東日本大震災:デザインの力をいかして―東北の施設から、「売れる」商品を生み出す
AARは東日本大震災後、障がい者や高齢者が復興から取り残されないよう、津波や地震の被害を受けた80ヵ所の福祉事業所などの修繕を行ってきました。こうした事業所の利用者が働いて得る工賃は震災前から月に12,000円程でしたが、震災後は販売先や発注元企業が激減し、多くの事業所では震災前の工賃すら下回るようになりました。そこでAARは2012年10月から、世界各国で経営コンサルティングサービスなどを提供するアクセンチュア株式会社とともに、福祉事業所で働く障がい者の方々がいきいきと働ける仕事を作り、工賃を震災前よりも向上させるための取り組みを行っています。AAR仙台事務所スタッフの岸田恵奈(あやな)が報告します。
福祉事業所から生まれた新ブランド「equalto(イクォルト)」
AARはアクセンチュア株式会社と、2013年1月から2月にかけて福祉事業所で作ることができ、使う人にとっても心地よい商品を作ることを目的としたデザインを公募しました(「アートクラフトデザインアワード」)。東北の障がい者のものづくりを応援したいと全国から寄せられた382点の応募作品から、著名デザイナーによる審査を経て5点が選ばれました。商品化にあたっては、宮城県と福島県の4つの福祉事業所に働きかけました。各事業所ではこれまでにアクセサリー、Tシャツ、木工製品、革製品を製造してきましたが、この5点の製造にあたっては、アワードの審査に参加したアッシュコンセプトに協力を仰ぎました。ユニークな雑貨をデザイン・企画販売する同社に製法を相談したり、同社のノウハウを活かして福祉事業所で新商品を作るための製造環境を整えるとともに、大量の受注の際にも障がい者の方々が無理なく作ることができるよう、製造工程を調整してきました。
手縫いのアクセサリー(写真右上)を作ることになった社会福祉法人「緑仙会パルいずみ」(宮城県)職業指導員の水落美紀さんは、「AARの方が何度も足を運び、状況を確認しながらスケジュールを調整してくれたので、これまでのやり方に企業のものづくりの手法を取り入れていくことができました。流通の仕組みを学び刺激になりました」と嬉しそうに話してくださいました。アワードから9ヵ月、5つの商品はequalto(イクォルト)というスタイリッシュなブランドとして、アッシュコンセプトを販売元に誕生しました。
来場者の反応が大きな励みに
これらの商品は、11月6~8日に東京ビッグサイトで開催された百貨店や小売店などの売り手と直接商談を行う東京国際家具見本市に展示されました。会場で商品の説明をした福祉事業所の方々は、来場者からの高い評価に驚きながらも、喜んでいらっしゃいました。革のペンスタンド(写真右下)を作っているNPO法人「がんばろう会だんでらいおん」(福島県)の瀬谷ノブ子施設長は、「今までは自分たちが作りたいものを作るだけでしたが、今回は(AARや企業が関わることで)消費者の方々に欲しいと思っていただけるものを作れたと思う」と手応えを感じていました。
1月末までに貯金箱(写真右)の注文を400個受けた社会福祉法人「一寿会」(宮城県)の棟方義久施設長は「かなり忙しいですが、次回の受注につながるよう期日までに納品します」と意気込んでいます。商品の継続的な注文が来れば、福祉事業所で働く障がい者の方々の仕事が増え、工賃が大幅に上がります。ぜひイクォルトを応援してください。
equalto〈イクォルト〉のホームページができました。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
仙台事務所 岸田恵奈(あやな)
2012年7月よりAAR仙台事務所で被災地支援に従事。「被災された方々それぞれ復興のスピードも、必要なものも違います。丁寧に話を聞いて必要な支援を届けていきます」。山形県出身