ザンビア:巡回診療を支える地域ボランティア
AAR Japan[難民を助ける会]は、ザンビアの首都ルサカから南東に車で1時間ほどの場所に位置するカフエ郡チサンカーネ地域で、2016年2月から母親と子どもの健康を守るためのプロジェクトを行っています。チサンカーネ地域の医療過疎地に昨年診療所を建築し、ザンビア保健省から派遣された助産師とともに、より多くの妊婦と赤ちゃんに医療サービスを届けるために活動しています。今回は、診療所で働く助産師をサポートする地域ボランティア(地域保健委員会)の活動支援について、ルサカ事務所駐在員の金森大輔が報告します。
待ち望まれた巡回診療
チサンカーネ地域では、診療所から遠く離れた場所で暮らす赤ちゃんとお母さんのために、ザンビア保健省から派遣された助産師が巡回診療を行っています。
診療の際は、村の住民から成るボランティアが助産師の診療を手伝っていますが、医療人材が不足するザンビアではそのような地域ボランティアの働きは欠かせないものになっています。医療過疎地の場合、一回の巡回診療に100人以上の妊婦さん、5歳未満の子ども、お母さんたちが集まります。それだけの人を、助産師1人が診療や検査を行っていると時間がかかりすぎて日が暮れてしまいます。そんなとき、巡回診療補佐の訓練を受けたボランティアたちが検査や記録の補佐を行うことによって、助産師は限られた時間の中で効率よく診療を行うことができます。地域ボランティアの助けがあるからこそ、助産師はより多くのお母さんと子どもたちを診療することができるのです。
地域ボランティアの仕事は診療の補佐だけではありません。いつどこで巡回診療を行うかを、遠く散らばる村々に知らせる役目も担います。携帯電話の電波も届かない場所なので、人が直接足を運んで情報を伝達しなければいけません。そのため10数キロ離れた村々に、地域ボランティアの人たちは私たちが提供した自転車を使い、メガフォンを持って、巡回診療が行われる場所と時間の告知を行ってくれています。
地域ボランティアの中には女性だけではなく多くの男性もいます。男性が母子保健の活動を行うことによって、地域のお父さんが妊娠や出産、子育てについての正しい知識を持ち、妊婦のケアや育児に協力するようになるために一役買っています。地域ボランティアは無償で活動しているため、高いモチベーションがないと、辞めてしまう人もいます。その中で、長年活動しているボランティアのメンバーは、「伝統的なまじないや薬草などに頼るのではなく、遠隔地に住むお母さんと赤ちゃんに医療を届け、より多くの妊婦と赤ちゃんの命を救いたい」という強い思いを持って活動しています。
AARでは、地域ボランティアの方々に対して、巡回診療を補佐するのに必要な技能を身に付けるための研修、母子保健推進研修などの研修を実施しています。巡回診療を補佐するのに必要な技能研修では、適切な赤ちゃんの体重の測り方、5歳未満児の検査や予防接種のための記録票の記入の仕方、また子どもの身体的発達の程度に異常がある場合などにどういった対処をすれば良いかなどを学びます。地域ボランティアのグワンダさんは、「診療所が近くになくて、村の妊婦が医療施設に行くまで何時間も歩かなくてはならないという距離の問題がずっとあったので、私たちの地域ボランティアとしての活動を通して、村の人たちと医療サービスの橋渡しをしたい」と話してくれました。
今年11月始めに行う予定の母子保健推進研修では、地域ボランティアが妊娠時の危険兆候や母乳育児、新生児の体調不良の兆候や対処法、母子保健全般にかかる知識・技能を習得します。同時に、地域ボランティアが担当地域特有の母子保健の課題を把握、分析し、解決策を見出す方法も学びます。コミュニティのため、家族のために一生懸命活動する地域ボランティアとともに、これからもザンビアの母親と子どもの健康を守る活動を続けてまいります。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ルサカ事務所 金森 大輔
2016年11月よりザンビア事務所駐在。大学卒業後、民間企業での勤務の傍ら、スポーツを通じた東北の被災地支援にも従事。イギリスの大学院へ留学し、ルワンダ内戦の復興プロセスなどを研究。フランスへの語学留学などを経て、「国際社会の中で日本人として何ができるかを考えていきたい」とAAR へ。「ザンビアにおける赤ちゃんや妊産婦さんの高い死亡率を少しでも下げられたら」。趣味はサッカー、フットサル。山口県出身