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「障がいのある子どもたちも一緒に学べるように」カンボジアで就学支援を開始しました

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AARは1992年以降、カンボジアで車いすの製造・配付や障がい者のための職業訓練などさまざまな活動を行ってきました。2013年4月より、障がいのある子どもも、障がいのない子どもも一緒に学ぶ「統合教育」の推進を通した障がい児の支援を始めました。

「統合教育」とは?

大きな階段のある小学校

プラエク・タミア小学校の校舎。急な階段を登らなければ教室に入ることはできません(2013年4月24日)

「統合教育」は、障がいの有無に関わらず、すべての子どもたちが同じ場所で学び、それぞれの子どもの特性に応じた配慮を受けられる教育を指します。

カンボジアでは、近年、障がいのある子どもも、障害のない子どもと同様に教育を受ける権利を持つこと、そしてその権利を保障することの重要性が浸透しつつあります。2009年には、統合教育事業の実施に関する基本計画が採択されました。しかし、現在でも政府は未就学障がい児の数や生活状況を把握しておらず、通学路や校舎のバリアフリー化も進んでいません。また、障がい児への教育に関する知識や教授法が普及していないなど、さまざまな課題があり、未だに多くの障がい児が教育を受ける機会を得られずにいるのが現状です。

どうしたら障がいのある子どもも一緒に学べる?

AARカンボジア事務所のスタッフ3名と駐在の園田

4月に開設したカンボジア事務所のメンバー。左からノウ・スレイオン、チェン・チャンディ、リム・ソバナロス。右端は駐在の園田知子。チェン・チャンディは、10歳のときに不発弾の事故に遭い、右腕と左手の3本の指を失いました。「統合教育を推進しているNGOはまだ多くない。障がいのある子どもたちが教育を受けられるよう頑張ります」と張り切っています(2013年6月19日)

AARでは、2013年の4月より首都プノンペン近郊のカンダール州にある3つの地域で、統合教育を推進するための活動を実施しています。まず各地域の小学校計3校で、物理的な障害を取り除くため、スロープの設置、トイレの改修、校内の敷地の舗装を行います。現在、学校側および建設業者とともに、具体的な工事方法について協議を進めています。

また、教員に対して、障がいに関する基本的な知識や統合教育の考え方、障がい児への配慮および教授方法などについて、研修を実施します。同時に地域では、障がい児の数や就学状況、抱えている問題などについて調査し、車いすや歩行器といった補助具の提供や、受けられるサービスの紹介などを行います。さらに、障がい児の家族や地域住民が、障がいに関する知識や教育の重要性についての理解を深められるよう、地域での啓発活動も実施します。

行政や学校、地域の方々と一丸となって!

研修に集まった人々

研修初日、参加メンバーが自己紹介。園田のクメール語の挨拶に参加者から大喝さいもおきました(6月19日)

これらの活動はAARの職員のみで実施するわけではありません。AARは、カンダール州の教育局職員、郡の教育事務所職員、各地域および小学校の代表者、障がい児の保護者、地域で活動する障がい当事者団体の代表者などで構成されたワーキンググループを組織しました。そのメンバーが中心となり、活動を進めていきます。

2013年6月中旬の4日間、ワーキンググループのメンバー15名を対象に研修を実施しました。研修で参加者は、障がいの定義やモデル、関連する国際的な条約や国内の法律・政策、障がいの種類・原因・予防、統合教育の考え方や意義、地域での実態調査の方法などについて、講義やワークショップを通して学びました。また、研修最終日には、参加者全員で今後の具体的な活動計画を立てました。

輪になって話をする研修参加者たち

若手スタッフのロス(リム・ソバナロス、中央)も大活躍!和気あいあいとした雰囲気で進められました。(6月20日)

研修参加者の記念写真

研修で仲良くなりました。ワーキンググループのチームワークもバッチリです(6月20日)

「自分の可能性に気づくきっかけになって欲しい」ニャエム・ダヴットさん(障がい当事者団体の代表)
ダヴットさん写真

ニャエム・ダヴットさんは、自宅で英語教室を開いています

「教育の機会自体は与えられていたとしても、障がい児に必要な環境整備や配慮がなされていないために、結果として障がい児はそれらの機会を十分に活用できていません。

今回の研修は、メンバー全員にとって非常に有益でした。子どもは日々学び、成長します。家族や教師など、周りの大人からの適切な支援があれば、障がい児も自らの能力を伸ばすことができるのです。AARの活動が、障がい児が自分を障がい児だと思わなくなるくらい、自分の可能性に気づくきっかけになって欲しいです」

「教師や地域に働きかけていきたい」スロン・ソチエットさん(小学校の校長)
ソチエットさん写真

支援対象の小学校で校長を務めるスロン・ソチエットさん(右)

「コッチュラム小学校で校長を務めています。小学校には障がい児も通っており、できる限り気に掛けるようにはしていたものの、これまで、各児童にとって必要な配慮を具体的に考える機会はありませんでした。このような支援に、とても感謝しています。研修では、特に統合教育の考え方や意義などについて学べたことが良かったです。ワーキンググループの一員として、校長として、教師や地域住民へしっかりと働きかけ、この事業の目的を果たせるように活動したいです」

カンボジアでは、障がいがあるのは前世の悪行の結果であるという考え方と、それに伴う偏見や差別が根強く残っていると言われています。障がい児が教育を受ける機会を得て、その能力や可能性に本人や周りの人々が気づくことは、このような固定観念を変えていく一助ともなり得ます。障がい児も社会の一員として認められ、教育を受け、自らの可能性を伸ばせるよう、引き続き活動を実施してまいります。

※この活動は、多くの方からのご寄付に加え、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構の「国際ボランティア貯金」の助成を受けて実施しています

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

カンボジア事務所駐在 園田 知子

2011年5月より東京事務局にて海外事業を担当。大学卒業後、在外公館勤務を経て、イギリスの大学院で教育開発を学ぶ。その後、青年海外協力隊員としてカンボジアで2年間学校運営に携わり、AARへ。山口県出身

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