コロナ禍を乗り越えるために:世界難民の日(6月20日)
6月20日は国連が定める「世界難民の日」。世界の難民・国内避難民は近年、増加の一途をたどり、過去最多の8,000万人超(2020年末推計)に上ります。一方、昨年初頭から世界中に感染拡大した新型コロナウイルスの猛威は、1年半経った今も収まらず、世界の感染者は約1.8億人、死者は約380万人に達しています。
こうした危機的状況においては、難民や障がい者、貧困層など、普段から社会的に弱い立場にある人々がとりわけ深刻な影響を受けます。衛生状態が悪く医療体制も充分ではない難民キャンプ・居住地では、多数の難民がコロナ感染の危険にさらされています。
AAR Japan[難民を助ける会]は40年以上にわたって、国内外で人道支援活動を展開してきました。コロナ禍によって、多くの国・地域で支援活動が制約を受ける中、AARは難民支援を途切れさせないよう各地の状況に応じて工夫を重ね、既存事業に加えて、難民や地域住民への衛生用品の配付、衛生啓発活動などを実施しています。
難民キャンプで心理面サポート
ミャンマーの武力弾圧を逃れた累計100万人超のイスラム少数民族ロヒンギャが滞留するバングラデシュ南東部コックスバザール県。90万人近くが過密状態の難民キャンプに収容されていますが、2017年8月以降の大量流入から間もなく4年、ミャンマーの政治・社会の混乱を受けて本国帰還はますます遠のき、長期化は避けられない状況にあります。
難民キャンプではコロナ感染を防止するために、人道支援活動を食糧配給や医療などに限定して、国連やNGO関係者の出入りを大幅に制限しました。AARはこの間、キャンプおよび周辺農村部のホストコミュニティで、手洗い用の水タンクや石けんの配付、少人数ずつの衛生啓発ワークショップなどを実施しました。そうした成果もあってか、より人口が少ない周辺地域と比べて、キャンプの感染は予想以上に抑え込まれています。「18歳未満の子どもが55%を占める若い人口構成が影響している」との仮説もあり、世界保健機関(WHO)が調査しています。
その半面、難民の有給ボランティアなどの活動が停止されて、特に男性がストレスを溜め込んでおり、国連やNGOの目が減ったこともあって、キャンプでは家庭内暴力や人身売買が増えてしまいました。さらにバングラデシュ政府が昨年12月、ベンガル湾のバシャンチャール島に建設した収容施設への難民移送を開始したのに加え、今年3月にはキャンプで大火災が発生して数百人が死傷するなど、帰還の見通しが立たない中、難民たちは複合的な要因が重なって精神的にも追い詰められています。
AARが運営する子どもや女性の活動施設は、コロナ禍で利用が制限される中、専門のカウンセラーやケースワーカーが個別に悩みごとの相談に応じるなど、心理面でのサポートを継続しています。
難民の親子をオンラインで支援
内戦が続くシリアからの難民約360万人が暮らすトルコで、AARはコロナ感染が急拡大した昨年6月末から1カ月間、シリア難民への社会心理的支援として、オンライン方式の「親子サポート」プログラムを実施しました。AARが運営するコミュニティセンターがコロナ禍で利用できなくなり、難民の家族が個々に孤立するのを防ごうと、AAR現地職員が知恵を出し合って企画した取り組みです。
プログラムでは、現地職員が電話やメッセージアプリを通じて、母親には子どもとの接し方や自分のストレスとの向き合い方を指導し、子どもには家の中でできる遊びを伝えるとともに、家族を助けるためにどうしたらいいかを考える「宿題」を毎週出しました。参加した母親たちからは「学校休校中でずっと家にいる子どもがプログラムに集中する時間が少しできただけでも、肩の荷が下りてホッとした」「プログラムの時間が決まっているので生活にリズムが出た」などの声が寄せられました。子どもたちも熱心に取り組み、ある子どもはプログラムで習ったグラスを使った音楽演奏を自分で動画撮影して送ってくれました。
アフリカ3カ国にマスク25万枚
開発途上国では、マスクや消毒液など衛生用品の入手が容易ではない場合もあります。AARは4月中旬、製薬大手エーザイ(本社:東京都文京区)と協力して、アフリカ3カ国(ウガンダ、ザンビア、スーダン)に感染防止用のマスク25万枚を送りました。
このうち、マスク10万枚が届いたウガンダ西部のチャングワリ難民居住地では、隣国コンゴ民主共和国から流入した難民の間で2波にわたってコロナ感染が広がり、死者も出ています。AARウガンダ事務所は国連機関や他団体と協力して、診療所および居住地内で活動する難民の保健ボランティアなどにマスクを配りました。保健ボランティアのコンゴ難民、ジュヤンベ・マーキさんは「私たちの保健医療活動では、患者に接する際に感染予防のマスクは欠かせません。医療品が非常に不足しているので、遠い日本から届いた支援はとても助かります」と話していました。
このほか、近隣諸国から流入した難民が暮らすザンビアの居住地・再定住地にある診療所、コロナ感染者の治療を担うスーダンの大学病院などにマスクを送っています。
AARが教育支援を行うケニアのカクマ難民キャンプ、カロベイエ難民居住地でも、難民や周辺住民、支援関係者の間で感染者や死者が確認されています。ケニア全土で学校の休校・再開が繰り返されていますが、AARは昨年10~11月にキャンプ・居住地の初等学校で生徒や教職員にマスクを配付したほか、その後も日本に一時帰国中の駐在員が現地事務所と連絡を取りながら、中等教育の就学支援などを進めています。
AARは昨年来、上記の事業地を含む海外13カ国、および日本国内の障がい福祉施設・関連団体、病院に対して衛生用品配付などのコロナ対策支援を実施しています。コロナ禍のような未曽有の危機にあって、互いの思いやりと連帯こそが困難を克服する大きな力になると私たちは考えます。AARの難民支援、コロナ対策支援へのご理解・ご協力を重ねてお願い申し上げます。
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