ついに最終回「ナッジ的SDGs体感セミナー」を開催しました
「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」に具体的に取り組むためのヒントを多くの方々に得てもらおうと、AAR Japan[難民を助ける会]が薬樹グループの全面的なご協力のもと開催してきた4回連続の「ナッジ※的SDGs体感セミナー」。過去3回は、「NGO」、「企業」、「行政」の視点からSDGsについて学び合いました。最終回となる第4回目は「社会起業家」の視点で2019年1月11日、薬樹株式会社の青山オフィス(東京都港区)で行いました。企業関係者や学生など、合計34名の方々が参加くださいました。
※「ナッジ」(nudge)とは、「ひじで軽くつつく」という意味。強制せずに対象者を自発的に好ましい方向に誘導する仕掛けや手法のことで、経済学者のリチャード・セイラー博士が提唱した、行動経済学の概念です。
ささやかな行動が変化をもたらす
前半の講演は、特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス理事・創設者の鬼丸昌也氏から、「途上国の課題の本質と日本の日常生活においてできる貢献」というテーマで、元子ども兵の社会復帰支援などを例に、紛争の原因と私たち先進国の暮らしとの関わりや消費のあり方について、お話しいただきました。
鬼丸氏は、学生時代にカンボジアを訪れ、地雷被害の悲惨さを知り、地雷問題解決のために2001年に同団体を設立。その後、カンボジアで、かつて子ども兵にされた人たちが紛争後もトラウマに苦しみ続けていることを知ったのを機に、この問題の解決に取り組もうと決意。当時内戦が進行中だったウガンダ北部、その後コンゴ民主共和国へ飛び、以来、職業訓練、識字教育、心のケアなどを通じて、2006年から現在までに、ウガンダにおいて208名の子ども兵の社会復帰を支援してきまし た。
その一方で、コンゴ内戦の原因である、レアメタルやレアアースとも呼ばれる希少金属や金などの鉱物は、日本を含む先進国でスマートフォンやパソコン、ハイブリッド車などに使われています。
いくら支援をしても、そうした商品を使い続ける限り、自分自身が子ども兵の生まれ続ける原因となる、というジレンマに直面した鬼丸氏は、自分が手にする電子機器などが、適切な経路で入手された材料による商品かを調べたり、そうした商品を選ぼうと考えました。その考えを講演先で伝えたところ、ある主婦が国内のすべての携帯電話会社に紛争鉱物の使用を尋ねる手紙を送り、各社のサプライチェーンの見直しを促した事例を紹介。「一人の行動が変化をもたらす」ことを強調されました。ほかにも、自分のお金を預ける金融機関が軍事産業に投資をしていないか意識するなど、調べれば自分にできることはたくさんあると紹介し、SDGsについても"自分ごと"として考え、行動する大切さについて話されました。また、そうした市民の意識の変化が企業や政府を動かす例として、 紛争鉱物による商品を購入しないよう求める広告を作った市民グループや、オバマ政権下の米国で成立した 金融規制改革法(ドット・フランク法:上場企業は紛争鉱物を使用した製品を製造、委託製造していないかを報告することを義務付ける法律)により、コンゴ産の紛争鉱物の利用企業が減った例などを挙げられました。最後に、SDGsによってまず変わるのは自分であり、自社であり、自国である、それにより世界が変わっていくと強調されました。
「今の自分に何ができるか、常に問いかけて」
後半の対談ではゲストとして特定非営利活動法CANPANセンター代表理事の山田泰久氏にご登壇いただきました。
山田氏は、SDGsとは全世界的な壮大なる社会実験であるとし、またSDGsの17の目標はどれも普遍的で相互に関連しており、例えば鬼丸氏の話にあったウガンダやコンゴの子ども兵の問題は、教育やジェンダーなどの課題に関連すると説明されました。また、遠い国のできごとと思われることが実は日本の日常生活ともつながっており、それをどう解決するかを一人ひとりが考え抜き取り組むことが大事であると話されました。
