終わらない紛争:シリアからトルコに逃れる15万人
内戦の始まった2011年3月からこれまでに、シリア国内の死者は6万人を超えました(1月2日、国連人権高等弁務官事務所発表)。6日に久しぶりに公式の場で演説したアサド大統領は反体制派との対決姿勢を崩しておらず、シリア和平の糸口はまだ見えません。トルコ国内の避難民キャンプに暮らすシリア人の数はこの6ヵ月間で3倍以上に増え、2013年初めには15万人を超えました。これ以外にトルコの市街地で暮らすシリア避難民が数万人いるとされています。
AAR Japan[難民を助ける会]はシリアからの避難民が多く流入しているトルコ南部で、キャンプ外で暮らす避難民への支援活動を続けています。2012年12月20日には、ハタイ県の国境近くの村で、25世帯に食料や生活必需品などの支援物資を配付しました。
「日本の人たちからの支援に感謝します」
支援物資の配付場所となる村を訪れた日は雨が降っており、非常に寒く感じました。シリアとの国境に近いこの村では人々の生活は全体に厳しく、何の暖房器具もない家もあります。中心部から離れていることもあって支援は行き届いておらず、私たちが配付した物資は大変感謝されました。
ハッサン君(5歳)の一家は5ヵ月前、約50km離れたシリアのイドリブから逃れてきました。父親はシリアでは農業を営んでいましたが、ここでは日雇いの仕事で何とか収入を得ています。支援物資の箱を渡すと、「日本の人たちからの支援、ありがとうございます」と母親が感謝の意を伝えてくれました。1ヵ月半前に同じくイドリブから逃れてきた別の家族に話を聞くと、イドリブの市街地は比較的無事ですが、周辺の村は激しい空爆を受けたとのこと。たとえアサド政権と反政府軍の内戦が終わっても、混乱はしばらく続くだろう、というのが多くのシリア人の予測です。故郷に戻れるのがいつになるか、見通しは立ちません。
内戦が影を落とす国境の町
支援物資の配付と並行して、トルコ各地で情勢の調査を続けています。トルコ南部、国境に面するキリスの街には、約13,000人が暮らす大きなシリア避難民キャンプがあります。国境ゲートもあり、シリアの緊迫した情勢がそのままトルコ領内に流れ込んできている感じがします。市内にいくつかある病院を訪れると、戦闘で負傷したというシリア人男性が多く入院していました。壮年の男性に交じって、ベッドに横たわる4歳の男の子も見かけました。空襲で負傷し、父親は亡くなったといいます。
キリスにはボランティアが運営するシリア人のための学校があると聞き、訪問すると、1年生から9年生まで多くの子どもたちが勉強していました。教員40名は全てボランティアで、シリアの人々の支援で運営されているとのことでした。シリアから来ている子どもたちの母語はアラビア語であり、トルコ語はたいていの子がわかりません。避難民キャンプ内ではアラビア語教育の環境が整えられていますが、キャンプ外ではそのような公的支援はないため、子どもたちの教育をどうするかが課題になっています。
AARは引き続きトルコにて、シリアから逃れてきた避難民のために、支援物資の配付や教育支援、障害者支援などの活動を続ける計画です。皆さまのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
※シリアの政治情況に鑑み、登場する避難民の方々やその関係者に不利益の生じないよう、仮名を使うとともに、活動地域の詳細を省略しております。ご了承ください。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 景平 義文
2012年11月より東京事務局でシリア、南スーダン事業を担当。大学院卒業後、ケニアでのNGO勤務を経てAARへ。大阪府出身