駐在員・事務局員日記

ラマダン(断食月)、今年も無事乗り切りました!

2013年09月12日  パキスタン
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執筆者

パキスタン事務所駐在
徳田 朝子

2012年4月よりパキスタン駐在員。大学卒業後、在日外国人支援に携わった後、ストリートチルドレンの教育支援を行うペルーのNGOでインターンを経験。その後、国内でのHIV/エイズ予防啓発活動に携わり、米国の大学院で公衆衛生学を学んだ後、当会へ。大阪府出身

記事掲載時のプロフィールです

皆さん、イスラム教の一大イベント「ラマダン」をご存知ですか。世界中のムスリムが一斉に挑むこの聖なるラマダンとは何なのか。パキスタンで2回目のラマダンを経験した駐在員の徳田朝子が、実情をリポートします。

ラマダンとは?

ラマダンアプリの画面

最近では、時間になるとアザーン(お祈りの合図)が聞こえてくると言う便利なスマートフォン用アプリも登場しました。

「ラマダン(ラマザーン):断食月」とは、イスラム暦の9番目の月の呼び名です。イスラム暦は太陰暦(月の満ち欠けの周期を基準として暦を測る:1ヵ月が約29.5日)なので、日本で使っている太陽暦上では、ラマダンの開始は毎年11日ほど早まることになります。パキスタンでは今年のラマダンは7月11日から8月8日の29日間でした。

ムスリムはラマダンの期間、日の出から日没までの約16時間断食します。日中は水どころか唾すら飲んではいけないと言われる厳しい断食ですが、AARパキスタン事務所のスタッフは意外と元気そうで淡々と断食を実行していました。しかし1日の断食が明ける直前の午後7時前ごろになると家路につく人々の運転が荒くなり、ぴりぴりした雰囲気も感じます。「断食」と言っても24時間ずっと飲食できないということではなく、日没から日の出まで(午後7時ころから午前3時ころまで)は飲食が認められているので、この間に一日分の食事を取ります。妊産婦、病人、お年寄り、乳幼児など、特別な理由がある場合は断食を免除されます。

パキスタン人スタッフに聞きました。「あなたにとってラマダンとは?」

ラフィと徳田の写真

AARパキスタン事務所のラフィ(左)と駐在員の徳田朝子。AARパキスタン事務所が作った衛生知識を広めるポスターの前で。緊張の面持ちです(2013年8月16日)

パキスタン事務所の中でも敬虔なムスリムであるラフィ に、彼にとってのラマダン、またラマダンでの習慣について聞いてみました。

「私は12歳から24年間、一度も欠かさずラマダンを実践しています。毎日、お祈りや食事のために夜中の2時ごろに起きるため睡眠時間が短いこと、日中の喉の渇きなど、ラマダン中は辛いという声をよく耳にしますが、私は正直、辛いと感じたことはありません。それどころか毎日がとても新鮮に感じます。ラマダンはムスリムにとって最も重要な行いの1つです。ラマダン期間中、私は義務である1日5回のお祈りのほかに、アザーンが聞こえる前に自主的にお祈りをしています。また、ラマダンは聖なる月であり、争いはもってのほかで、人々が優しくなる(ならなければならない)月なのです。」

ラマダン中の一日はこんな感じです

イフタール(断食破り): 日没と同時にアザーン(お祈りの合図)が聞こえてくると、断食が一旦終わり、「イフタール」と呼ばれる食事が始まります。この食事はモスクや住人によって往来で道行く人や隣人に振舞われます。誰でも飛び入り参加でイフタール食をもらうことができます。イフタールの時間に家に帰るのが間に合わなかったら、道に車を止めれば、どこでも誰かが食事を分けてくれます。私たち日本人スタッフにも、「一緒に食べて行って!」と、イフタール食を分けてくれます。長い断食の後の食事を「みんなで分け合う」という心意気を街中で感じました。

レストランでずらりと並べられたイフタールを眺める人々

レストランでのイフタール食。アザーンが聞こえるまでは口を付けずに待ちます(2013年7月24日 イスラマバード)

