駐在員・事務局員日記

理事長ブログ第1回 「二足のわらじ」

2015年03月04日  会長ブログ
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執筆者

AAR理事長 長 有紀枝(おさ ゆきえ)

2008年7月よりAAR理事長。2009年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。2010年4月より立教大学社会学部教授。

記事掲載時のプロフィールです

AAR理事長、長有紀枝のブログです。

支援者の皆さま、いつもご支援本当にありがとうございます。そして、NHKクローズアップ現代をみて、AAR Japan[難民を助ける会]のホームページを訪ねてくださった皆さま、初めまして。理事長の長(おさ)有紀枝です。

2015年2月26日(木)に放送されたNHKクローズアップ現代「いま"世界"のためにできること 紛争地 それぞれの眼差し」(第3623回)では大変大きな反響をいただきました。 もとよりこれは、VTR映像や出演されていた皆さん(野中章弘さん、綿井健陽さん、佐藤真紀さん、佐藤和孝さん、橋田幸子さん。今は故人である山本美香さん、橋田信介さん、後藤健二さん)、そしてキャスターの国谷裕子さんはじめ、長時間にわたり丁寧な事前取材をしてくださったクローズアップ現代のスタッフの方々のお力です。

他方でもう少し話が聞きたかった、というお声もいただきました。以前より、皆さまに向けてもう少し発信を、と思いつつ日常の忙しさにかまけて後回しにしてしまっておりました。ですが、今、こういう時代だからこそ、改めて発言、発信しなければという思いも強くしています。発信する内容は、目新しいものではありません。 「困ったときはお互い様」「人情から人道へ」「内向きな日本の島国根性を外に開かれた島国根性に」。私たちがAARの活動を通じて、創立以来36年間、一貫して発信し続けてきたこと、また私自身、研究者として、実務家としてこれまで発言してきたことにすぎません。しかし、何も変わらないことを発信し続けてきたのに、今、その発言が求められている、ということは私たちではなくて、明らかに「時代」や取り巻く環境の方が変わってきているのだ、とひしひしと感じます。 だからこそ、少しずつではありますが、このブログで、日頃考えておりますことをお話していきたいと思います。

「二足のわらじ」と題した第1回の今回は、お尋ねのあった私の職業についてお話したいと思います。私には、立教大学の教員と、AARの理事長としての二つの肩書があります。1991年から2003年まで、私はAARの専従の職員としてボスニア・ヘルツェゴビナやチェチェン、アフガニスタンの難民に対する主に紛争地での緊急人道支援、地雷対策、そして事務局長として事務局の運営にかかわってきました。2003年の秋に、一度退職し、「人間の安全保障」を専門とする大学院で研究に専念しました。その後、2008年に柳瀬房子前理事長(現会長)の後をついで、難民を助ける会の理事長となりました。そして翌2009年からは縁あって立教大学の教員となりました。細かいお話ですが、2008年は専従の理事長としてAARからお給料をいただきましたが、立教大学に奉職した2009年からは、お給料は立教大学のみから得る形となり、AARの理事長職は、金銭的な意味では完全に無報酬のボランティアとなっています。

こうした業界になじみの薄い方は、「なんと奇特な」(笑)と思われるかもしれませんが、私たちの業界・国際協力NGOの業界ではこれは極めて普通(!)のことです。そもそもAARはじめ、こうした、民間の国際協力活動は当初すべて無報酬のボランティアから始まりました。徐々に組織化するにつれ、専従の職員を置くようになっていますが、多くの団体は無報酬のボランティアが立ち上げ、また、今もAARはじめ、多くの団体が職員を置きつつも、同時に無償のボランティアの皆さんによって支えられています。もっともこうした状況は国際協力のNGOに限らず、皆さまの身近な、町内会やPTA、青年会議所なども同様だと思います。

私がAARにボランティアとしてかかわりはじめたのは、1990年、職員として入職したのは1991年のこと。フルタイムの正規職員としては、2人目でした。AARの設立が1979年ですから、およそ、最初の10年は、初代会長の相馬雪香、初代事務局長の柳瀬房子(のちに理事長、現会長)はじめ、完全にボランティアのみで運営されていました。AARは、ボランティアがスタッフを雇っている!と高らかに宣言する役員もおります(笑)。 では、ボランティアの理事長は責任が軽いのか、というと、法律上(AARは、特定非営利活動法人=NPO法人としての法人格を有しています)、最高の責任を負っています。無報酬でも責任は重大、またこれは奇特な変人、と思われるかもしれませんが、NPO法人の多くがこうした形態をとっていると思います。 現在AARには30人の役員(理事長、専務理事、常任理事、理事、監事、顧問)がおりますが、事務局職員と兼務している役員を除き、全員無報酬です。

さて、私の職業にお話を戻します。立教大学の教員としてこちらはフルタイムの専任教員ですから、大学院生、学部生に対する教育、教務、そしてもちろん、研究や執筆活動をしています(今は、ジェノサイドの本を書いています。なかなか時間が取れないのが悩みですが)。研究者としての専門は、人間の安全保障、ジェノサイド、移行期の正義、国際人道法といった分野です。お話したように本職は大学教員ですので、物理的な時間は大学にいることが多いです。

では、AARの理事長としては何をしているか。AARにいるのは(大きな事故や事件がない限り)、事務局内の会議や理事会、職員の採用面接、海外の事務所への赴任前の面談、一時帰国中の駐在員との面談、そして、会議や来客がある時です。これだけだと仕事はごく限られているように見えますが、その他、私の(理事長の)名前で出る、外務省やジャパン・プラットフォーム、国連機関、そして企業や財団など助成元への助成金の申請書、中間報告、完了報告、ご寄付くださる方へのお礼状、ご寄付のお願い状、そして毎月の会報・ニュースレター。これらに目を通し、ひたすら赤字を入れています。今はメールがありますからこれはいつでもどこでも追ってきます(事務局では、「長さんチェック」と呼ばれています。本職は教員ですから、かなり細かな赤字を入れています)(笑)。また、直接お目にかかることのできない寄付者の方々へお礼のお手紙も書いています。 寄付といえば、無報酬どころか、私自身、AARのマンスリーサポーターとして一人の寄付者・支援者でもあるのですが、人使いの荒い事務局長はじめ事務局員は容赦ありません。次から次へと書類が降ってきます。私の不在をトンデモナイと思っている職員から、いつも「今度いつ来ますか?」といつも怒ったように聞かれます(苦笑)。でも、私が不在がちでいられるのは、いわば、AARの「平時」、大きな事故や事件がないときです。危機管理に関係する大きなことが起きた時には、事務局長の堀江さんとともに、最高責任者として、陣頭指揮をとることになります。

こんな感じで、実務と研究職を行ったり来たりしながら、日々、ばたばたと暮らしています。今日は、大切な初回というのに、説明的な文章になってしまいました。 次回から、もう少し、人道について、国際協力についてお話していきたいと思います。(2015年3月3日)

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