トルコ事務所
横銭 翔太(よこぜに しょうた)
トルコ:"爪のパン"とは一体...?
高校生時代にインド以西のアジア地域に関心を持つ。大学で現地言語(ウルドュー語)を学び、トルコやチュニジアなどを訪れる。大学卒業後、4年間チュニジアに滞在し、語学学校で現地公務員として日本語を指導。2019年1月よりトルコ事務所駐在。東京都出身。
記事掲載時のプロフィールです
世界で1番パンを消費する国がどこかご存知ですか?正解は、トルコ共和国。トルコ人は、なんと自分の体重の3倍ものパンを年間に消費するといわれ、1人当たりの消費量でギネス記録を保持しています。(日本は世界ランキング10位)
そんなパンが大好きな国トルコから、"爪のパン"をご紹介します。
『これって、指の模様なんだよね』
ある日、先輩の日本人職員がパンをじっと見つめて、つぶやきました。そうつぶやきながら、両手の5本指を上下に激しく振って、パンをこねる動きを真似します。このパンの正体は、トルコで主食として食べられる、「トゥルナクル・エクメッキ」(トルコ語)。日本語に直訳すると"爪のパン"です。
トルコの生活に慣れるまでは、このパンはいつも誰かが買ってきてくれるものだったのですが、最近はよく買い物がてら、パンが焼かれる様子を観察しに行くようになりました。
フルン:トルコの窯焼きパン屋さん
トゥルナクル・エクメッキは、アラビア語でオーブンの意味の、「フルン」という窯焼きパン屋でつくられます。シャンルウルファ県のいたるところに存在し、AAR Japan [難民を助ける会]のシャンルウルファ事務所近くにもあります。事務所近くのこのフルン(窯焼きパン屋)は、奥にオーブンがあり、手前のカウンターにたくさんのパン生地が小さく丸められて、並んでいます。
5人ほどが働いていて、小麦粉をこねるお兄ちゃん、伸ばすお兄ちゃん、そして花形、指で模様をつけるお兄ちゃん、がいます。大体のフルンにおいて、窯焼きはベテラン風のおじさんが担当します。
エクメッキは、小麦粉、ドライイースト、ぬるま湯、グラニュー糖・塩・オリーブオイル少々を混ぜ合わせたシンプルな生地で作られます。ヨーグルトを混ぜる場合も。
発酵は1時間程度で、シャンルウルファの暑い暑い夏には、日当たりのいい窓辺の室温の高いところに置いて発酵させます。発酵が終わると、小麦粉は饅頭型にこねられます。
平に伸ばされるとすぐに、模様担当が爪で細かく模様をつけていきます 。
一定の、力強い、素早いリズムで模様をつけます。規則正しく模様付けをするため、焼きあがりが綺麗な格子状になり、手でちぎりやすいだけでなく、薄くなっているところはカリッ、厚みのある部分はもっちりという食感が楽しめ、焼きたてはお煎餅のような素朴で香ばしい香りがします。この模様付けの作業、楽そうに見えても、朝の7時から夜の8時まで作業を続けるため、かなりの重労働のようです。営業終了後のお客さんがいないフルンで、若い男性がそれはつらそうにうなだれているのを見たことがあります。
模様がつき縦長に形が整えられれば、すぐさまベテランがオーブンに入れていきます。薪をもくもく燃やしたオーブンは250℃くらいにはなっており、ものの5分で4~5枚のエクメッキが出てきます。素早く焼いていく一連の動作は見ものです。
お昼時になると、山盛りのエクメッキがカウンターに。
また、フルン(窯焼きパン屋)ではオーブンにかける前の具材を持っていくと焼いてもらうことができます。パン代(1枚あたり約19円)さえ払えば調理代はなんと無料!家にオーブンがない家庭があったり、より強い火力で焼きつくした料理が好まれたりするシャンルウルファ県では、近所のフルン(窯焼きパン屋)が必須です。野菜をそのまま丸焼きにしてもらったり、大きいアルミ皿に美しく切り並べたり。
今日のごはん
AARシャンルウルファ事務所のトルコ人スタッフも、シリア人スタッフも、私たち日本人も、ご飯はもちろん、トゥルナクル・エクメッキとオーブン料理です。
男の料理を体現するような彼らは、昼前からメニューを決めて、その日のシェフ係がせっせと野菜や肉、大量の油と塩を丸いアルミ皿に詰め込み、フルン(窯焼きパン屋)にもっていきます。この日は、私と同僚6人により、たった1皿のオーブン料理をおかずに、なんと13枚のエクメッキが消費されました。
天にも昇る美味しさだったのでしょうか、一口でこの表情です。
トルコ人・シリア人のスタッフと交流しながら、たくさんのエクメッキで腹ごしらえをして、また仕事に戻ります。