イフタールの食事はどんなものなのでしょう?まず、断食明けの空っぽの胃を刺激しないよう、大量の水分を取ります。特に「ルーオブザ」という赤い飲み物が人気です(写真1の中央)。それから、ナツメヤシ、フルーツサラダ、渦巻き状の揚げ菓子を水飴に絡めたジャレビ(写真2)、豆とスパイスの揚げ物サモサ、野菜てんぷらのようなパコラ、ダヒ・バレイ(豆の粉で作ったスポンジと野菜、ヨーグルトなどを混ぜたもの)といった甘いものやスナック類でお腹を満たします(写真3)。 ラマダン期間中はマーケットのいたるところで、ナツメヤシや揚げ物類が大量に売られています。人によってはイフタールの後、午後10時~11時くらいに本格的なディナーを食べます。こ のように8時間という短い時間の中に大量の食事を詰め込むことで、断食月にも関わらずこのラマダン中には体重が増加する人も多く、また各家庭のエンゲル係 数もかなり上がるようです。イフタールを外でワイワイ楽しむ人々も多く、このラマダン期間はレストランのかき入れ時となります。レストランでは、イフタール食とディナーがセットになった特別メニューを準備しているところも多く、午後7時辺りになるとお客さんはお皿にこんもりとイフタール食を確保し、テーブルでアザーンが聞こえるのを待ちます。この時間、もう待ちきれないという雰囲気が伝わってきます。ラマダン中は毎晩お祝いごとのように華やかで、いつも以上に夜の街が活気づきます。

イフタールの食事の写真3点

パキスタンのイフタールの食卓の様子(写真1、3)。写真3の左上から時計回りに、ナツメヤシ、サラダ、豆カレーとお肉、フルーツサラダ。写真2は揚げ菓子ジャレビを作っているところ

箱にぎっしり詰まった干したナツメヤシ

ナツメヤシを路上で売る男性。ナツメヤシはイフタールで最初に口に入れる食べ物とされています(2013年7月18日 イスラマバード)

路上の屋台で、鉄板でパラタを焼く人たち

断食前に食べるパラタを焼いています(2013年7月24日 イスラマバード)

セイリ(断食前の食事):夜明け前、3時半前後までに断食前の最後の食事を済ませます。この食事でよく食べられるのはパラタです。これは層状に作った生地を引き伸ばして、油たっぷりでカリッと焼いたもの。ラマダン開始のお祈りが聞こえてくるまでにこの食事を済ませます。

ラマダン(断食):そして夜明け前から約16時間にわたる長い断食が始まります。現地スタッフたちが断食をしている仕事時間中は、私も飲食はしません。しかし喉の渇きは耐えがたく、みんなに隠れてこっそり水を飲んだことがあります。普段であれば、午後1時からランチとなるパキスタン事務所ですが、ラマダンの期間だけはランチ休憩なしで午後2時で終業となります。暑さと湿気の中、普段より数時間遅いランチというだけで、私はへとへとになってしまいます。

祈りをささげる女性たち

心を穏やかにして普段以上に熱心に祈ります(2013年7月22日)

礼拝:食事よりも大切なもの「お祈り」を忘れてはいけません。ムスリムは通常、一日に合計5回の礼拝を行うのですが、ラマダン中は5回目のお祈りに特別礼拝「タラウィ―」が付け足されます。これは、イフタールとディナーの間に行うもので、男性はモスクへ出かけ、そこで20ラカート(礼拝の単位)のお祈りをします。通常は2~4ラカートなので、20ラカートはかなり長いということが分かります。女性は夜はモスクへは行かず、家でお祈りをします。

ラマダンの意義

「ラマダン」と聞くと、断食に始まり、あらゆる「欲」を抑え、試練に耐えるムスリムの姿が思い浮かべる人も多いと思います。しかしラフィのような 敬虔なムスリムにとってこのラマダン月は、断食を通して貧しい人々の気持ちを身を持って体験し、唯一の神「アラー」に信仰を捧げる一年で最も神聖な月なのです。精神的にも身体的にもとても研ぎ澄まされるこのラマダンを心待ちにしているムスリムも多いと言われます。まだまだ人生修行の足りない私ですが、ここパキスタンで毎日驚きの連続で、新しい文化・習慣を学んでいます。

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