TICAD(アフリカ開発会議)閣僚級会合 参加報告
来年8月の横浜でのTICAD会合に向けて
10月6日と7日、東京都内でTICAD閣僚級会合が開かれ、アフリカ52ヵ国からの代表と、世界銀行や国連開発計画(UNDP)をはじめとする国際機関および地域機関、また市民社会の代表、民間企業が参加しました。
TICAD(アフリカ開発会議, Tokyo International Conference on African Development)とは、日本政府が主導するアフリカ開発に関する国際会議のことをいいます。1993 年に第一回目が東京で開催されて以来、2013年のTICAD Vまでは5年に一回、それ以降は3年に一回の会議となり、次回は2019年にTICAD VIIが横浜で開かれることが決まっています。この会議で合意された行動計画の実施状況を確認するため、毎年、各国の外務大臣級の代表が集う閣僚級会合が持たれています。今回は、来年8月のTICAD VIIに向けて、前回2016年にナイロビで開かれたTICAD VIで話し合われた行動計画の進捗を確認するとともに、現在の潮流と課題を踏まえて、経済開発、社会開発、またアフリカ域内やその他の地域とのネットワークの重要性などについて話し合われました。
アフリカの市民社会代表と連携
AAR Japan[難民を助ける会]は、アフリカ開発に関する政策提言や日本国内でのイベント開催等を通じてTICADを広める活動をしている、「市民ネットワーク for TICAD」(通称"Afri-can")のメンバーです。Afri-canでは、アフリカの市民社会代表と連携して、TICADのプロセスが多様なステークホルダーに対して開かれたものであるように、またTICADでの議論が経済開発中心に偏ることなく、保健や教育、女性の権利など社会開発の課題や、環境問題についてもしっかりと話し合われるよう、意見書をまとめて政府や国際機関に提言するなど活動しています。
TICADは、Afri-canに参加しているそれぞれの団体が、アフリカ現地での活動を通じて認識している課題(特に、もっと取り組みが必要なのに資金や公的機関による支援が足りない分野)について、政府や国連機関、市民社会が協働して取り組んでいくべきとの意見を表明する場として、大切な機会です。閣僚会合で発表する提言をとりまとめるために、日本とアフリカのNGOが、医療や水衛生、紛争予防、人権などそれぞれの専門分野の知見を活かしつつ、調整を重ね準備してきました。
「人間の安全保障のための健康で,持続可能で安定した社会」
2日間に及んだ会議では、「TICAD VI以降の開発動向と課題」「包摂的な成長に向けた経済構造転換」「人間の安全保障のための健康で持続可能で安定した社会」「アフリカ域内及び域外との連結性の強化」という4つの全体会合が開かれて幅広い議論が行われました。
AAR はこのうち、Afri-can内で調整し、難民支援や障がいのある方への配慮など、会の活動に関係の深い、社会的な開発が重点的に話し合われる「全体会合3:人間の安全保障のための健康で,持続可能で安定した社会」に、市民社会代表枠(各会合10人)の一人として参加しました。
会合3に参加したアフリカ各国のほとんどの代表が触れていたトピックが、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage, UHC)の推進と、その実現に必要な人材育成、資金調達の重要性でした。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは、全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態を指します(世界銀行参照)。また、アフリカの発展のためには若者と女性のエンパワーメントが重要であることも強調されました。
開発の社会的側面が議論される全体会合3は、市民社会としても非常に重視しており、あらかじめ願い出て、アフリカのNGOの代表が、アフリカと日本の市民社会を代表して意見を表明しました。主な内容としては、①TICADのプロセス全体に、市民社会組織が着実かつ効果的に参加すること、②障がい者や先住民族、難民・国内避難民を含むより脆弱な立場にある人々も対象にした教育の推進、③特に女子教育に関連して、学校や地域で保健と教育の取り組みを一緒に進めること、③偏見やヘイトスピーチを防ぐことによって暴力的な過激主義を撃退していくこと、④難民・国内避難民が医療や基礎教育にアクセスできるような人権の補償、⑤難民受入国・地域への支援と難民の自立支援などを、優先的に取り組んでいくべき分野として提言しました。特に④と⑤は、ケニアやウガンダ、ザンビアなどで難民、元難民の支援に取り組むAARが、現場で直面している必要性をもとに、アフリカの市民社会代表にも積極的に働きかけて盛り込んだ課題です。
なお、その他の会合では、中小企業への支援、農業生産性の向上、科学技術イノベーション(STI)の推進(以上全体会合2にて)、アフリカと他の地域のネットワーク強化のための文化やスポーツを通じた交流の取り組み(全体会合4にて)など、様々な課題が話し合われました。それらの内容の詳細については、外務省のホームページを、市民社会の提言の詳細にいてはAfri-canのホームページ上の報告をご参照ください。
本会合において、またその前日に市民社会主体で開催したサイドイベントにおいて、日本とアフリカのNGOが重視するアフリカの開発の課題について、広く発信できたこと、また様々な国際機関や政府の担当者と意見交換の場が持てたことは大きな収穫だったといえます。これらの提言が、来年のTICAD VIIに向けてTICAD全体の合意文書や計画に確実に反映されていくように、これからも国内、アフリカのNGOと協力して見守り、働きかけてまいります。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 広谷 樹里
大学卒業後、アフリカのケニアでNGOのインターンとして活動。企業勤務を経て2009年1月よりAARへ。広報担当およびパキスタン事業担当等を経て、2012年6月から2013年9月まで南スーダン駐在。2014年に一度AARを離れ、イギリスの大学院、政府系開発機関での勤務の後、2018年1月より再びAARへ。ウガンダ事業等を担当(神奈川県出身)