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パキスタン洪水支援 速報第11弾 巡回医療チームが被災地を行く

2010年09月21日  パキスタン緊急支援
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巡回医療チームの診察を待つ患者たち

巡回医療チームの診察を待つ患者たち(9月15日撮影)

パキスタンで起った洪水被災者への緊急支援のため、東京事務局の野際紗綾子、川邉安行が現地で支援活動を行っています。8月の3回の緊急支援物資の配布に続き、9月からは、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の支援のもと、基礎医療サービスを開始すると同時に、追加で1,500世帯への緊急支援物資の配付を行っています。

9月15日には、9月7日に続き再びノシェラ郡を訪れ、基礎医療サービスの活動調整を行いました。以下は、現地からの報告です。

水が引いてもなお続く、衛生環境の悪化

被災者が集まる避難民キャンプ

被災者が集まる避難民キャンプ。衛生環境の悪化が懸念される(9月15日撮影)

緊急支援が始まって以来、5度目のノシェラ訪問です。最近は局地的な雨はほとんどなくなり、町にも以前のような汚水の水溜りはあまり見られなくなっていました。しかしその一方で、崩れた家屋は今もそのままの状態で、押し流された屋根の部材やゴミが町中に散乱、道の路肩には汚水混じりの泥が積み上げられており、衛生環境は水害発生当時よりも増して、悪化しています。

溢れる患者、待ちわびた診療所

女性用診察室で患者から話を聞く野際

巡回医療チームが活動する女性用診察室で患者から話を聞く野際紗綾子(左)(9月15日撮影)

前回の9月7日は、ノシェラ郡内で活動する私たちの医療チームのうち、固定診療チームの活動調整を行いましたが、今回は2つの巡回診療チームの活動現場を訪問しました。

1つめの巡回医療チームは、シースマンディという村で、村人の家を借り、そこを臨時の診療所として活動していました。診療所内は2つの部屋に分かれており、一部屋は男性と子ども用、もう一部屋は女性用の診察室で、それぞれの部屋で医師が診察をしていました。私たちは昼頃訪れましたが、決して広くはない診療所はたくさんの患者で溢れており、昼までに少なくとも約100人の患者が既に診療所を訪れたそうです。私たちが滞在している間もひっきりなしに患者の出入りが続いていました。

続いて訪れた2チームめは、シースマンディ村から4km離れたところにある避難キャンプ内で活動していました。このキャンプでは、約90世帯、約800人が生活をしています。臨時の診療所はテント内に設置されており、こちらも午前中のうちに約100人の患者が訪れたそうです。巡回医療チームは、町の中心部から離れた避難所や人口密度の低い地域を回っていますが、そのような場所に医療サービスが行き届いていないことをあらためて実感しました。

震えが止まらない少女、感染症拡大が懸念

マラリアと思われる症状に苦しむナリーンちゃん(7歳)

マラリアと思われる症状に苦しむナリーンちゃん(7歳)

訪れた診療所の医師によると、患者の主な症状としては、下痢や嘔吐などの感染性胃腸炎と、湿疹や発疹などの皮膚病が多いとのこと。私たちがこの日会った患者さんのうち、一番症状が重そうだったのは、1チーム目を訪れた際に会った少女、ナリーンちゃん(7歳)でした。大粒の涙を流しながら母親に連れられてきましたが、熱のためか身体が激しく震えていました。医師はマラリアの疑いがあると診断し、解熱剤を投与すると同時に、冷却スポンジを頭からかぶせるなどの処置をとっていました。

彼女のほかにも、熱に苦しむ患者が数人いました。また、隣の女性用診察室では、風邪の影響で嘔吐をしたり、簡易ベッドに横たわる女性患者もいました。衛生環境の悪化、長期化する避難生活によるストレスから病気を患う人々が増えることが予想されます。診療所を訪れた人たちは皆一様に、診療チームが自分たちの村に来たことを喜んでいました。巡回診療という性格上、医療チームがそれぞれの村やキャンプを訪れるのは週数回に限られますが、中には毎日来て欲しいという声も聞こえました。

被災者からのメッセージ

娘の結婚が延期に
ハジラーン・ビビさんに話を聞く野際(右端)

ハジラーン・ビビさんに話を聞く野際紗綾子(右端)

キャンプ内のテントで暮らすハジラーン・ビビさん(72歳・女性)とその家族に話を伺いました。彼女は、4人の子どもたち(娘1人と息子3人)との5人家族。洪水で家を失い、このキャンプで避難生活をしています。私たちの医療チームの活動には満足してくれていますが、その一方で、「洪水は、私たちの住まいだけでなく、娘の夢も奪いました。」と話してくれました。実は、娘さんの一人が結婚を間近に控えていたのですが、洪水で大切なダウリ(結納金のようなもの)も流されてしまい、結婚が延期になってしまったそうです。「家も生活も大事だが、今は娘の幸せを一番に取り戻したい。」洪水は、物理的なものだけでなく、人々の幸せをも奪ってしまったのです。

洪水前に手術を受けたばかりでした
ローシャン・タジさんに話を聞く川邉(右端)

診療所を訪れる理由は洪水による感染症だけではありません。右端は川邉安行

同様にキャンプ内のテントで暮らすローシャン・タジさん(42歳)にお話を伺いました。彼女は幼い一人息子と一緒に避難生活をしています。洪水の時は、モスクから危険を知らせる放送があったそうですが、正しい情報なのか半信半疑だったようです。しかし、夜、洪水が押し寄せ家が浸水し始めると、置かれている状況に気づき、逃げ出したということです。「私は洪水が発生する前に腹部の手術を行ったばかりでした。洪水で避難生活を余儀なくされ、当初は大変不安に思っていましたが、今は医療チームがサポートをしてくれるので助かっています。」と話してくれました。洪水以前から健康上の問題を抱えている人たちにとっても、医療チームは大きな助けになっているのです。

子どもたちの将来の夢は

避難所の子ども。顔に皮膚病の症状が見られます

避難所の子ども。顔に皮膚病の症状が見られます

活動調整を終えて現場を後にする私たちを、この日もまた、子どもたちが笑顔で見送ってくれました。インタビューの合間に、子どもたちに「将来の夢」を聞いたところ、パイロット、お医者さん、先生、と教えてくれました。子どもたちが、夢に向かうための希望を持ち続けられるように、難民を助ける会では、これからも医療支援と食料・生活用品の配布を被災地で続けていきますが、支援を必要としている方々すべてに届けるための資金が足りません。引き続き、皆さまのご協力を、どうかよろしくお願い申し上げます。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

東京事務局 川邉 安行

2010年6月より東京事務局海外事業担当。大学卒業後、旅行会社に勤務し約50カ国に添乗。その後、難民を助ける会へ。(千葉県出身)

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