東京事務局
石原 厚子
終わりの見えない業務でも「大丈夫、なんとかなる」
2017 年3 月より東京事務局でシリア難民支援事業、翌年3月よりパキスタン事業担当。国際協力について学ぶため仕事の傍ら大学院へ通学したことを機にNGOの活動に関心を寄せAARへ。北海道出身
記事掲載時のプロフィールです
「非営利団体で働く前に知っておくべきこと(原書 "What You Need to Know About Working for a Non-Profit", Gordon Brown著」には「非営利団体の仕事は大量のペーパーワークであり、手続きや書類が苦手な人にとっては厳しい職場です」というメッセージが書かれています。AARでは、この資料の一部を職員研修で紹介しています。2018年2月、トルコ事務所の経理作業の応援要員として出張した東京事務局の石原厚子が、この言葉を実感した一部始終をお伝えします。
段ボール20箱分の会計報告書を整頓
まさしく、出張中の2週間、朝から晩まで書類と領収書に埋もれる日々を過ごしました。トルコ事務所では、同国政府に毎月会計報告書を提出しています。政府の監査を終えた報告書は、提出時とは様変わりした状態で返却されます。日本の監査でも必要になるため整頓しなければなりません。項目別に時系列でファイルに綴じていた書類は、ファイルから外され順不同の状態に。領収書とその支出内容を記入した台紙も離ればなれになっているため、それぞれの領収書に該当する台紙を再び組み合わます。それが段ボール20箱分にも及びます。
しかも、トルコの人たちが書く数字の7は、日本人が書くものと若干異なり、数字の4と非常に見分けにくいのです。そのため、書類を元どおりに並べる、という作業は簡単そうでそうはいきません。書類は段ボール20箱分あるため、単純作業とはいえとにかく時間がかかり、忍耐力が求められます。トルコ事務所の経理メンバーだけでは追いつかないため、私も東京から出張し日夜この作業に明け暮れました。
単調で、終わりの見えない作業が続くある日...
私が到着した日は、復元作業などを始めて1週間が過ぎたころでした。職員は口々に「昨夜は11時までかかった」「昼休みもぶっ通してやっている」などと労苦を訴えてきます。出張前に、日ごろ郊外の事務所で働いている現地スタッフ、特に女性たちは、都会で仕事ができることにちょっとウキウキしている、と聞いていたのですが、1週間の缶詰状態の後では、その様子は感じられません。
誰かが眠気覚ましに歌うトルコの流行歌や鼻歌が流れるなか、私もひたすら書類の解読と分類を続けました。ふと、事務所の壁のいたるところに模造紙が貼られていることに気がつきました。
リーダーの魔法の一言
その模造紙は、今回の経理作業のためではなく、この事務所を開設するにあたって事務所長のニジャットが呼びかけて作った、スタッフそれぞれの自己紹介や決意表明のようです。その中の1枚、「Team」というタイトルの紙には、チームビルディングのためのさまざまな提案などが書かれています。例えば「一緒にランチに行くこと」「月1回遊びにいくこと」などが記載されています。経理の臨時チームはこれらを忠実に守り、昼休みには必ず近所の定食屋に連れ立って出かけます。出張中の私も誘ってくれましたので、毎日総勢7~8人で定食屋を訪れました。
単調で終わりが見えにくい作業に、ともすれば全員集中力が途切れがちですが、リーダーのジェイフンは、そのたびに「大丈夫、何とかなる」と、静かに言います。
昨年AARに入職したばかりでこの作業を初めて体験した私は、情けないことに滞在中不安で眠れなくなったりしたのですが、その言葉を頼りになんとか乗りきれました。「本当に終わるのかな?」と思っていた作業は、2週間後、ジェイフンの言うとおり無事終了したのです。冒頭に述べた職員研修で見た資料には、「非営利団体の仕事は規則通りに動かねばならない一方で煩雑な状況の中で"なんとかする"ことも要求されます」とも書かれています。帰国後、私は彼の言葉を口癖にしています。「大丈夫、なんとかなる」