駐在員・事務局員日記

南スーダン事業は、ハイテクとローテクを駆使して

2012年10月10日  南スーダン
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執筆者

南スーダン事務所
角谷 亮

2007年11月から2010年3月までタジキスタン事務所に、同年4月より南スーダン事務所に駐在。大学では英米語学を専攻。卒業後、派遣員として在外公館に2年半勤務。その後、AARへ。趣味は野球(兵庫県出身)

記事掲載時のプロフィールです

南スーダン共和国は、2011年に独立した世界で一番新しい国。首都ジュバを中心に開発は進んでいるものの、独立した時点では、舗装道路は日本の95万kmに対し、南スーダンは100km もなく、今も電話回線や上下水道などのインフラはほとんど整備されていません。そんな南スーダンでは、最新の技術でその不足部分を補っています。今回は、AAR Japan[難民を助ける会]の活動で、実際に利用している最新テクノロジーをご紹介します。

宇宙を介したコミュニケーション・・・衛星電話

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衛星電話を使ってフィールドにいる職員と連絡をとる筆者

「今週はフィールドに出張します」、「先ほどフィールドチームから連絡がありました」。AAR南スーダン事務所では、日々こうした会話が交わされています。ここで言うフィールド(field)とは、畑や田んぼ、という意味ではなく、「悪路で携帯電話が通じず、近くにお店もない不便な事業地」を指しています。
日本でも、最近では固定電話を据えつけず携帯電話だけで生活する人も増えてきていますが、ここ南スーダンでは、そもそも固定電話の回線の整備がほとんど進んでいないため、携帯の普及率が急速に伸びています 。それでもAARのフィールドでは、まだまだ携帯電話が繋がらない地域が多くあります。

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写真左は南スーダン事務所で使用する衛星電話。かつてはA4サイズほどの大きさでしたが、今ではこんなにコンパクトに(写真右は一般的な携帯電話)

AARが活動を実施する上で重要な安全確保も、職員同士が連絡を取れないと成り立ちません。では、携帯電話が繋がらない場所にいる職員と、どうやって連絡を取るのか。そこで利用するのが衛星電話です。我々が利用しているのは、アラブ首長国連邦の企業が運営するサービスで、この企業が上空に打ち上げている3つの衛星を経由して通話をしています。

しかし、衛星電話は非常に高価で、一般の人たちが所持することは稀です。では、電話の繋がらない村の人たちに何か伝言したい場合はどうするのか。それは目的地まで「ひたすら歩く」のみです。時と場合によって、ハイテクの通信機器と、歩くというローテクを使い分けて必要なメッセージを伝達しています。

番地がないからこそ、正確な位置が必要・・・GPS

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GPS端末(写真)を使って、井戸を掘削する場所を決定します

GPS(Global Positioning System)は、全地球測位システムとも呼ばれます。カーナビゲーションや、最近では携帯電話にも使われていますね。上空約2万kmの軌道を飛んでいる衛星から電波を受信し、世界のどの場所でも緯度、経度、高度から位置を測定できるシステムです。
南スーダンでは、首都ジュバをはじめ、いくつかの大きな町では区画整理が始まり、いわゆる「住所」ができはじめました。ただ、AARが事務所を構えるカポエタでは、まだ住所と呼べるようなものがなく、書くとすれば、「東エクアトリア州カポエタ南郡カポエタ」。これを日本に置き換えると、「東京都品川区上大崎」、で終わり。番地などの記載がないのです。AAR南スーダン事務所の場所を伝える際は、「市場からまっすぐ大通りに向かって5分ほど歩くと右手に病院が見えます。その先を少し行くとAARの事務所です」と口頭説明が必要です。

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井戸掘削の場所には目印を置いておきます

街中ならこのような説明が可能ですが、これが村の、ある特定の1地点となると口頭では限界があります。AARの事業ですと、井戸を掘削する場所を決めるときのような場合です。周りは、畑と木のみ。目印となる建物や看板は皆無です。そこで、GPSの登場となります。
井戸を掘削する場所が決まったら、GPS端末でその位置を記録しておきます。後日、実際に井戸を掘削する際には、このGPSの情報をもとに現場に行きます。ただ、GPSのみに頼るのかというと、そうではありません。GPSの数値が、場合によって多少ズレることがあるからです。そこで、井戸の場所を決定すると、そこの周りの木や石などにペンキを塗ったりして、目印とします。このように、GPSというハイテク技術と、木や石など現地調達の物を駆使して場所の特定を行います。

アフリカの光の恵み・・・太陽電池

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この3枚の写真に共通するものは・・・?

左の写真3枚(街灯、給水塔、ランプ)に共通するものはなんだと思いますか。答えは、動力源が太陽電池ということです。南スーダンでは、ごく一部の地域を除き、公共電気がありません。つまり電線がないのです。では、どのようにして電気を使うのか。村に住む大多数の人たちは、そもそも電気を使っていません。都市のホテル、レストランなど商業施設では、自前の発電機を稼働させて電気を利用しています。同時に、写真のように太陽電池を使った物もちらほら見られます。太陽電池パネルは、ある程度初期投資は必要ですが、発電機と違い、燃料を必要とせず、環境への負荷も最小限で済みます。AARが建設した給水塔も、太陽電池パネルを使ってポンプを動かし、井戸の水を高さ6メートルにあるタンクに貯めています。

ないものづくしだからこそ、新しい技術と発想で

日本の1.7倍の面積を持ちつつ、インフラが整っていないこの国では、日本のように一から固定電話回線や電線を敷設して全国を「線」で結ぶのは現実的ではありません。そこで、サービスが必要なそれぞれの「点」(地点)を、直接ハイテクを使って結びます。

日本のような既存のシステムが存在せず、ないものづくしだからこそ、このように新しい技術と発想で対応していく新生国、南スーダン。従来なかったハイテクと、これまで培われたローテクを駆使した新しい取り組みが各方面で必要とされています。

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