ザンビア:「プライバシーの守られた環境で治療を」エイズ患者のための新しい医療施設
エイズの蔓延が深刻なザンビア。昔は不治の病と信じられていたエイズですが、今ではHIVに感染しても毎日欠かすことなく飲み続ければエイズの発症や進行を抑えることができる「抗レトロウイルス(ARV)薬」というものがあります。しかし、HIV陽性者やエイズ患者のなかには、自分の感染を周囲に知られることを嫌がったり、「今はまだ元気だから」と来院を先延ばしにしてしまうなど、さまざまな理由で服薬を止めてしまう方が多くいます。AARはそうした患者の服薬をサポートできるよう、服薬支援ボランティアの育成や、地域の医療施設の整備を行っています。
AARはこのたび、ルサカ州にあるマウントマクル・クリニックとナンゴングウェ・クリニックに、抗レトロウイルス薬による治療を必要とする患者がプライバシーの守られた環境で診察を受けられる、ARV治療センターを建設しました。10月からザンビアに駐在している櫻井佑樹による報告です。
ARV治療センターの譲渡式には総勢100名が参加しました
11月8日に行った保健局への譲渡式には、ザンビア政府関係者やクリニックの医師、看護師、AARと一緒に活動している服薬支援ボランティア、現地のマスコミ、地域住民など、総勢約100名もの方々が集まりました。式典はチランガ郡長官エディス・ムワナ氏の歓迎のご挨拶から始まりました。続いて当会ザンビア駐在代表の河野洋(ひろみ)より、AARの約30年に及ぶザンビアでの活動の軌跡や、現在の事業内容について紹介しました。また、現在マウントマクルとナンゴングウェで活躍する服薬支援ボランティアの面々を、参列者の皆さまにご紹介しました。
式典にご列席くださった山地秀樹在ザンビア日本国臨時代理大使、ジョセフ・カテマ地域開発・母子保健大臣からご挨拶をいただいたあと、服薬支援ボランティアを代表して、アルバート・ムブンジさんが謝辞を述べました。ムブンジさんは「これまで、HIV陽性者は差別や偏見など、さまざまな問題に直面してきました。プライバシーが確保されたこのセンターが完成したことで、安心して治療が受けられます」と喜び、自分たち服薬支援ボランティアが家庭訪問を実施することで、患者一人ひとりを支えていると、ボランティアの取り組みについても紹介しました。
「差別や偏見のせいで治療から遠ざかってしまう患者をなくしたい」
マウントマクル・クリニックの准医師、エリーシャ・ウワイゼさんは、新しい治療センターについて「これまでの病院の設備では、夏になると室温が高くなりすぎてしまい、薬剤を長期保存することができませんでした。新しくできた薬剤室は空調が完備されているので、長期保存ができるようになります」「これまでは部屋数が少なかったので、患者を長時間待たせたり、他のクリニックに回ってもらったりしていました。新しいセンターでは診察室やカウンセリングルームが増えたので、これからはより多くの患者を受け入れることができます」と嬉しそうに話してくれました。クリニックスタッフの希望は、HIV陽性の子どもたちが適切なときに適切な治療を受けられること、HIV陽性者が差別や偏見で治療から遠ざかってしまうことがなくなることだと、力強く話してくれました。
AARは、患者のプライバシーが守られたARV治療センターでの診察と、服薬支援ボランティアによる待合室を利用したカウンセリングや家庭訪問の相乗効果により、両地域の患者が安心して治療を続けられる環境をつくっていきます。
※この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ザンビア事務所駐在 櫻井 佑樹
大学卒業後、民間財団に勤務したのち、イギリスの大学院で平和学を学ぶ。パキスタンでのNGO勤務を経て、2012年8月よりAARへ。東京事務局でタジキスタン事業などを担当し、2013年10月よりザンビア駐在。