有原 美智子
ザンビア:タフでワイルドな助産師
2016年6月よりザンビア事務所駐在。幼少時、飢餓に苦しむアフリカの子どもたちの姿に衝撃を受け、国際協力に関心を持つ。看護大学を卒業後、病院勤務、青年海外協力隊員としてアフリカ・マラウイに赴任。帰国後、大学院に進学し、HIV陽性妊婦の鬱を研究。修了後に入職。趣味は旅行、料理。東京都出身
記事掲載時のプロフィールです
AAR Japan[難民を助ける会]は、ザンビアの首都ルサカから南東に車で1時間ほどの場所に位置するカフエ郡チサンカーネ地域で、2016年2月から母親と子どもの健康を守るためのプロジェクトを行っています。チサンカーネ地域には、1万人以上が住んでいるにもかかわらず、医療施設は診療所が1ヵ所あるだけです。今回は、そんな診療所で忙しく働く助産師の1日を、ルサカ事務所駐在員の有原美智子がレポートします。
1人で何役もこなします
ある日、チサンカーネ地域にある、AARが母子保健サービスの強化で医療器材などの支援をしている「チサンカーネヘルスセンター」を訪れたときのこと。悲鳴のような叫び声が中からしたので分娩室に入ると、助産師のジョイスさんが妊婦に必死に何かを説明しています。聞けばこの女性は19歳の初産婦で、「この妊婦さんの子宮口は5cmで、出産をしてもいい10cmにまで開いてないの。だからまだいきまないで」って言っているのよ、と話してくれました。
いきなり緊迫した状態かと思いましたが、ジョイスさんは微笑みながら「今日はこのセンターには私しかいないのよ。だからちょっと外来の患者を見てくるわね。そうしたら次にお母さんたちの妊婦検診。もちろん、この妊婦さんのことも忘れないわよ!」と言い残し、すぐに産科棟を後にしていきました。なんたる多忙さ。
30分ほど経ったところで、ジョイスさんが分娩室に様子を見に戻ってきました。内診をササっと終えると「まだ7cm・・・破水してから45分・・・」とつぶやいたかと思うと、こっちを向いて「あと少しだけ患者を診てくるわ」と言って、また外来の患者の所へ戻っていきました。それからどのくらい時間が経ったでしょうか。妊婦が激しく痛がる回数が増えてきた頃、ようやくジョイスさんが戻ってきました。内診すると、どうやら子どもの命が危ないかもしれないとのこと。いきむように声をかけ、やっと子どもの頭が出たと思ったら、同時に横から血が吹き出始めました。どうやら、まだ十分に子宮口が開ききっていなかったため、会陰が裂けてしまったようです。
いつも笑顔を大切に
その後、赤ちゃんは無事に生まれ、お母さんはすっかり疲弊しているのでかわいそうではありますが、ジョイスさんには時間がありません。外来では患者が。妊婦健診では妊婦たちが列をなして助産師を待ち続けています。ジョイスさんは準備が整うと、麻酔をするや否や、裂けた会陰を縫い合わせます。当然、麻酔が効いている訳もなく、分娩室には悲鳴が響き渡りました。
その後、一通り処置を終えると5分もしないうちに、あんなに疲弊していたはずのお母さんが、スタスタと歩いて洋服を着始めました。それを見届けたジョイスさんは、「じゃあここはこれで終わりね。次は妊婦健診。そして、それを早く終わらせたらまた外来ね。行きましょう」と笑顔で私に言いました。
6月から赴任したばかりの私は、ザンビア事務所での業務をこなすことで精一杯の日々でした。でも、こうして1人何役もこなしながら、地域に1つしかないヘルスセンターで働くジョイスさんを見ると、お母さんもタフでしたが、やはり「タフでワイルドな助産師」には頭が上がりません。早く私も、彼女を見習って仕事をしっかりとこなし、母子の健康を守るプロジェクトを普及させながら、ヘルスセンターの運営も改善していきたいと思います。