「自身の感染を知り、愛する人をエイズから守ろう」 ザンビアのチパパとシマバラ地区で世界エイズデー・イベント
難民を助ける会は、ザンビアの首都ルサカ郊外に位置するチランガ地区にて、HIV/エイズを予防するための活動や、既にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している人を対象としたケア活動を、地域の団体などと連携しながら実施しています。今回は、2009年11月に赴任した山井駐在員が現地の様子を報告します。
エイズウィルスに感染しても安心な環境と人権を
12月1日は「世界エイズデー」です。「エイズ」は今や、途上国だけでの問題ではありません。最近は日本でも、様々な啓発キャンペーンなどが行われるようになっています。
難民を助ける会では2005年より、エイズが猛威をふるうザンビアの首都ルサカ近郊のチランガ地区でエイズ対策活動を開始。2005年からは毎年12月1日の「世界エイズデー」に、啓発イベントを実施してきました。2009年10月からは、チランガと同じくエイズの影響が大きいチパパ地区とシマバラ地区でも活動を開始。今回両地区で初めてイベントを実施しました。
といっても、主催するのは地元の人たち。地元の人たち主体で活躍できるよう、難民を助ける会はサポート役に徹しています。
新しい地域で初のイベント開催
2009年の「世界エイズデー」のテーマは、“誰でも利用できるような環境と人権(Universal Access & Human rights)”。「全ての人々が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体検査やエイズの進行を抑える薬などを無料で受けられること」、そして「HIVに感染していてもいなくても、人間はみな平等である」という、2つのメッセージが込められています。
このテーマを地域の人たちに広めて、エイズに対する正しい認識を深めてもらうことがイベントの目的ですが、もう一つの目的は、ネットワークづくりです。HIV/エイズ対策を行うには、地域の住民や団体が、地区政府や医療機関などと友好な関係を持つことが大切です。私たちは、役所や医療機関などの関係者も招いて行われる世界エイズデーのイベントが、地域の住民や団体のネットワークづくりにおおいに役立つと考え、両地区での今回のイベントの実施を後押ししました。
しかし、何しろチパパ地区とシマバラ地区では初めての開催です。過去4年間のイベント開催を通して経験やノウハウも豊かになったチランガ地区の人たちとは勝手が違います。そこで難民を助ける会では、地域の住民や団体との連携を深めようと、このイベントの企画会議の段階から積極的に参加しました。
しかし企画会議では時間通りにメンバーが集まらず、目標設定やイベント内容を決めるのにも一苦労。シマバラ地区では、直前になって企画会議の中心的存在だった一団体がイベント不参加を表明するなど、いろいろと波乱がありました。しかし、自分たちの力でできるものにしようと、予定より小規模ながらイベントを実施することができました。
ふたを開ければ…?
12月は雨季の真っ只中であるにも関わらず、エイズデー当日は幸運にも晴天に恵まれました。チパパ地区のイベントは、パレードから始まり、来賓挨拶、そしてメインイベントは、各団体によるHIV/エイズのテーマを盛り込んだダンス・歌・演劇の発表です。
当初見込んでいた観客の年齢層は青年以上だったため、各団体が発表する内容も少し大人向けにしていました。しかし、本番をむかえると、観客のほとんどが12歳以下の子どもたちでした。そこで、例えば女性グループは、予定していたHIVを含めた性感染症を防ぐのに有効なコンドームのデモンストレーションを中止するなど、内容の一部を急遽変更しました。
また、集客人数も350人と予想していましたが、実際に集まったのは150人程度。チパパ地区は集落が散らばっており、会場となったクリニックへも舗装されていない道を1時間以上かけて歩いてこなければならない住民が多いのです。事前のイベントの告知を徹底する必要がありました。
それでも、ダンスは観客を巻き込んで盛り上がり、地元の医療スタッフによるエイズ検査の重要性に関する説明では、皆真剣に聞き入っていました。
「皆さん、抗体検査を受けてください」…感染した母親の訴え
当日はイベントと併せて簡易HIV抗体検査も両地区で実施されました。シマバラ地区では、76人もの人が受検し、そのうち5人が陽性と診断されました。この人たちは精密検査を経て、医師の診断によりHIV/エイズの進行を抑える薬の服用を始めることとなります。
印象的だったのは、HIVの陽性者として抗体検査の必要性を皆の前で訴えた、パトリシアさん(30歳・女性)でした。彼女は、赤ちゃんを背負いながら、「私は妊娠中にHIVの抗体検査をして陽性とわかり、薬の服用を始めたので、この子は感染せずに生まれました。」と話してくれました。
感染者に対する差別や偏見がまだまだ根強いザンビアで、このように大勢の前で訴えることは、きっと大変な勇気が必要だったことでしょう。エイズウィルスが「陽性」という診断は、重い告知です。しかし、パトリシアさんのように早めに診断を受けることで、わが子や身近な人への感染を防ぐことができるのです。パトリシアさん自身のためにも、そして赤ちゃんのためにも、きちんと薬を飲み、発症を抑えられれば、と思いました。
一年目の今回、反省点はいろいろとありました。しかし、このイベントを通して、「一日も早く感染の事実を知り、感染防止と自身のエイズ発症を遅らせることが大切だ」という前向きなメッセージは発信できたと思います。今後は、反省点をしっかり分析し、次回のイベントにつなげなければなりません。そして、この日参加した地元の各団体には、次回につなげる力があると感じました。
彼らが持つHIV/エイズに関する知識を、より多く、地元の人に伝えられるように。そして、パトリシアさんのような感染者へ、社会的、心理的サポートを行えるように。難民を助ける会は、地元のエイズ対策グループをこれからも着実に支援していきます。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ザンビア駐在 山井 美香
2009年11月よりザンビア・ルサカ事務所駐在。大学を卒業後、航空会社に勤務。その後米国の大学院で公衆衛生学を勉強し、難民を助ける会へ。(兵庫県出身)