企業のCSR担当者に対しては、テラ・ルネッサンスの活動が常に改善を繰り返し、支援のノウハウを蓄積してほかの課題でも解決できるような手法に落とし込んでいることを評価された上で、自社や自団体でSDGsをどう解決できるのか、自分たちなりの方法を見つけること、また組織間でつながることも解決の糸口になると話されました。
鬼丸氏は、CSRの取り組みの社内浸透に悩む企業担当者へのアドバイスとして、「人の記憶は薄れやすいので、定期的に社内に情報発信していくことが必要。年1回の報告会よりは、小出しでも良いので回数を増やすと社内浸透率は必ず上がる」といった具体的な方法を紹介されたほか、今回のセミナーでの出会いなどを通じて、相談できる相手をたくさん作っておくとよいと話されました。
SDGsの目標を達成するために何から始めればよいかわからない人へは、鬼丸氏はご自身の経験を紹介しつつ、「自分が今関心のあることについて調べたり、課題解決に取り組んでいる個人や団体を応援すると良い。また、人とのつながりを大事にすることで、そこから自分にできることが見つかるかもしれない」と助言。
今日聞いたことをどう周囲に伝えるかという質問に対しては、「あまり熱く語りすぎないこと、一番心に残ったストーリーを伝えること、関連団体のWebサイトや講演会に誘うと支援の輪が広がりやすい」と答えられました。山田氏からも、感動を自分の中だけに留めず言葉にして発信することで、自分自身にも気づきがあるというお話がありました。山田氏と鬼丸氏は、つながることの大切さをあらためて強調され、鬼丸氏は「一人、一企業や一団体、一つの国で変わるほど世界は単純ではない。だからこそつながることが大事」と話されました。
参加者からの、「SDGsを"自分ごと"にするには何が必要か」という質問に対して鬼丸氏は、「自分の生活との関連性を考えることが大事。毎日はしんどいので少しずつでもよいので続けること」と答えられたほか、「SDGsは、どの社会課題に関わればよいかを考える目安。今自分にできることを常に問いかけてほしい。そのときできないなら留保してよい。できるタイミングは必ずくる。いつかあなたを必要とする人に出会うのだから、そういう力を信じてほしい。私たちは微力だが無力ではない」という力強いメッセージをいただきました。
セミナーの最後には、参加者全員にこれから目指したい社会をワールドシフト※2にご記入いただき、参加者同士で共有しました。
参加者の皆さまからのアンケートでは「SDGsを達成するために、自分ができることを見つけられそうな気がした」「参加者同士で話せてよかった」「自分にできることを少しずつ継続することが持続可能な社会を作っていくのではと思った」などの嬉しいコメントをいただきました。
最終回には、初回のゲスト対談者である一般社団法人SDGs市民社会ネットワークの新田英理子氏、第2回講師・エーザイ株式会社ESG推進部の飛弾隆之氏、そして第3回の講師を務めてくださった厚生労働省の水野嘉郎氏も駆けつけてくださいました。
4回のセミナーすべてにおいて、企画から会場提供、チラシ作成、集客にいたるまで支えてくださった薬樹株式会社と、同社が設立したNPO法人Liko-netに心より感謝申し上げます。またご来場くださったすべての皆さまに心より御礼申し上げます。SDGsを単なる標語で終わらせずSDGsの目指す世界を実現するために、これからもAARは活動してまいります。今後とも、皆さまのお力をお貸しください。
参加者の皆さんからのワールドシフト宣言はこちらからご覧ください。
※2 ワールドシフトとは、「あなたはどのような世界を望みますか?」という問いかけのソーシャルムーブメント。「ワールドシフト宣言ロゴ」に、一人ひとりが、どんな世界を望むかを書き込み、自ら「世界を変える」ことを宣言することで、社会変革が「自分ごと」になっていきます。(WorldShift Network Japanホームページより)
第3回セミナーの報告はこちらから。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 伊藤 美洋
1996年よりAARで広報・渉外・チャリティ商品を担当。大学を卒業後、4年半の企業勤務を経てAARへ。3児の母。東京都出身