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ミャンマー:障がい者の自立をサポート 活躍する職業訓練校の卒業生たち

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15年間で1,200名以上の障がい者に職業訓練を行いました

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2014年第1期生の卒業式で、歌と踊りを披露する卒業生たち。卒業生の代表は「訓練校で培った技術を活かし、地域にいる人々、特に自分たちのように障がいのある人々のために貢献したい」と語りました(2014年4月9日)

ミャンマーでは、前世に悪行を行うと現世で障がいを持って生まれる、という迷信が人々の中にまだ根強く残っています。また、ミャンマーの公用語であるビルマ語の「障がい者」には「(障がいがあるから)『できない人』」との意味があり、そのイメージから、障がい者は何もできない人間だと思われてしまう傾向にあります。そのため、障がい者は家の中で家族の世話になりながら生活するのが当然という考えがまだ一般的であり、家族であっても、障がい者のための教育に対する関心は低いのが現状です。また、このような社会的・文化的な要因に加え、福祉に関わる人材や公的予算の不足から、ミャンマーの障がい者が地域社会に参画できる機会は限られています。

こうした状況を受け、AARは、ミャンマーの社会福祉・救済復興省社会福祉局とともに、1999年よりヤンゴンで活動を開始しました。2000年には障がい者のための職業訓練校を開校。以来、2014年5月までに1,200名以上の障がい者が理容美容コース、洋裁コース、コンピューターコースの3コースを卒業しました。2013年度の就職率は理容美容コースで95%、洋裁コースで90%、コンピューターコースで42%にのぼります。

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18歳から40歳までの訓練生が一緒に学びます。洋裁コースの授業の様子(2012年5月30日)

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「私たちが作りました!」職業訓練校内に併設されている、洋裁モデルショップのスタッフと訓練生たち(2014年4月30日)

各地で活躍する卒業生

ミャンマー全土より集まった訓練生は、3ヵ月半、全寮制の職業訓練校でともに学び、故郷で経済的に自立して生活ができるよう、技術を身に付けます。卒業生のうち約8割が、就職または独立開業しています。

ティン・ティン・エーさん―「家計を支えることができて嬉しい」

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自宅の一角で洋裁店を営むティン・ティン・エーさん(2011年卒業生、2014年3月8日)

ティン・ティン・エーさんは現在27歳。2011年の洋裁コースの卒業生です。エヤワディ地域出身の彼女は、3歳のときにかかったポリオのため、右足に障がいがあります。友人を通してAARの職業訓練校について知り、入学しました。3ヵ月半一生懸命勉強し、優秀な成績を修めた彼女は、その後続けて8ヵ月間、卒業生を対象としたクラスで店舗経営について学びました。店舗経営クラスを卒業するとヤンゴンへ引っ越してきた家族のもとへ戻り、自宅の一角で洋裁店を開業。お店を開いて3年目の今は、オーダーメイドの注文を受けているほか、洋裁の技術を学びたいという女の子たちの指導もしています。「家計を支えることができて、とても嬉しいです」と話してくれました。

ウェイ・リン・マウンさん―障がい当事者の仲間と協力して起業

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仲間と開店した理容店で働くウェイ・リン・マウンさん(2012年卒業生、2013年8月13日)

ウェイ・リン・マウンさん(27歳)は、ポリオのため左足に障がいがあります。理容・美容コースで学び、卒業後、ダラ地区で障がい当事者である仲間とグループを作り、理容店を開きました。メンバーは手分けして運営や経理を担い、そのかたわら地域の人々に障がいについて理解してもらう活動も行っています。将来は理容店で上げた利益で学用品を購入し、地域で障がいのある子どもたちに配布するなど、地域の障がい者のために役立ちたいそうです。このような活動は、家に閉じこもりがちな障がい者の社会参加の場であり、また、地域の方々の障がいに対する理解を深める場ともなっています。

訓練生の多くは、職業訓練校に入学するまでは障がいのために外に出ることが少なく、他人と接する機会がほとんどありませんでした。全寮制の生活を経て、技術だけでなく社会性も身に付けた卒業生たちの中には、地元の障がい者支援団体などでボランティア活動を始める方も多くいます。卒業生がミャンマー全国で開業したお店で質の高いサービスを提供し、さらに地域での啓発活動に取り組むことで、障がいに対する社会の偏見が徐々に是正されているように感じます。

ビジネスの場でも活躍できる力を

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2010年コンピューターコース首席卒業生のザー・チー・ワイさん。民間会社の受付係を経て、現在、政府行政部局の事務員として働いています。「周りには(障がい者だから)就職は難しいと言われていたけれど、自分を信じて職を得ることができました。職業訓練校での経験が生きています」

経済成長が急速に進むミャンマーでは、国内外の企業が目覚ましい発展を遂げています。障がい者の雇用状況が十分とは言えないミャンマーで、AARは訓練生の企業訪問やインターンシップ制度を設けたりしながら、企業や工場、店舗に向けての障がい者の職業斡旋にも力を入れています。

2013年度に卒業した合計127名のうち、30名がAARが紹介した工場や店舗で働いています。さらに、今年4月に卒業した14名(理容美容コース1名、洋裁コース10名、コンピューターコース3名)の就職先を紹介しました。2014年4月からは職業斡旋を担当する職員のポストも設け、就職に向けてより力強いサポートを行っています。

障がいがありながらも、ミャンマーの地域社会で活躍していこうとする訓練生・卒業生たちを、私たちはこれからも支援していきます。

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洋裁コースの生徒たちと、縫製工場に見学に行きました。ヤンゴン郊外にあるこの縫製工場では、2014年4月から5名の卒業生が雇用されています(2014年2月8日)

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コンピューターコースでは、市場のニーズを把握するため、コンピューター商品を扱う店舗を見学しました(2013年8月1日)

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

ミャンマー事務所駐在 本川 南海子(もとかわなみこ)

2013年5月よりミャンマー駐在。イギリスの大学院で農村開発を学び、卒業後NGO職員としてインドで有機農業支援に携わる。その後青年海外協力隊に参加し、ネパールでの活動を経てAARへ。「真面目で勉強熱心、そして礼節を重んじるミャンマーの人々と共に働けることに感謝!です」

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