の国で完全自律型の無人攻撃兵器「キラーロボット(殺傷ロボット)」の開発が進められています。
キラーロボットとは、自律的に周囲の状況を判断して移動し、攻撃を行う兵器のことです。今はまだ開発途上の段階ですが、実用化されれば、人間の判断なしにロボットが標的を選択し、人を攻撃、殺傷することが可能になり、さらなる無差別かつ過剰な暴力が発生する恐れがあります。キラーロボットの問題は大きく分けて以下の点が挙げられます。 攻撃対象の見極めが困難現在の技術では、機械が、戦闘員と非戦闘員や、女性・子どもをはじめとする市民、そして戦闘員の中でも降伏しようとしている者や負傷している者を見分けることはできません。状況や周囲の環境などを見極めて、攻撃が本当に必要な局面かどうかをロボットに判断させることも非常に難しく、必要以上の犠牲が生まれることが考えられます。 法的責任が曖昧キラーロボットによる被害が出た場合、誰が責任を取るのかという問題もあります。現在のところ、国際法も含め、キラーロボットを規制する法律や、使用に関する取り決めはなにもありません。 戦争を開始する敷居を低めるキラーロボットを使うことで、自軍兵士へのリスクと戦争にかかるコストが減ると、政治指導者が戦争を決断する敷居が低くなり、戦争や紛争が多発する恐れもあります。 |
キラーロボット禁止に向けての取り組み
2013年4月、このキラーロボットの問題に関心を持つNGOの世界的な集まりとして、「キラーロボット反対キャンペーン(Campaign to Stop Killer Robots)」が発足しました。AARは、発足当初からこのキャンペーンの運営委員(Steering Committee Member)を務めています。AARはこれまでも地雷やクラスター爆弾の問題に取り組んできました。1997年には地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)のメンバーとしてノーベル平和賞を受賞した経験があります。
地雷やクラスター爆弾とキラーロボットの最大の違いは、前者は既に世界中で使用されており、人道的に大きな被害をもたらしてきた点、そして後者はまだ開発途上であり、これから実用化されようとしている点です。
各国がロボット兵器技術に多くの投資をするようになってからでは、それを止めるように説得するのは困難を極めます。キラーロボットのもたらす被害を未然に防ぐため、今行動を起こす必要があります。
2015年7月28日(現地時間)、ブエノスアイレスで開催された「国際人工知能会議」(IJCAI)にて、自律型兵器の開発を禁止し、「軍事AI(人工知能)兵器競争」を防ぐよう求める 公開状 が発表されました。8月6日現在、2,588人の人工知能やロボット工学の研究者、そして15,000人を超える知識人が署名しています。
世界中のメディアがこの声明に注目していますが、残念ながら日本ではほとんど報道されていません。日本人の署名者も非常に少ない中、東京大学情報理工学系研究科の中村仁彦教授が署名されました。この公開状で、中村教授をはじめとした人工知能の研究者は、自らの研究対象が兵器として利用されることに反対の意を唱えています。
1人の地球市民として
日本は70年前、広島と長崎で、戦争と無関係な20万人にもおよぶ市民の命を一瞬で奪われる惨禍を経験しました。この悲劇を経験した国の国民として、新たな非人道的な兵器の開発を食い止め、将来の世代を守ることは、日本人の責務でもあるとAARは考えています。キラーロボットの問題は政治、または軍事だけの話ではなく、私たち市民社会が一人ひとり正面から取り組むべき人道問題です。
AARはこれからもキラーロボット反対キャンペーンの一員として、キラーロボットの開発、製造、使用を全面的に禁止する国際条約および各国の法律、政策の策定を働きかけていきます。
AAR Japan[難民を助ける会]
会長 柳瀬 房子
理事長 長 有紀枝
この声明の英文はこちらをご覧ください。
For the English version of this statement, please see:
【このプレスリリースに関するお問い合わせ】
担当:調査・研究担当 松本夏季
TEL:03-5423-4511