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トランプ政権は、対人地雷政策変更の撤回を

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AAR Japan[難民を助ける会]
理事長 長 有紀枝

米国・トランプ政権は1月31日、対人地雷の使用を朝鮮半島のみに限るとしたオバマ前政権の方針を撤回し、他の紛争地においても、いわゆる「スマート地雷」であれば使用や製造が可能になるとする方針を公表しました。
スマート地雷とは、自己不活性型・自己破壊型地雷とも呼ばれ、あらかじめ設定された一定の時間が経過すると、起爆しなくなったり、破壊したりする装置がついた対人地雷のことで、1997年の地雷禁止条約策定交渉が始まる前の、1996年のCCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)の再検討会議においても、民間人に与える被害は変わらないと、大きく否定され、オタワ・プロセスが始まる契機にもなったものです。
スマート地雷であっても、あらゆる製品に付随する不良品や誤作動の発生率に鑑みれば、民間人が晒される危険性に変わりはなく、当時、米軍の関係者からも、スマート地雷が敷設された地雷原は、たとえ、自己不活性化された後であっても、自軍の兵士を歩かせることはできないと、議論があがったものです。
今回の方針の変更は、これまでの国際社会全体の対人地雷廃絶に向けた動きに大きく逆行するのみならず、現在も再び深刻化している新たな犠牲者の発生に拍車をかけるものです。米国防総省の声明では、オバマ前政権の方針は米兵の命を犠牲にするものと批判していますが、今回のスマート地雷の導入こそ、まさに米軍部隊の命をも危険にさらすものです。
今回の方針変更に、対人地雷の廃絶活動、地雷除去、被害者支援に関わってきた団体として、強く反対し、再考・撤回を求めます。
AAR Japan[難民を助ける会]がメンバーである地雷禁止国際キャンペーン、また地雷廃絶日本キャンペーンではいち早く抗議の声明を発しています。

以下、AARの地雷担当の紺野誠二が、今回の方針変更の問題点を指摘します。

100万個に6個のリスク アメリカ政府の対人地雷政策の変更

世界最大のドナー国であるアメリカ

あまり知られていないが、アメリカ政府は世界最大の地雷対策のドナーである。ICBLが毎年、年間の地雷の使用状況や被害者数、除去の状況などをまとめている報告書「Landmine Monitor Report 2019(ランドマインモニター2019)」によれば、2014年から2018年の5年間にアメリカ政府は947.1百万米ドルの資金拠出をしている。2017年のアメリカの資金拠出先を受領国別にみると、トップ5はイラク(106.58百万米ドル)、シリア(63百万米ドル)、ラオス(30百万米ドル、コロンビア(21百万米ドル)、アフガニスタン(18百万米ドル)となっている。アメリカ国務省は「TO WALK THE EARTH IN SAFETY」(「安全に地球を歩くために」)という通常兵器の廃棄に関する報告書を毎年発行しているが、対人地雷を使用するようになれば、「安全に地球を歩く」ことができなくなってしまうであろう。対人地雷を使用する一方で、多額の除去費用を拠出するというのはどうも整合性が取れないように思える。これが第一の問題点である。

アメリカのことはアメリカ一国に限らない

対人地雷禁止条約には2020年1月末の時点で164ヵ国が参加している。他方、32ヵ国が参加しておらず、マーシャル諸島は1997年12月4日に同条約に署名しているが、未批准である。この条約の特徴的なところは、条約に参加していない国も何らかの形で実質的に影響を及ぼしている点である。例えば、ランドマインモニター2019によれば、対人地雷を新たに使用している国は1ヵ国である。つまり、世界中のほぼすべての国が対人地雷を使用しないという規範に従っているのである。アメリカ政府の政策変更は、この規範に逆行するにとどまらない。JCBLの声明で清水俊弘代表理事が批判するように、この条約には入っていなかった国が「アメリカがそうするなら、我が国もそうしよう」という方向に政策転換する余地を与えてしまうのである。これが第二の問題点である。

100万個に6個のリスクをどうとらえるか

第三の問題点は、現場の視点である。
2月2日付の読売新聞朝刊7面で、アメリカのエスパー国防長官の記者会見での発言として、「使用にあたっては「紛争終了後の民間人の安全に最新の注意を払わなければならない」とも述べた。」と報じている。実は新聞報道ではカバーされていないことがある。それは、「被害が生じない」とは一言も言っていないのである。むしろ、エスパー国防長官は被害のリスクを認識している、と思われる。アメリカ国防省が1月31日に発表した地雷政策では、「よく聞かれる質問(Frequently Asked Questions)」として、アメリカの地雷の安全性について挙げている。そこでは安全に対する信頼は非常に高いとしながらも、「事前に設定した期間を過ぎても作動するアメリカ製の地雷は100万個に6個しかない」と述べている(i) 。
実はこの考え方は、地雷対策の実務者の視点に立てば二つの点から非常に困ったものである。

まず、第一に地雷除去の観点である。もし仮にアメリカ政府の主張するような対人地雷が使用されたと仮定してみよう。私自身が地雷除去チームを率いるとすれば、当然、使用された場所を、その対人地雷が作動するかどうかに関わらず、すべて除去活動の対象にする。対人地雷の除去は、対人地雷を爆破処理する作業ではない。対人地雷が埋められているかもしれないと思われる場所の安全性を確認する作業である。なので、明らかにリスクがあるのであれば、その場所は全部調べることになる。そのための費用と時間はとてつもないものになる。
第二にその地域で生活する人の視点である。いつ爆発するか分からないものがあると分かっていれば、よほどのことがない限り、そこに入ることはしない。つまり、使用されたら、安全が確認されるまでその場所を使えるようにはならない、ということである。使用できない土地を増やしていくことになる。軍人は任務が終われば去っていく。しかしながら、地域住民はそこで暮らしていくしかない。それが現実である。
100万個に6個と言えば少ないと思えるかもしれないが、よく考えてみれば、対人地雷を使用しなければ作動するものは1個もない。上記のような心配をする必要性がまったくない。

世界中の多くの国が「対人地雷を廃絶しよう」として対人地雷禁止条約に参加しているのは、その精神、つまり、誰一人対人地雷で傷つかない世界を目指しているからである。当会は引き続き地雷廃絶のために活動していく。

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