これからの国際協力のカタチ~AAR創立35周年記念シンポジウム~
AAR Japan[難民を助ける会]は創立35周年を記念し、2014年11月27日、国連大学ウ・タント国際会議場にて、シンポジウム「今私たちはどんな世界に生きているのか 国際協力が描く未来」を開催。約300名の方にご来場いただきました。冒頭、AAR会長の柳瀬房子による挨拶の後、第1部は世界各国の現場で取材経験のあるジャーナリスト・池上彰さんによる特別講演が行われ、第2部では外務省や国連などさまざまな立場から国際協力に携わってきたパネリストが加わって、日本が取り組むべき国際協力の形を考えました。
「現場に行ったからこそ、見えてくる現実がある」
第1部では、池上彰さんに「私たちが生きる世界-求められる国際協力の形」というテーマで、お話いただきました。アフリカ北東部のジブチにあるソマリア難民キャンプや、ヨルダンのシリア難民キャンプを取材した経験をもとに、「実際に現場に取材に行ったからこそ見えてくる現実がある」と語った池上さん。現場で池上さんが見たのは、ただ援助を受けて暮らしているのではなく、どこからか食材を手に入れ街灯から電気を引いて、キャンプ内で八百屋や肉屋を始める、 たくましい難民の姿でした。そこで池上さんは、難民の方々を単なる支援の対象としてみるのではなく、自分で働き、稼ぐ意欲、その一人ひとりのプライドを尊重する姿勢が大切だと考えたと語りました。またラオスでは、ある日本の支援団体が何かを「作ってあげる」のではなく、現地の人々に「この村に何が必要なのか」を話し合う場 を設けた例を紹介。「学校が必要だ」と気付いた人々は、最終的には木や藁などを使い自分たちの力で学校を建設したそうです。人々の自発性を引き出すことを手伝い、本当に技術や知識が必要な時にサポートをする、「援助ではなく協力」の姿勢が求められているのではないかと池上さんは訴えました。
また、現在アフリカで流行しているエボラ出血熱を例に挙げ、常日頃からの衛生教育の重要性を強調。「正しい知識こそがワクチンになる」と話し、1964年の東京オリンピックの際に行われた日本国内の衛生運動を紹介しました。池上さん自身、子どものころ学校で、石けんで手を洗うことをまず教え込まれたといいます。現在では常識となっている知識も、数十年の間に教えられ身についたものであることを指摘し、教育の重要性を語りました。最後に、AARの活動が国内のインドシナ難民支援から始まったことに触れ、自身がカンボジアで出会った、難民として日本で育った通訳の男性とのエピソードを披露しました。男性は幼少時代にカンボジアでの大量虐殺を逃れ、難民として日本に逃れてきました。その後、日本で大学を卒業し、日本国籍を取得した男性は 「私はカンボジアで生まれたが、日本に育てられた。これからは日本とカンボジアの『架け橋』になりたい」と語っていたそうです。池上さんは、国際協力には 現地に向かうだけでなく、その国の人を受け入れるというやり方もあると話しました。そしてそれによって日本と各国との『架け橋』ができ、「長い目で見れば日本の安全保障にも繋がっていくのではないか」と訴えました。
国際協力は誰にでもできる
第2部では、三好真理さん(外務省領事局長)、関正雄さん(CBCC[企業市民協議会]企画部会長/損保ジャパン日本興亜CSR部上席顧問)、東京外国語大学教授でAAR副理事長の伊勢崎賢治さんをパネラーにお招きし、「日本人だからできる国際協力の今とこれから」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
三好さんはジュネーブの国際機関日本政府代表部で難民支援に携わった経験があり、現在は外務省領事局長として海外渡航情報の提供などを担当しています。「国際協力には持続性が重要」と話し、日本とインドネシアの漁業連携を例に挙げ、魚をあげるのではなく魚の獲り方を教えるなど、日本による技術的支援の大切さを語りました。 また、「交番」や「母子手帳」などの日本ならではの『知恵』が、現地の治安向上や乳幼児の死亡率の減少に役に立っていることにも触れ、今後日本からこうした『知恵』をさらに発信していきたいと述べました。
関さんは、企業の立場から社会貢献活動を推進してきました。さまざまな日本企業のCSR(企業の社会的責任)活動の枠組みを紹介したうえで、CSR活動は本業と切り離して『付け足し』で行うものではなく、ビジネスの中に組み込んで行っていくものだとしました。また、日本では、新卒で入社すると一つの企業に一生勤める「エスカレーター型」のため、自分の会社以外の社会のことは何も知らない人間になってしまう場合が多いとして、企業とNGOが人材交流 を広げ、課題解決に向けてともに働くべきだと話しました。
伊勢崎さんは20代のときに滞在したシエラレオネでの経験から、アフリカの貧困問題が30年前の当時と変わらず続いているとしたうえで、その間に変わったことは、国際協力の業界が大きくなったことだと指摘。国際協力のあり方を根本的に考え直すべきだと訴えました。また、内戦中の国が産出・輸出して武器購入の資金源とするいわゆる「紛争ダイヤモンド」について触れ、何も考えずにモノを消費することがほかの国の人々を苦しめる結果につながりかねないと警鐘を鳴らしました。
これに関連してコーディネーターを務めたAAR理事長の長有紀枝は、国連やNGOなどの国際協力業界で働くことだけが国際協力ではなく、消費者として世界で起きていることを知り、購入する商品を選ぶことが、企業を動かすことにもつながる「一番身近で誰にでもできる国際協力」だと話しました。
「そもそもなぜ国際協力が必要なのか?」
今回のパネルディスカッションで長は、日本人が全体的に内向きになっているなかで「日本国内にも解決すべき課題がたくさんあるのに、なぜ国際協力が必要なのか」という問いかけにどう答えるべきか、と問題提起しました。三好さんは、世界中のつながりがますます緊密になっており、「日本は島国といえども世界とは切り離して生きられない」と指摘。長は、「日本は海によって世界と離れているのではなく、海を通じて世界全体とつながっている」と述べました。そして池上さんは、東日本大震災が起きた2011年に、世界で国際社会から最も支援を受けた国は日本だったことを挙げ、「『情けは人のためならず』が援助だ」と訴えました。また、会場の学生からの「学生時代にどんな能力を身につけておくべ きか」という質問に対し、困っている人がどこにいて、何を困っているのか「分析する能力」を身につけてほしいと話し、最後に「想像力は世界を救う。その力をつけてほしい」とエールを送りました。
寒い中、多くの皆さまにご来場、ご協力いただきまして心より感謝申し上げます。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 松本 夏季
2012年4月より東京事務局にて広報・啓発担当。大学院在学中に国際機関でインターンとして勤務し、卒業後AARへ。