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パキスタン:支え合って新型コロナの苦境を乗りきる

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AAR Japan[難民を助ける会]パキスタン事務所は9月、新型コロナウイルス緊急支援として、政府による外出制限などの影響で困窮した障がい児の住む家庭130世帯を一戸ずつ訪問し、支援物資を配付しました。AARの事業地であるハリプール郡で実施したこの活動は、自らも障がいのある子どもを育てる地域の保護者たちも協力してくれました。AARハリプール事務所のシブハ・ムクタルからの報告です。

辛い状況を話す。それが互いの支えになる

白のヒジャブ(頭部などを覆う布)をまとったシャヒーンさんと、オレンジのヒジャブをまとったシブハがソファに座りこちらを向いている

シャヒーン・アーシフさん(右)と、AARハリプール事務所のシブハ・ムクタル(2020年9月21日)

「これまで、たくさんの困難な状況にある家庭を訪問しました。それぞれの家庭で話を聞くうちに、大変なのはみんな同じ、だからこそ支え合わなければならないのだと思いました」。 シャヒーン・アーシフさん(45歳)は3月から、AARが設立した地域に住む障がい児の家庭をサポートするボランティアチームに加わりました。10人のメンバーからなるチームは、各家庭を数ヵ月おきに訪問し、生活相談や子どもの就学支援などを主に行っています。4~5月に実施した新型コロナウイルス緊急支援や今回の支援物資の配付では、メンバーに一日当たり1000ルピー(約650円)の謝礼を支払い、各家庭への物資配付を担ってもらいました。

車いすに乗った男の子、椅子に腰かけた両親と一緒に写るシブハ 子ども以外は感染予防のマスクを付けている

支援対象家庭を訪問するシャヒーン・アーシフさん(左)と、AARハリプール事務所スタッフのシブハ・ムクタル(右奥)(2020年9月3日)

シャヒーンさん自身、コロナ感染拡大の影響を大きく受けた一人で、AARの支援対象者でもあります。もともと、中東アブダビ(アラブ首長国連邦)に出稼ぎに出ている夫が、シャヒーンさんを含めた4家族17人の家計を支えていましたが、今春以降は収入が半分以下に減り、8月からは送金が途絶えてしまいました。シャヒーンさんは、家庭では足が不自由な三女(12歳)ら4人の子どもと持病を抱えた叔母の世話をしていますが、現在はさらにパートタイムの仕事を探しながら、「障がいのある子と親を支えたい」と、AARの活動にも参加してくれています。ボランティアチーム10人のうち6人はシャヒーンさんのような障がい児の母親や姉、4人はAARが活動している学校の保護者会メンバーです。
「訪問先の家庭では、自分の子育てやコロナの流行による苦労を打ち明けるようにしています。そうすれば、相手も苦労話を聞かせてくれるから。お互いのことを知れば励まし合えるし、元気になるんです」
と、シャヒーンさんは話します。

支援物資で家計が救われる

13名の男女が配付物資の近くに立ち並んでいる 車いす利用者もいる

緊急支援を担うAARスタッフとボランティアチーム(2020年9月2日)

パキスタンの一日当たりのコロナ新規感染者数は、6月ごろには6000人を超えていましたが、最近は約600人まで減りました。街では食堂が席数を減らして営業を始めたり、定員を減らしてバスが運行したりしています。AARがインクルーシブ教育を推進する事業を行っている小学校も、3月以降ずっと閉鎖されていましたが、10月1日に再開することが決まりました。

一方で、AARが支援する家庭の多くは経済的に貧しく、いまだ生活改善の兆しがみられません。外出制限中に働き手が失業し、家賃や光熱費を支払うために借金をした人が多くいます。貧困家庭ほど環境の変化に対応することが難しく、もと通りの生活に戻るのにも時間がかかるのです。AARはこうした家庭に、食料と感染を予防する衛生物資を配付しています。配付によって食費などにかかるお金をほかの支払いに回すことができるので、経済的な負担を和らげる効果が期待できます

「人の役に立てて嬉しい」-マスクを作製

床に作業用の布を敷き、その上で白い布地を利用し、マスク製作をするブシュラさん(女性)

マスクを作るブシュラ・ビビさん(2020年9月16日)

今回の物資配付では、各家庭に配付するマスクも支援対象にある家庭で作ってもらいました。お針子のブシュラ・ビビさん(30歳)の家は16人暮らし。姪っ子(4歳)に重度重複障がいがあります。AARは今回配付するマスク910枚(一世帯に7枚)の制作を1枚20ルピー(約13円)で依頼しました。ブシュラさんは知人からミシンを借り、妹に手伝ってもらいながら10日間で完成させてくれました。「マスクは市販のものを参考に作りました。人の役に立てる仕事ができてとても嬉しいです。得られたお金でミシンを買います」とブシュラさん。

ブシュラさんの作業場に居合わせるシブハとソビア 3人とも女性

マスクを作製するブシュラ・ビビさん(中央)とAARハリプール事務所スタッフのソビア・スルタン(左)、シブハ・ムクタル(2020年9月16日)

数十枚の、白い端正に作られたマスクが写っている

ブシュラ・ビビさんが作製したマスク

AARのハリプール事務所は女性職員3人、男性職員2人の小所帯です。そのため、日々の活動には、シャヒーンさんやブシュラさんのような協力者の存在が欠かせません。彼女ら自身、新型コロナウイルスの影響を受けて大変な状況にあるにも関わらず、積極的にAARの活動に関わってくれています。そのおかげで、支援対象家庭の間には、お互いに支え合おうとの雰囲気と力が生まれています。今後も事業を通じて、こうした輪をさらにひろげてまいります。

*この活動は、皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

シブハの顔写真

パキスタン・ハリプール事務所 シブハ・ムクタル

大学で臨床心理学と教育学を専攻。地域の病院や現地 NGO で臨床心理士として 働いたのち、 2017 年 3 月、地元社会の役に立ちたいと、ハリプール郡で事業を行っているAARへ。両親、兄との4人暮らし

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