ザンビア:卒業を目指して―エイズで親を亡くした子どもたちの就学支援
アフリカ南部に位置するザンビア共和国ではHIV/エイズの問題が深刻で、エイズで親を亡くした子どもが約80万人もいると言われています。そうした子どもたちの多くは祖父母や親戚、知人などに育てられますが、引き取る家庭も貧しく、学校に通うことが難しいのが現状です。
教育を受けられなければ将来仕事に就くことが困難になり、貧困から抜け出すことがより難しくなります。ザンビア駐在員の河野洋が、今年10周年を迎えるAARのエイズ遺児の就学支援についてご報告します。
子どもたちの成長をそばで見続けてきました
右の写真は、AARがウィルソンくんの支援を始めた2008年に撮影したものです。叔母のワイネスさんの隣であどけない笑顔を見せていたウィルソンくんも、今や17歳(10年生)になりました。6歳のときに母親を、7歳のときに父親をエイズで亡くした彼は、現在も叔母の家で暮らしています。
AARが彼の就学支援を始めて6年が経ち、ウィルソンくんを取り巻く環境は大きく変わりました。祖父が亡くなり、ずっと面倒を見てきてくれたワイネスさんの体調も優れません。7人家族の月収は300クワチャ(約60ドル)だけです。
また、何よりもウィルソンくんにHIV陽性の症状が出てしまいました。母子感染によりHIV陽性だということは子どものころから分かっていましたが、これまで続けてきた抗レトロウィルス薬(ARV薬)の服用を止めてしまったために、顔面に発疹が現れてしまったのです。
ARV薬は毎日飲み続ければエイズの発症や進行を抑えることができる薬です。しかし、ウィルソンくんは家族の理解が不足していることや、同じくARV薬を服用していた友人が亡くなったことで、「どうせ自分も死んでしまうんだ」と、服薬継続の意欲を失ってしまいました。クリニックにも通院しなくなってしまったウィルソンくんを見て、私たちはとても心配していました。現地職員のアンジェラが通院や薬の必要性を説こうとしても連絡が取れず、家族の協力もなかなか得られません。一刻も早く服用を再開して欲しいという焦る気持ちを抑え、時間をかけて説得を試みた結果、ウィルソンくんはアンジェラと一緒にクリニックに行き血液検査を受け、最近ようやく服薬を再開しました。
卒業まで通学を続ける難しさ
AARが現在支援している43名の子どもたちの中には、ウィルソンくんのように母子感染した子のほかにも、たとえHIV陰性であっても、兄弟姉妹だけで暮らしている子、孤児院から通学している子など、生活環境に問題を抱えている子が多くいます。受け入れ先の家庭を支えるために、通学のかたわら日雇いの仕事をしなくてはならない子もいます。ザンビア政府は子どもたちをサポートする体制を作ろうとはしていますが、支援は絶対的に不足しているのが現状です。劣悪な生活環境や教育の不足は精神面にも影響し、10代での妊娠、飲酒、非行といった行動が大きな問題となっています。
心に寄り添う支援を
こうしたなかAARは、学費や制服、学用品の提供といった就学に関わる支援のみならず、心のケアも重視し、困難な環境でも子どもたちが学校に通い続けられるように努めています。2013年末からは家庭での社会心理カウンセラーによるカウンセリングを開始しました。子どもや家族と何度も向き合い、じっくり話し合いを重ね、生活の悩みや課題を一つずつ解決しています。
現在、服薬を再開したウィルソンくんの状態は安定していますが、まだ目は離せません。AARは地元ボランティアとも協力しながら、服薬状況や体調を定期的に確認しています。ウィルソンくんが今後もARV薬の服用を継続し、無事に学校を卒業することを願ってやみません。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ザンビア事務所駐在 河野 洋(かわのひろみ)
2009年AARへ。東京事務局でザンビア事業などを担当した後、2012年1月より駐在。「どんな辛い状況にいる子どもも、将来の夢を叶えるために通学を続けて欲しい。今後も出来る限りの支援を続けていきます」