東日本大震災:被災地の方々が元気になれるよう、さまざまな活動を続けています
避難生活による孤立や体調不良を防ぐため
震災から2年半が経とうとしています。被災された方々の多くが、今も大変な生活を続けておられますが、状況は地域や個人によってさまざまです。新しい仕事を始めたり、自宅を再建して仮設住宅を離れる方がいる一方で、不便な場所にある仮設住宅で暮らす方々は、車がなければ休日も狭い室内で一日を過ごさざるをえません。特にひとり暮らしのご高齢の方は、外出の機会が少なく、引きこもりがちになります。また、震災や原発で仕事を奪われ、先行きが見えない不安とストレスからアルコールに依存してしまう方もおられます。
AARは、岩手・宮城・福島の3県で、そうした方々の心身の健康状態の悪化を防ぎ、仮設住宅内でも交流を持ってもらいたいと、『地域みんなで元気になろうプロジェクト』と称して、さまざまなイベントを開催しています。
AARが開催しているイベントの主な内容
- 理学療法士/作業療法士によるマッサージ
- カウンセラーによる傾聴活動
- 炊き出し
- ミニコンサート
- 簡単な手芸ワークショップ
- 菜園活動
- 料理教室 など
「思いやりの心に、心身ともに癒されました」
2013年6月22日、23日には、岩手県釜石市の仮設住宅で理学療法士によるマッサージ、手芸ワークショップ、カウンセラーによる傾聴活動を行うイベントを開催しました。会場は仮設住宅内の集会場。事前に全世帯にチラシを配っていたので、朝10時ごろから住民の方々がちらほら訪れはじめます。最初は皆さん緊張気味ですが、理学療法士が、「痛いところはありませんか?」「日ごろ、運動はしていますか?」と声をかけながらマッサージを施すと、徐々に緊張がほぐれ、笑顔を見せてくれ るようになりました。
「優しく話しかけてもらいながら丁寧に揉んでもらったよ。思いやりの心が伝わってきて、心身ともに癒されました」と話すのは、菊池恵美子さん(82歳)。震災以前から身体全体の血行が悪く、特に左ひざに痛みがありましたが、狭い仮設住宅で運動不足になり、さらに悪化しているそうです。
マッサージのほか、ポケットティッシュのカバーを作る手芸コーナーも設けました。AARのスタッフやカウンセラーと一緒にちょっとした作業をすることで、一体感が生まれ、悩みや辛い経験などを話すきっかけにもなります。古川寿さん(84歳)は、「震災のときは波をかぶって気絶し、仮設病院のベッドで意識が戻った。右腕は骨が見えるまで削られて、太ももが赤黒く腫れ上がっていたが、そのときは痛みは感じなかった。その後も黒い水を吐き、一年ほど傷からは黒いものが出続けた。こうして生きているのが不思議だよ」と辛い経験にも関わらず、明るく話してくれました。こうして言葉にすることが、心の傷を癒す第一歩ではないかと考え、話をしやすい雰囲気づくりに努めています。2日間で21名の方々にマッサージを行い、お話を伺いました。
こうした活動は、青年海外協力隊経験者らからなる『JOCVリハビリテーションネットワーク』の理学療法士/作業療法士の皆さん(マッサージ)と、『日本産業カウンセラー協会』会員の皆さん(傾聴活動)にご協力いただき、実施しています。
「野菜作りを通じて、友達もできました」
AARは、屋内でのイベントだけでなく菜園活動の支援も行っています。「集会場には行きづらい」「屋外で身体を動かしたい」「田畑は失ったけど、また野菜を作りたい」などの声を受け、2012年5月からこれまでに、3県の14ヵ所で、土地を確保し、野菜の苗やシャベルなどの道具を支援してきました。「震災前の生活を少しでも取り戻せた」と喜んでくださったり、「協力して作業するので、挨拶しかしなかった近所の人と自然と友達になることができた」などの声が聞かれ、大好評です。
「以前は船の上でよく魚をさばいたよ」
この7月からは新たに料理教室も開始しました。これまでのイベントでは女性の参加者が多かったので、男性陣が参加しやすいように「男の料理教室」と銘打って、7月3日に福島県相馬市にある大野台第二応急仮設住宅の集会所で開催しました。この仮設には、震災による津波の被害や福島第一原発の事故で避難生活を余儀なくされている方々が生活されています。震災前は漁業に従事していた方々が多く、再就職のめどはついていません。
今回の料理は、自宅でも簡単にできる自家製ピザを作りました。ピザ生地と、野菜たっぷりの2種類のソースを作ると、「美味しいね」「仮設住宅の台所は小さいので、こうして思いきり皆で料理ができて楽しい」と皆さん大喜び。完成した料理を食べながら交流を深めました。
参加者の一人、相馬市尾浜出身の漁師、草野等さん(64歳)は、「船の上では魚をさばいて刺身を食べたり、天ぷらもよくしていたよ」と笑顔で話してくださいました。相馬の海はとても豊かな漁場で、これまでは100種類以上の魚が取れていましたが、今は原発の影響のため15種類程度の限定された魚を対象に試験操業している状態で、漁の目途はまだ立たないとのことでした。
被災地を訪れていると、今でも、体験されたことを話しながら号泣される方が多くおられます。「家族で自分だけが助かった」「生きている間に故郷に帰ることはできない」。そうした方々の抱えている問題を前に、言葉を失ってしまうこともしばしばあります。AARにできることは限られていますが、少しでも元気になって欲しい、わずかでも笑顔になれる時間を過ごして欲しいと願いながら、活動を継続していきます。
※これらの活動は、皆さまのあたたかいご寄付に加え、AmeriCares Foundation、Caritas Germany、Diakonie Katastrophenhilfe、GlobalGiving Foundation、キッコーマン株式会社、日本デルモンテ株式会社、株式会社東成社の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東北事務所 大原 真一郎
大学卒業後、民間企業に勤務。東日本大震災の後、2011年7月まで被災地でボランティアに従事。2011年8月からAAR東北事務所へ。宮城県出身