東日本大震災:親子で思いっきり体験「西会津ワクワク子ども塾」
3/21(木・祝)トークイベント「震災から8年―逆境を乗り越えた復興の軌跡―」午後1時~ (東京・JICA地球ひろば セミナールーム600) |
AAR Japan[難民を助ける会]では、福島県の親子を対象とした1泊2日の宿泊体験イベント「西会津ワクワク子ども塾」を開催しています。2011年3月の原発事故以降、屋外で遊べなくなった子どもたちが、狭い仮設住宅などの環境から離れて放射線量の低い地域でのびのび過ごしてもらおうと、2012年7月より活動を開始しました。現在では、震災の風化防止や地域交流などを目的に継続して開催しています。2019年2月16~17日は第26回目の「ワクワク子ども塾」を行いました。AAR広報・支援者担当の鎌田舞衣が報告します。
歴史や文化を学び体験する
今回は相馬市から小学6年生以下の子どもがいる10家族30名が、西会津町からは3家族10名が参加されました。2月16日、相馬市の親子が乗ったマイクロバスが西会津町の隣町、喜多方市の施設「カイギュウランドたかさと」に到着しました。
「カイギュウランドたかさと」は、廃校となった小学校を利用した博物館です。喜多方市・高郷町で発掘されたカイギュウ(ジュゴンの仲間)やクジラ、貝類などの化石や骨格標本などが展示されています。係員の方が展示品について丁寧に解説くださり、理解が深まりました。
また、化石発掘にも挑戦しました。実際に化石が出る地層で採取された大きな石から化石を探し出す、というものです。軍手や防護メガネなどを装着し、ハンマーとタガネ(金属や岩石を加工する道具)を使って一心不乱に石を割ります。部屋の中には砂埃と、石を割る音が響き渡りました。この日の会津地方の最高気温は1.8度(最低気温は-5.1度)。外はあたり一面雪景色で、室内も上着が必要なほどの寒さでしたが、ハンマーを振り続けること1時間。すっかり暑くなり、上着を脱ぐ子どもたちの姿が見られました。参加者に感想を伺うと、「実際にやってみたらすごく疲れたし、考古学者とかスゴイなって思いました」「暑いです!」と、汗をかきつつ元気に答えてくれました。小さな巻き貝や手のひらサイズの大きな貝殻、宝石になりかけの石の化石など、全員が化石を見つけられました。
発掘体験を終え、西会津町の宿泊施設「ロータスイン」に到着。この2日間は、食事も自分たちで作ります。料理が得意なお母さんも、家では包丁を持たないという子どもも、チーム皆で力を合わせて取り組みました。当塾の活動に何度もご協力くださっている地域の皆さんから、会津地方の郷土料理「こづゆ」の差し入れもありました。「こづゆ」は、内陸の会津地方でも入手が可能な、海産物の乾物を素材とした汁物です。参加者の皆さんからは、「このあたり(会津地方)は、移動の途中で通過したことは何度もありますが、ゆっくり訪れたのは初めてです。こづゆも初めて食べました。美味しくて、何度もおかわりしてしまいました。レシピが知りたいですね」「全部おいしくて、1番を選べません!」など、大満足の感想をたくさんいただきました。
大人も子どもも大はしゃぎ
2日目を迎え、いよいよ子どもたちが心待ちにしていた雪遊びです。早朝は晴れていましたが、次第に雪が降り始めました。自分の身長よりも高く積み上げられた雪山や屋根から生えている「つらら」を見て、吹雪く屋外でも子どもたちのワクワクは止まりません!中でも一番人気は、今回の目玉であるスノーモービルです。雪の中を颯爽と走るスノーモービルを見て、最初は遠慮していた子どもたちも一人、また一人と挑戦していきました。「超速くって、雪が顔にビシビシあたった!」という言葉通り、最高速度は時速80キロにもなるそうです。自分で運転してみる親御さんもいらっしゃいました。
福島県の浜通りにある相馬市でも雪は降りますが、沿岸地域は温暖な気候のため、あまり積もりません。何の足跡も付いていない積雪の上に飛び込む子どもたちに続き、ご両親も続いてダイブする姿も見られたりと、大人の皆さんも童心に返り楽しんでいただけたようです。
蕎麦打ち体験とスカットボール
思う存分に体を動かした後は、お昼ごはんのための蕎麦打ち体験です。バスに揺られること数分、「ふれあいランド高郷」に到着。蕎麦どころの会津で、高郷地方のそばは通を唸らせる格別の存在とのこと。特徴は、つなぎ無しで手早く打ち上げる点です。これを楽しみに参加された方もいらっしゃいました。初めて目にする蕎麦打ち名人の技に、「おぉ~!」と声が上がります。
家族やお友だちと交代しつつ、名人のご指導を受けながら取り組みました。自分たちの手で打った蕎麦は格別のおいしさ。そばをすすったお父さんが一言、「うん、うまい」。弾力があり、のど越しのよいお蕎麦でした。
最後を締めくくるのは、「スカットボール」です。ゲートボールのような、ボウリングのようなこのゲームは、当塾ではもはや恒例となっています。一人につき5球、点数の異なる穴をめがけて打ち、その合計点で競い合います。パーフェクトを決めた方もいましたが、いつの間にか競い合いよりも、目の前の1球が入るかどうかを見守り、一喜一憂する一体感に包まれていました。特定非営利活動法人「松川浦ふれあいサポート」の皆さんがご用意くださった景品をお土産に、第26回目の「ワクワク子ども塾」は幕を閉じました。
放射能の心配は消えず...
参加した親御さんからは、「子どもだけのイベントの誘いはあるんですが、親子で参加できたのは初めてです」「2日間、ただ楽しみました!」」とイベントについての温かい言葉をいただきました。同時に、今の生活について「放射能が未だに心配です」「子どもには、震災の記憶はありません。大人も、少しずつ落ち着いてきているように思います。一方、未だに食べ物や外遊びに不安がある方もいるんですよ」という声も聞かれました。
間もなく、震災からまる8年を迎えます。福島第一原子力発電所から50kmにある相馬市は、放射能による汚染と津波による被害を受けました。震災による爪痕が見えづらくなり、人も町も少しずつ日常を取り戻しているように見えますが、放射能に対する心配が解消されたわけではありません。そうした方々が思いきり身体を動かせる場を提供するとともに、震災の風化を防止し、地域交流が促進されるよう、AARは引き続き「西会津ワクワク子ども塾」を開催してまいります。
※この活動は、皆さまからのご寄付に加え、公益財団法人住友財団からの助成により行っています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 鎌田 舞衣
2016年9月より東京事務局で広報・支援者担当。大学院卒業後、学童保育の指導員として勤務。東日本大震災発災後、故郷の岩手県の子どもたちのことが気にかかり、NGOに転職。4年間、陸前高田市の仮設住宅などでの子ども支援に携わる。所属団体の東北支援終了を機にAARへ。岩手県出身