相馬の経験から、これからの防災をみんなで考える
2015年3月15日、16日にかけて、「防災イベント in SOMA」を開催しました。このイベントは、第3回国連防災世界会議(2015年3月14~18日)の開催に合わせ、福島県相馬地方が地震・津波・原発事故の複合災害を経て学んだ教訓や、4年に亘る復興の過程で取り組んできた防災・減災対策を発信することを目的としたものです。AAR Japan[難民を助ける会]福島事業担当の髙木卓美の報告です。
ものまねと民謡で、笑顔の絶えないコンサート
1日目は、民謡歌手の原田直之さんと、演芸家の江戸家猫八さんによる「被災地応援コンサート」を開催しました。第1部は江戸家猫八さんによるお話、「まずは健康から」。笑うことの大切さを、動物の鳴きまねを交えて、実践していただきました。猫八さんの代名詞でもあるうぐいすの鳴きまねから、かえる、にわとり、ねこなど、楽しいものまねを披露され、終始笑いの絶えないステージとなりました。最後にはお客さまも参加した羊の鳴きまねで大合唱。客席とステージとの一体感が感じられました。
第2部は福島県双葉郡浪江町出身の、原田直之氏による民謡コンサート。「美しきわが故郷」からはじまり、復興支援ソング「花は咲く」。そしてご当地相馬の美しい民謡「新相馬節」「相馬流れ山」「相馬盆歌」を唄っていただきました。地元の唄を中心とした構成に、一緒に口ずさむ方、目頭をおさえる方もいらっしゃいました。
これからの防災に生かせることは
3月16日には、「相馬地方防災シンポジウム -東日本大震災から4年 あらためて振り返る当時の対応とこれからの防災対策-」を開催しました。
開会式では、バヌアツを襲った大型サイクロンの緊急対応でお忙しい中ご来場くださった、康京和(カン・キョンファ)国連事務次長補(人道問題担当)兼 緊急援助副調整官に、ご挨拶をいただきました。事前にAAR理事長の長有紀枝とともに相馬市の被災地を視察されたカン・キョンファ氏は、「国際社会は福島を忘れてはいない。そして国連は被災した日本の家族に寄り添い続けている」と述べられ、福島で被災した方々へ激励のメッセージを贈られました。
カン・キョンファ国連事務次長補の当日のスピーチは国連人道問題調整事務所(OCHA)のページでご覧いただけます。
続いて立谷秀清相馬市長に、震災直後の相馬市の対応と、4年間取り組んでこられた防災対策をお話しいただきました。相馬市は明治以降、東日本大震災が起こるまで津波による死者が出たことはなく、津波への対策はほとんどできていなかったといいます。立谷市長は、震災直後から今日まで「次の死者を出さない」という大目標のもと、すぐ対応すべきことと、再建に向けて取り組むべきことの二点を常に見直しながら復興に取り組んできたことを話されました。「4年間、孤独死や経済的な理由による自殺を相馬市で今日まで出さないでこられたことは、相馬市の皆さんが一丸となってこの危機に向き合ってくれたおかげ」と振り返り、市民の皆さんが登壇するパネルディスカッションへとつなぎました。
第一部パネルディスカッション「相馬地方の経験」では、相馬市消防団第7分団長の横山和洋氏、みなと保育園園長の和田信寿氏、NPO法人さぽーとセンターぴあ代表理事の青田由幸氏、津波にのまれたご経験をもち相馬市震災語り部となった五十嵐ひで子氏、震災直後から炊き出しなどの支援を行った相馬市女性団体連絡会会長の新妻はつ子氏、県内有数の景勝地であった松川浦の復興に尽力している松川浦観光旅館組合組合長の管野正三氏が登壇されました。登壇者の皆さんは震災当時を振り返り、「自分の命は自ら守るという気持ちを大切にしてほしい」「日頃から、要援護者がどこにいるのか、地域で把握することが重要」「相馬の経験を、後世に伝えていきたい」とお話しされました。
第二部相馬地方の医療関係者によるセッション「医療現場からの報告」では、相馬地方で働く医師がそれぞれのテーマで医療現場からの報告を行いました。南相馬市立総合病院の及川友好副院長は「原発事故と脳卒中」、相馬中央病院の越智小枝医師は「原発事故による健康被害とは」、坪倉正治医師は「相馬地方の被ばくの現状とその対策」、森田知宏医師は「原発事故後の高齢化」についてお話しされました。原発事故による人体への影響や、高齢者が健康のために気を付けるべきことなど、会場から寄せられた質問にも医師の立場から分かりやすくお答えいただきました。
防災イベント in SOMAには、2日間で約1,100名ものお客さまにお越しいただきました。関東からも、AARが企画した被災地バスツアーに参加された84名の方が防災イベントに参加されました。バスツアーのお客さまは、非常食バイキング、語り部によるお話、原発事故により居住制限区域に指定されている浪江町や、津波の大きな被害を受けた松川浦の視察、「復興のシンボル」スパリゾートハワイアンズでの宿泊など、1泊2日で盛りだくさんの体験をされ、コンサート・シンポジウムにも双方にご参加いただきました。被災地を初めて訪れたという方は、「テレビで見聞きするのと違い、一人ひとりのお話に迫力と説得力があり、今後何をするべきか考えるよい機会となりました」と感想をお寄せくださいました。
AARでは、今後も被災した方々の声を最大限に生かした支援活動を継続していくとともに、被災地の方々が震災の教訓を発信するお手伝いをしていきます。本イベント開催にご協力いただいた皆さま、ご参加いただいた皆さまに、心より御礼申し上げます。
AAR理事長の長有紀枝によるブログもご覧ください。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 髙木卓美
2014年4月より東京事務局で福島事業を担当。大学卒業後、音楽活動、民間企業を経て大学で職員として勤務した後、AARへ。「小さいことを粘り強くこつこつと積み重ねて、福島のためによい支援をしていきたい」。埼玉県出身