フィリピン台風30号から1年 被災地での障がい者支援
超大型の台風30号(現地名ヨランダ)がフィリピン中部を襲ったのは、2013年11月8日のこと。AARは被災直後から2014年10月末まで、最も被害が大きかったといわれるレイテ島タクロバン市とパロ町、セブ島北部で物資の配付や家屋修繕のための支援などを実施しました。支援を進めるにあたって重点を置いたのは、AARの経験を活かした障がい者支援でした。
AARだからこそできる支援を追求
被災直後、現地では障がいのある方の安否確認や現状の調査は行われていませんでした。そこでAARは支援から取り残される人がいないように、どこにどのような障がい者の方々が住んでいるかを把握するための戸別訪問を開始。その結果判明した5,687名の情報を市町村に提供するとともに、その方々の世帯に食料などの物資を配付しました。さらにその後も私たちは支援を続けました。台風で多くの方が車いすなど歩行補助具を失ったこと、そしてフィリピンでもまた、障がいのある方への公的支援が不足しており、差別があるために障がい者の方々が家に閉じこもりがちであることがわかったからです。
ひとりひとりに合った『足』を
そこでAARはレイテ島タクロバン市とパロ町で、車いす40台、歩行器具27台を必要としている方に届けました。車いすや歩行器具は、自分たちの『足』。種類やサイズがひとりひとりに合っていることが重要です。AARは、現地の車いす専門家の団体とともに、足の長さなどを計測し、体のバランスや姿勢を把握する『測定会』、車いすを調節し、操作練習を行う『フィッティング』を行ったうえで車いすを提供しました。その後も使いづらい点がないかなどを確かめる『フォローアップ』を実施して、きめ細かい支援を心掛けました。
ビーチに行って、絵を描いて...車いすで広がる夢
脳性まひのため歩行が困難なユウさん(19歳)は「車いすのおかげで、ひとりでトイレに行けるようになって嬉しい」と言います。「お母さんに車いすで1日に2回、外に連れていってもらいます。ときどきビーチにも連れて行ってくれて、そこで絵を描くようになりました。もっとうまくなりたい」と笑顔で語ってくれました。
クリステルさん(11歳)は、バランスをとることが苦手なためひとりで座ることが難しく、食事もお母さんの膝のうえで支えられながらとっているような状態でした。でも最近のクリステルさんは、AARが提供した車いすのおかげで、長時間ひとりで座っていられるようになりました。お母さんは「最近は意思疎通もよくできるようになってきたと思います」と、心身ともにクリステルさんの状態がよくなっていることを報告してくれました。
2014年12月にも大型台風がやってきたフィリピン。AARは迅速な支援ができるよう事前にスタッフを現地に派遣しましたが、台風の勢力が弱まったことや人々の防災意識が高まったこともあり、被害は限定的だったため緊急支援を見送りました。今後も災害が起きた際には、AARが市町村に提供した障がい者の方々の情報が支援を届けるために役立つことを、そして車いすが障がいのある方の迅速な避難につながることを祈っています。
この活動は2014年12月をもって終了しました。ご支援に感謝申し上げます。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 大室 和也
2014年4 月から12月まで、理学療法士としての知識を活かしながらフィリピンの支援活動に従事。「災害弱者といわれる障がい者の方の『防災力』を高められたなら嬉しいです」。京都府出身。