五年目のシリア危機―緊急支援と中長期的支援を実施しています
依然として危機的状況が続くシリア。2011年以来続く紛争によって20万人以上が命を奪われ、国民の半数以上が避難生活を与儀なくされています。今も周辺諸国や欧米各国へ人々が続々と流出し続けており、AAR Japan[難民を助ける会]が2012年10月より活動を行うトルコには現在約170万人が避難しています。AARが現在トルコ南東部で実施している、緊急支援と中長期的支援についてご報告します。
助かった命を繋ぐ
トルコ南東部のシリア国境の町は、やっとの思いで母国から避難してきた方々であふれています。シリアでは武装組織「IS」※による攻勢が昨年9月に激化、トルコへ避難する人々の数は急激に増加しました。トルコ政府や民間組織が設置した難民キャンプにすら入ることのできない人々の中には、荒野にビニールシートを張っただけのテントに身を寄せている方も多くいます。
※イスラム教への誤解が広がらないよう、今後「イスラム国」ではなく「IS」という呼称を用います。
流入し続ける難民への緊急支援
キャンプの外での生活を余儀なくされている方々の所在を把握するのは難しく、現地行政や国際社会からの支援も届きにくい状況にあります。AARは、現地NGO団体と協力しながら各地を回り、避難している方々を探して支援物資を届けてきました。昨年10月から、食料、衛生用品や台所用品、毛布などの配付を続けています。当初は2週間分の食料を届けていましたが、予測以上に援助が不足しており、12月からは約1ヵ月分に増やしました。タンパク質も取れるよう、木の実のペーストを配付するなど栄養価にも配慮しています。
キャンプでの貴重な生鮮品
難民キャンプの中にも、支援が十分行き届いているとは言えません。キャンプでは1日2、3回は食事が提供されていますが、果物や野菜などの生鮮品がほとんど手に入らず、栄養バランスが偏りがちです。AARは今年1月、キャンプに暮らす1,517世帯に新鮮なオレンジ、りんご、みかんを3回に分けて届けました。「最後に果物を食べたのはいつだったろう、おいしい!」などと大変喜ばれました。リンゴを受け取るやいなやおいしそうにかぶりつく子もいたほどです。長期化する避難生活が健康に及ぼす影響も、見過ごすことはできません。
長期化する避難生活を支える
シリア国内の状況はいまだ混迷を極めています。「いつか母国に帰りたい」――多くの難民の方々はそう思いながら、慣れない外国での長期にわたる避難生活を強いられています。
トルコにいる多くのシリア難民は、まず言語の壁に直面します。加えて就業、子どもの教育、医療など、悩みや不安は尽きません。また、急激に人口が増え物価が高騰したなどとして、シリア人と地元のトルコ人との間に軋轢も生じています。生活面での不安を少しでも軽減するとともに、地域のトルコ人とも交流できる公民館のような場を提供しようと、AARは昨年7月からコミュニティセンターを運営しています。
ここで生きていくためのスキルを
「早く仕事を見つけたい」「子どもが熱を出したけれど、医療費が払えない」など、センターには1ヵ月に約70件の相談が寄せられます。AARの現地スタッフが、センターで実施しているトルコ語やコンピューター講座への参加を勧めたり、トルコでは難民は医療が無料で受けられるといった制度の存在を、一人ひとりに伝えています。
昨年7月から今年2月末までに578人がトルコ語などの講座を受講。地域交流を目的としたスポーツイベントなどには4,808人が参加しました。アンケートでは、イベントに参加したトルコ人の80%が「シリア人のことを身近に感じた」と答えるなど、前向きな関係構築が進んでいます。
シリアからトルコへの難民数は今後も増加することが予想されており、シリア人がトルコ社会で生活していくための基盤整備は大きな課題となっています。AARは、今年6月より同様のコミュニティセンターをほかの地域でも開設する準備を進めています。
今、緊急物資の配付とともに、難民の生活基盤を整備する、中長期的な支援も求められています。引き続きのご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。
※この活動は、皆さまからのあたたかいご支援に加え、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 景平 義文
2012年11月より、トルコでのシリア難民支援を担当。大学院で教育開発を学び、他NGOの駐在員としてケニアでの2年半の駐在を経て、AARへ。大阪府出身