ハイチ:感染症から子どもたちを守る
トイレの使用や手洗いを習慣づけ、感染症を防ぐために
2010年1月の大地震以降AARが支援活動を行っているハイチ共和国は、地震以前から西半球で最も貧しい国でした。道路や学校、病院といったインフラ設備が整っておらず、特にトイレ・手洗い場などの衛生設備は普及していません。さらに地震で壊滅的な被害を受け、国民は一層劣悪な衛生環境での生活を強いられています。不衛生な環境は、2010年秋に始まったコレラの流行に拍車をかけました。その後の1年半の間に約58万人が感染、8,000人近くが亡くなっています。政府も子どもの衛生環境改善を緊急の課題として挙げています。
ハイチ教育省の調査によると、トイレや手洗い場の不足という問題に加え、80%以上の学校で「排泄の際トイレを使用する」、「排泄後に手を洗う」といった行動が、子どもたちの間で習慣づけられていないことが明らかになりました。そこで、2013年2月、AARはコレラの発生率が高い首都ポルトープランス市内のカルフール地区にある8つの小学校で、衛生環境を改善する活動を開始しました。
新しい授業方法を学んだ先生たちによる衛生授業が始まっています
カルフール地区のほとんどの学校には、上下水道がありません。AARはまず、各校に「トイレ」と手洗いや清掃に使うための「雨水貯水タンク」を設置しています。しかし、単に設備を整えるだけでは感染症のリスクを軽減することには繋がりません。手洗いや清掃などの衛生習慣を身に付けることが不可欠です。そこで、学校の教職員を対象に研修を開始しました。
2013年3月下旬から、8つの対象校から教職員3名ずつに参加してもらい研修を実施。衛生に関する知識に加え、「参加型授業」の手法を学んでもらいました。これは、"先生が問題点や答えを教える" のではなく、"子どもたち自身が問題点や解決策を考えていく" 授業の進め方です。まず、AARスタッフが教師役となり、参加者に屋外で排泄している子どものイラストを見せ、「この絵の問題点は何でしょうか」などの質問を投げかけます。「では、実際学校の周りではどうですか?」「どうしたら良いと思いますか?」参加者自身が考え、答えを探して行きます。これまで参加型手法という言葉すら聞いたことがなかった先生たちは熱心に学んでくれました。
計6日間の研修の後、参加した教師のひとり、ロビンソン・マリエン先生(20歳)に話を聞きに行きました。「早速、研修で学んだやり方で、自分の学校の子どもたちに授業を行いました。子どもたちは以前よりもずっと積極的に授業に参加し、集中していました。その結果、学校に通う子どもたちの衣服が清潔になったことに気がつきました。次の研修では、さらに新しい教育手法を身に付けたいです」と意欲的に話してくれました。
7月には2回目の研修を開催しました。それぞれの学校での実際の取り組みを振り返り、成果や課題について意見を交換しました。「学校だけでなく家庭でも衛生に気をつけることが重要だ」といった意見も聞かれ、先生たちの理解が進んでいることを感じました。
子どもたちによる「衛生クラブ」の活動をサポート
さらに、各校に子どもたちによる「衛生クラブ」をつくってもらいました。衛生クラブのメンバーは、トイレや手洗い場の掃除当番を決めたり、他の子どもたちに衛生知識を伝える役割を担います。AARは夏休みに各校の衛生クラブのメンバーを集め、自校の活動を発表するイベントを開催したり、クラブの活動の様子を「学校衛生新聞」として毎月発行・配付するなどして、子どもたちが楽しく活動を行えるようサポートしています。
トイレを使うことや手洗いの重要性は、多くの先生や子どもたちが知っています。しかし、それがなかなか実践されていません。単に知識を伝える教育だけでは、行動の変化には繋がりません。引き続き、衛生についての知識と習慣が広がっていくよう活動を続けてまいります。
※この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ハイチ事務所駐在 平間 亮太
2012年6月よりハイチ駐在。大学在学中に青年海外協力隊に参加し、2年間、西アフリカのベナン共和国でエイズ対策活動に携わる。帰国後、国際協力の分野でさらに専門的な知識を身につけるため大学院で国際保健学を学び、卒業後AARへ。北海道出身