活動ニュース

ザンビア:医療過疎地での挑戦

2016年08月08日  ザンビア
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「出産のために、炎天下を5時間も歩いて病院に行かなければならない妊婦がいます。歩いているうちに産気づき、何もない道端で、誰からの助けも得られず、出産してしまうこともあるんです」。これは、ザンビアの首都ルサカから南東にたった20キロほどしか離れていない地域での保健局員の話です。AAR Japan[難民を助ける会]が活動しているチサンカーネ地域の現状を報告します。

1万人にたった1つの診療所

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巡回診療に集まる女性たち(2016年4月13日)

チサンカーネ地域には、1万人以上が住んでいます。しかし、医療施設はチサンカーネ診療所1ヵ所しかありません。地域の最も遠いところから診療所までは75キロもの距離がありますが、交通手段も整っていないため、住民の移動手段はほぼ徒歩のみ。妊娠・出産や子育てにあたり、診療所に行きたくても、行くこと自体が難しい状況です。チサンカーネ地域の村で聞き取りをしたところ、10人中8人の女性が、自宅で医療者の介助なしに出産をした経験があり、また多くの女性が妊産婦健診を十分に受けていないことが分かりました。「できることなら医療施設で出産をしたい。でも、ここからは交通手段がないし、誰かに車を出してもらうにも、お金がないので難しいんです」と、村の女性が教えてくれました。

巡回診療を受けたくても...

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子どもの体重は木に吊るして計ります(2016年2月23日)

遠方に住んでいる住民のために、月1回の巡回診療が行われています。チサンカーネ診療所のスタッフがバイクや借り上げた車で各地へ移動し、学校などで場所を借りて、5歳未満の子どもの体重測定や予防接種、妊産婦の健診、家族計画の講習や避妊具の提供、HIV/エイズ検査など、さまざまな母子保健サービスを提供しています。しかしこの巡回診療も、うまくいっているとはいえません。本来は、各地にボランティアからなる地域保健委員会があり、会場の準備や子どもの体重測定、記録など、医療資格がなくてもできる役割を担うことによって、巡回診療の運営を補佐することになっています。しかし、チサンカーネ地域ではこうしたボランティアの活動が活発でなく、補佐をする人がほとんどいないため、診療所からの医療スタッフ2名ほどで、すべてのサービスを行っているのが現状です。

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妊産婦の健診の様子(2016年6月23日)




一度の巡回診療に200人近くの母親や子どもが来ることもあり、スタッフがどんなに懸命に対応しても、待ち時間はどんどん長くなってしまいます。一日ずっと待っていたのに、終了時間になってしまい、何のサービスも受けずに帰らなければならない人が出てしまうこともあります。待っている女性たちに話を聞いてみて驚いたのが、この巡回診療に来るために、なんと一日前から家を出て来る人もいる、ということ。

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多くの方がラファイナさんのように巡回診療を受けに遠方からやってきます(2016年4月19日)

ラファイナさん(19歳・写真左)は家が遠いため、巡回診療の前日に家を出て、会場近くの親戚の家まで歩き、そこで一泊してから来たといいます。月にたった一度の母子保健サービスを受けられるチャンスをとても大切にしているのだと感じましたが、一方で、そうした人たちがサービスを受けられずに帰らなければならないのは、どんなにやるせないことかと胸が痛みました。
また、妊娠・出産や子どもの健康について、地域住民が必要な知識を持っていないことも課題のひとつです。住民に聞き取りをした際、妊産婦健診はいつまでに何回受けるべきか、妊娠中にどんな兆候があったら危険のサインなのか、といったことを知っている人はほとんどいませんでした。

母子の健康を守るプロジェクト始動!

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血圧測定の方法を指導する駐在員の有原美智子。左奥は筆者(2016年6月29日)

こうした状況を改善するために、AARは今年2月から、チサンカーネ地域の母親と子どもの健康を守るためのプロジェクトを始めました。このプロジェクトは3年間かけて実施するもの。1年目の今年は、新たな診療所を建設したり、巡回診療でのサービスをよりよいものにするために地域保健委員会が機能するようにしたりと、基盤づくりに力を入れます。プロジェクトを始めるにあたって、村長に集まってもらい、内容を説明したところ、私たちのアプローチに深く共感してもらえました。地域保健委員会メンバーのボランティアは、多くの場合村長から任命されるのですが、プロジェクト開始後にはほとんどの村で増員されました。これまでは各委員会に数人ずつしかメンバーがいなかったことを考えると、前向きな一歩を踏み出すことができたといえます。

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「研修を通じて新しい視点に気づくことができました」(2016年5月17日)

5月には、各委員会のリーダーを対象に研修を実施しました。研修では、委員会を活発に運営していくために必要なリーダーシップ・スキルの講習や、グループ内で問題が発生したときにどのように解決するか、といった議論を行いました。研修に参加したダニーさん(写真左)は「ほかのメンバーとどのようにして協力して働くか、学ぶことができました。これまでは一人で働いていましたが、グループとして働くという視点に気づくことができたと思います」と話してくれました。そして6月末には、委員会メンバーに対し、巡回診療を補佐するための技能研修を実施。子どもの体重の測り方や記録フォームの書き方、血圧測定の方法などを学びました。研修後に早速、巡回診療の準備をするためのミーティングを自発的に開いた委員会もありました。今後、メンバーには、地域の母親と子どもの健康状態を見守り、妊娠・出産に関する正しい知識を伝えることができるようにするための研修も行います。今後、頼もしいメンバーたちと、巡回診療や、地域の母親たちへの呼びかけを一緒に行っていくことが楽しみです。

※この活動は、皆さまからのあたたかいご支援に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力とリコー社会貢献クラブFreeWillのご寄付を受けて実施しています。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

ザンビア事務所 粟村 友美

2014年5月より現職。大学卒業後、小規模農民支援NGOでのインターン、民間企業などを経て2013年5月にAARへ。東京事務局でハイチ、東北事業などを担当。石川県出身

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