スーダン・カポエタ事務所
角谷 亮
肉以外に尿や糞まで!?スーダン南部の「牛」活用法
2007年11月から2010年3月までタジキスタン事務所に、同年4月よりスーダン・カポエタ事務所に駐在。大学では英米語学を専攻。卒業後、派遣員として在外公館に2年半勤務。その後、難民を助ける会へ(兵庫県出身)
記事掲載時のプロフィールです
難民を助ける会の事務所があるスーダン南部のカポエタで、毎日目にする動物は「牛」。ここに暮らす人々は、肉を食べることはもちろん、その他にも驚くべき目的で牛を利用しています。さてその目的とは・・・?
嘘も方便ならぬ、牛の小便!?
牛は日本でも身近な動物で、「牛歩」「牛耳を執る」などの表現がありますが、カポエタにも「牛より大事なものはない」という言い回しがあります。ここでは牛は身近なだけでなく貴重な存在です。
牛肉、牛乳などは日本の食卓でも常連ですね。スーダン南部でも牛を食べますが、大きく異なるのは、カポエタに住むトポサの人々は、なんと牛乳を牛の小便と混ぜて飲むことです。
作り方は、いたって簡単。容器にとった尿を数日間ねかせます。その後、尿の15倍~20倍の量の牛乳を入れたら出来上がり。町で牛乳が売り出されていると、トポサの人々は牛乳の容器のキャップを開け、臭いを嗅ぎます。もし尿が混ざっていないことが分かると見向きもしません。尿を入れることで牛乳がフレッシュになると思われているのです。
オシャレや虫よけ、燃料にも
スーダン南部最大の人口を誇るディンガの人々は、おしゃれのため髪を脱色させる方法として牛の尿を使います。牛が用を足している、まさにそこに体をかがめて髪を尿に浸すのです。
また、蚊よけスプレーの代わりに、牛の糞を体につけ蚊から身を守ることがあるそうです。ディンガの人に聞くと、牛糞を塗った腕の上では、しばらくとまっている蚊が死ぬとのこと。牛糞には殺虫作用があるのかもしれません。
ただ、これら尿や糞の利用方法は、田舎に住むディンガの人たちだけがすることで、町に住む人たちはほとんどしないそうです。牛の糞は広く燃料としても使われています。
神に捧げるために
人間は、牛を屠殺し肉を食べます。ただ、スーダンではお腹を満たす食料としての目的以外に、生贄の意味があります。トポサの人々は、昨年難民を助ける会が建設した給水塔システムの開所式典の際、牛を生贄として捧げました。
また、スーダン南部で第2の人口数であるヌエルの人々は、地元の有力者などが亡くなった際に、牛を生贄として捧げ、殺された牛の一部分は神に供えるため、草むらに置いてくるそうです。
「何かって、なに?」ディンガの言い伝え
なぜ、他の動物ではなく牛を生贄として捧げるのでしょう。それは牛が「神から与えられた特別なもの」だとスーダン南部の人々が考えているからです。
ディンガの人々には、次のような言い伝えがあります。
ある日、ディンガのおじさんが歩いていたところ、神さまが現れて言いました。「お前に、私が持っているどちらか好きなものを授けよう。1つは牛。もう1つは、『何か』だ」。すかさずディンガのおじさん、「何かって、なんですか?」。そこで、神さま「教えられない。けれど、『なにか』なのだ」。さすがにそれでは困るので、ディンガのおじさんは「牛」を選ぶことにしました。このようにして、ディンガの人々は神さまから牛を授かったのです。
なお、この「何か」が何だったのかは未だに謎のままです。
この7月、新しい国が生まれます
1月9日から1週間、スーダン南部の独立を問う住民投票が実施されました。そして2月6日、住民投票結果が正式に発表され、独立賛成が98.83%という結果が出ました。住民投票前には様々な混乱が予想されましたが、平和的に投票は進みました。今年の7月9日、世界で一番新しい194番目の独立国家が誕生する予定です。
ただ、基礎的インフラ設備の未整備など、解決すべき問題は山積しており、今後も国際社会の支援が求められています。ようやく独り立ちを始めようとするスーダン南部。どうか皆さまのあたたかいご支援を、引き続きよろしくお願いいたします。