「受賞は希望の光です」パレスチナ難民アラアさん:Save with art 受賞者インタビュー
新型コロナウイルス感染症対策として、AAR Japan[難民を助ける会] が昨秋、難民・避難民の居住地に掲示する啓発用のポスターのデザインを公募したところ、国内外6ヵ国から156点が寄せられました。入賞した31点には、自らもパレスチナ難民であるアラア・アブアラハイジャさん(ヨルダン在住)の作品も選ばれました。「受賞は信じられなかった」と語るアラアさんに、作品に込めた思いを聞きました。
ーふだんはどのように暮らしているのですか。
中東のヨルダンで妻、3人の子どもと暮らしています。幼少期から絵を描くことが好きで、絵画は独学で学びました。内装工事などの仕事を請け負って生計を立てていますが、1ヵ月以上も仕事がないことも多く、何とか暮らしているという状態です。
故郷のパレスチナから逃れたのは、祖父母や両親の世代で、私自身は小さい時からヨルダンで暮らしています。でも、家族から聞く故郷のこと――住み慣れた家、慣れ親しんだ街並み、家族ぐるみで付き合っていた地元の人々、故郷ならではの食べ物、よく通った市場など、それらを直接目にしたいし、感じたい。家族の思い出がいっぱい詰まった、愛する故郷に帰りたいという願いは変わりません。
ー今回の公募をどのように知りましたか
日本に暮らすヨルダン人の友人から「応募してみたら?」と声をかけられました。その友人はヨルダンのオリーブオイルや調味料(スパイス)を日本で輸入販売していて、実はその調味料のパッケージは私がデザインしたんですよ。
―ポスターの制作にあたって重視したことは何でしょうか
実は最初はあまりモチベーションがなくて、メモ紙にサラッと描いたんです。そしたら、代理で応募手続きをしてくれる日本人の友人から描き直すように檄を飛ばされました(笑)。それで本腰を入れて、まずはイメージを膨らませました。世界中に猛威を振るうコロナの終息には、何か大きな神のような力が必要で、それがマスクに宿っていると思ったんです。一方で、貧しい国ではそもそもマスクを入手できなかったり、感染症に関する正しい情報が行き届いてなかったりします。だから、神が天から私たちにマスクを差し出して救ってくれる、コロナを終息に導いてくれる――そんなイメージを表現したいと思いました。制作にあたっては、娘や親せきにモデルになってもらいました。
―難民支援に関するポスターデザインの制作を通じて得たものや考え方の変化など、難民問題について思うことを教えてさい
ヨルダンをはじめ中東・西アジアの人々の多くが信仰するイスラム教では、音楽や芸術活動は不道徳で反宗教的な行為とみなされることがあります。だから、子どもの頃から家族に絵を描くことを反対され、大学は全く違う分野を専攻せざるを得ませんでした。それでも諦めきれず、ひたすら絵を描いていた時期もありました。
私自身、故郷への帰還を願う大勢の難民のひとりです。定職もなく、途方に暮れることが少なくありません。そんな私にとって、今回の受賞は何でもない生活の中に差し込んだ一筋の光のようでした。これまでは、どうやったら絵で稼げるのか、そればかりを考えていました。しかし、今回の企画を通じて、絵は誰かの力になったり、助けたりすることができるんだと気付きました。耳が聞こえない人、字が読めない人も、絵を見ればメッセージを伝えられる――それは、私が今まで見落としていた絵が持つ可能性でした。
ただ、周りには未だに絵画は非道徳的だと考える人が多く、複数の友人から今回の受賞についても否定的な意見を受けました。確かに、絵画は時に誰かの心を傷付けたりします。でも、今回のように誰かのためになる絵は、非道徳的ではないし、むしろよい影響をあたえるものではないでしょうか。
―制作活動について今後の展望を教えてください
私たち難民の多くは自由や可能性が限られ、ただ家の中で座っているだけ、それだけしかできない日もあります。でも、難民だからといって諦めるのでなく、チャレンジした先にチャンスがあるかもしれない、新しい世界が開けるかもしれない、今回の受賞がそう思わせてくれました。今後も絵を描き続け、難民という立場にあってもできることの可能性を広げていきたいと思います。
1月10日から2月1日まで、佐賀県の「Arukカフェ」で、作品の展示会を開催しています。入賞作品などがご覧いただけます。お近くの方はぜひお立ち寄りください。詳細はこちら |