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トルコ:シリア難民支援 障がい者も参加できるコミュニティづくり

2019年04月01日  シリア難民支援トルコ
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AAR Japan[難民を助ける会]では2012年よりトルコで暮らすシリア難民への支援を開始し、シャンルウルファ県、マルディン県および都市型難民の多いイスタンブール市において、困窮する難民のなかでも特に脆弱性の高い方々を対象に支援しています。
1軒1軒、難民の方々が暮らす家を訪問し状況を調査。必要に応じて、トルコ政府やさまざまな機関から受けられる支援や法的な手続きに関する情報の提供、生計・就学・就労支援などを実施し、障がいのある方々へは、車いすなどの補助具やリハビリテーションを提供しています。また、シャンルウルファ県ではコミュニティセンターを、マルディン県ではチャイルドフレンドリースペース(子どものための施設)を運営。女性や子ども向けに手芸教室や音楽のクラスなど、さまざまな活動を提供し、難民の方々が地域のシリア難民やトルコ人と交流する機会を設けています。

シャンルウルファ県で実施しているコミュニティ作りについて、障がい者支援の専門家である河野眞(AAR理事)が報告します。

たくさんの子どもたちが遊んでいる様子を見守る母親たち

障がいのある子どもたち向けのセッションの様子。日ごろ外出する機会の少ない子どもたちは大喜び(2018年12月18日、すべてトルコ・シャンルウルファ)

トルコに暮らすシリア難民の20~25%に障がいが

現在も続くシリアの混乱が始まったのは東日本大震災と同じ2011年でした。この間の8年という時間は子どもが誕生し小学生になる年月を越える長さであり、混乱の中で何とか日々の暮らしをつないでいる人たちにとって、あまりにも長いと言わざるをえません。
特に、障がい者はこのような混乱の中でより過酷な状況に置かれやすいといわれます。それには、障がいの直接的な影響や、混乱下で障がい者への支援が後回しにされやすいことなどさまざまな理由が考えられますが、いずれにせよ困難な状況が長く続いていることになります。

トルコで暮らすシリア難民についての正確な統計データはありませんが、当会がこれまでに活動を通して得た情報やほかの支援団体の情報から、難民の20~25%に障がいがあると推計されます。これはWHOが推計する世界平均15%を大きく超える数字です。このような障がい者の多さには戦闘に直接起因する障がいや、紛争による治療の中断などが理由として考えられます。

外出する理由がない。顕著な社会参加の制限

障がい者が難民として暮らす上での困難は多岐に渡りますが、特に社会参加の制限は顕著です。就職や教育の機会が限られるだけでなく、自宅から出る機会すらなく日々を送っているケースも珍しくありません。
AARが、トルコで障がい者も参加できるシリア難民コミュニティづくりに取り組む理由の一つに、このことがあります。生活必需品や車いす・杖など補助具の直接的な提供はもちろん障がい者の生活を助けるものではありますが、それだけで社会参加が促進されるわけではありません。

なぜなら、支給された車いすや杖で外出は可能になりますが、彼らには外出すべき場所・外出して取り組むべき役割・外出して集うべき仲間・外出する理由がないからです。そこで、AARでは障がい者も参加できるコミュニティを形成し彼らの社会参加を促進する活動を展開しています。

大勢が丸くなり、公園で歌をうたっています

障がいのある子どもたち向けのピクニックイベントを開催しました(2018年5月1日)

AAR職員が、手芸品を手に取り説明。それを聞いている子どもたち

障がいのある子どもやその家族が作成した手芸品の展示会に行きました(2018年12月10日)

主体性を持って取り組んでもらう

その中で、障がい者を含むシリア難民が自分たちの生活上の問題に取り組む委員会を設立しました。そして、彼ら自身が自分たちが暮らす地域の問題を分析し、自分たちで実施可能な解決策を検討し、実際に解決に取り組むことをAARのトルコ事務所職員とともに行っています。

この活動では、障がい者を含む難民たちの主体性が非常に重要です。なぜなら当会を始めとする支援団体は遅かれ早かれ撤退しますが、その後も自立的で活動的なシリア難民コミュニティが残るには、今の段階から彼らが主体性を持つことが重要となるからです。あるいは、人を受動的にする援助は結局その人を弱めてしまう、ということもあるかもしれません。
活動の中では、例えば障がい児の母親たちから「家計の足しにするために働きたいが、子どもの面倒を見る必要があって外では働けない」という困りごとが出てきます。そして、自分たちに可能な解決策として「家で作った手芸品を販売する」という案が挙げられました。もちろん、皆が手芸上手ではありません。すると、参加者の中から自分が手芸を教えられるという人が出てきます。また、販売方法の検討を促すと、完成品をもって商店に営業に行くという人が現れ、解決策がかたちになっていきます。

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地域に住む障がい者たちに日々直面する課題について話し合ってもらいました(12月26日)

コミュニティを営む力を

自分たちで自らの生活上の問題に取り組む活動は、彼ら自身の中に解決策を見出すことを促します。それは、長い期間、故郷を離れ過酷な状況下で支援に頼る生活をおくることによって、無力感に支配され自信を失っていた人たちが自分たちの能力を再認識し自信を取り戻すことに繋がります。そして、その過程でコミュニティとしての紐帯も強まります。
そこで培ったコミュニティを営む力は現在のトルコでの生活に活きるだけでなく、いつの日か母国への帰還を果たした暁に、故郷でのコミュニティの再建にも活きると期待しています。

成人男性が真剣に議論している

地域に住む障がい者たちに日々直面する課題について話し合ってもらいました(12月26日)

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

 河野 眞(AAR理事)

国際医療福祉大学成田保健医療学部教授・AAR理事。作業療法士として病院勤務後、青年海外協力隊員としてマラウイへ。帰国後、栃木県の特別支援教育などに従事。2010年以降AARの事業に専門家として参加し、東日本大震災被災地、タジキスタン、ミャンマーなどで活動。2015年よりAAR理事。福岡県出身

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