南スーダン:29万人に届けた安全な水_10年に亘る活動を終了しました
AAR Japan[難民を助ける会]は、10年に亘り支援を行ってきた南スーダンでの活動を終了することになりました。AARでは、スーダン内戦が終結した2005年以降、南スーダン共和国南東部の東エクアトリア州カポエタに事務所を置き、井戸などの給水施設や、基礎的な診療施設の建設と修繕、そして、それらを維持するための人材育成を行ってきました。しかし2013年12月に南スーダンで騒乱が起こり、日本の外務省の渡航情報で、首都ジュバを除く南スーダン全土が、最も危険が高いとされるレベル4「退避勧告」に指定されて以降、日本人職員の駐在はもちろん、出張もできない状態が続いています。2014年からは、東京事務所から現地スタッフと密に連絡を取りながら活動を続けてきましたが、渡航レベルが近い将来引き下げられる可能性は非常に低く、日本人駐在員不在の中で、この先の事業の質を保ちつつ、安全に支援活動を続けることは困難と判断し、2015年12月をもって、南スーダン事務所を閉鎖致しました。これまで皆さまから頂いたご支援により実施してまいりました活動の成果をご報告します。
住民が活動を引き継いでいくために
給水施設の建設支援では、東エクアトリア州にて、小規模給水塔7基、手押し井戸144基を建設し、地域行政や地域住民と協力して井戸417基を修理しました。これらの活動によって約29万人に安全な水を届けることができるようになりました。また、小学校11校、そして東エクアトリア州南部のカポエタの町に公衆トイレを建設するとともに、衛生啓発活動も実施し、小学校の児童や地域住民を対象に手洗いやトイレ利用の大切さを伝える講習会を開催しました。 さらに、基礎保健分野では、応急処置などを行う簡易診療所を3棟建設しました。
AARは、地元の方々に活動を引き継いでもらうことを念頭に置き、地域行政や地域住民が自らの手で、給水、衛生、そして医療施設をしっかり維持、管理できるような基盤作りや人材育成を行ってきました。ロパ・ラフォン郡では、地域保健員研修を通して13名の政府公認の保健員を育成し、東エクアトリア州の3つの郡では、郡役所の水担当局が定期的に井戸を修理するようになり、2015年11月には1ヵ月で、合計18基の修理を行っていました。
また、郡の集落に設置した給水施設や公衆トイレでは、使用料を取って維持する仕組みが根付き、徴収したお金で管理人を雇用し、必要に応じて自分たちで修理も行っています。また、地域保健員は、その後、地元の6村にて応急処置などの簡易医療を担っています。
変わらない南スーダンへの想い
2013年12月の騒乱は、220万人の国内避難民と64万人に上る難民を生み出す大惨事となりましたが、全土が戦場になったわけではなく、カポエタは、幸いにも直接戦火に巻き込まれることはありませんでした。しかし南スーダン国内の状況は、日々変化しており、国内に戻ることが難しい状況は続いています。
2015年8月に南スーダン政府と反政府勢力間で和平合意が締結され、これから南スーダンの国造りに向けて再出発しようとしているこの時期に、南スーダン事業を終了せざるを得ないことになったことは非常に残念ですが、これからもAARは現場で活動する団体の責務として、状況を正確に把握し、最適な支援活動を行ってまいります。
南スーダン国内での事業は終了しましたが、AARは今回の騒乱で発生した難民支援のため、2014年2月より隣国ケニア共和国のカクマ難民キャンプで、難民支援を行っています。これまでに校舎代わりのテントの設置、小児科病棟の建設などを行い、現在は長期化する難民問題の喫緊の課題である中等教育校の建設を行っています。
改めまして、これまでのご支援に心より御礼申し上げます。今後も南スーダンの方々への支援として、ケニアでの難民支援活動を続けてまいります。引き続きAARの活動への、深いご理解と、温かいご支援をいただきますよう何卒よろしくお願い致します。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 角谷 亮
大学卒業後、在外公館派遣員として2年半勤務。2007年9月にAARに入職し、タジキスタン、南スーダン、ハイチ、トルコでの駐在を経て、現在は東京事務局でケニア・カクマでの南スーダン難民支援事業などを担当。兵庫県出身