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東日本大震災:「みんなで未来を」福島の歩み

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震災から間もなく5年。AAR Japan[難民を助ける会]は福島県で、東日本大震災で被災した福祉事業所と障がい者への支援を実施しています。東北事務所で支援活動に携わっていた宮崎佐和子が、福島の今を報告します。

ゼロからのスタート

震災後、福島第一原子力発電所から30km圏内にある市町村に住んでいた障がい者は、避難先を転々とする生活を余儀なくされ、福祉事業所も移転を迫られました。避難先でようやく事業所を再開しても、通い始めた障がい者が作業する仕事がなかなかみつかりませんでした。震災前は作った商品を地元の商店で販売してもらうなど、地域の人たちとのつながりで仕事を確保していましたが、原発事故による避難・移転でこうした地縁が途切れ、取引先を失ってしまいました。
そのうえ、避難先の設備不足などから、食品や手工芸品の製造といった、震災前の事業を断念せざるを得ない事業所も多く、新しい環境で一から仕事をつくる必要に迫られました。それだけではありません。事業所に通う障がい者や職員が減ったり、避難した影響で遠方から通わざるをえず作業時間が減少したりするなど、課題は山積みでした。

「弱み」を「強み」に発想転換

この厳しい環境とどう向き合っていくのか。答えは「弱み」を「強み」に変えることにありました。「箱を作るなど簡単な作業しかできない」「販路開拓は難しい」。各事業所はそれぞれ「弱み」を抱えていました。でも、発想を転換し「箱なら作れる」「お菓子なら焼ける」「営業ならできる」と、それらを「強み」だと考えるようにしました。「NPO法人しんせい」の富永美保さんのコーディネートで集った事業所の取り組みに、製菓技術の指導という形で日清製粉グループが参加しました。AARもパッケージデザインや調理器具を支援するなど、福祉事業所、企業、NPOが集うプロジェクトが2013年秋に始まりました。そして約1年間の試行錯誤を経て、ついに2014年秋、焼き菓子「ぽるぼろん」が誕生しました。

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パッケージづくりなどで「ぽるぼろん」事業に参加している「サロンどじょう」の皆さん(2015年10月14日)撮影:三浦晴子(halken.LLP)

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福祉事業所が力を合わせて製造・販売している「ぽるぼろん」


2016年2月現在、12の事業所がこの「ぽるぼろん」プロジェクトに参加し、各事業所が、それぞれ菓子製造や箱折り、販売活動など得意な仕事を担当しながら、丁寧なお菓子作りに取り組んでいます。参加する事業所の規模や目的はさまざまですが、AARは各事業所をこまめに訪問しながら、製造や販売における課題を把握・解決するなどのサポートを現在行っています。また、参加するすべての事業所を集めて研修会を開いており、共通の課題について対策を話し合ったり、販売促進のアイデアを出し合ったりして、連携強化やモチベーションの向上につなげています。
 事業所で目にする光景は、楽しみながらも真剣に仕事に取り組む障がいのある方々の姿です。「障がい者も職員も、仕事がなかった震災直後から失いかけていた自信を取り戻し、やりがいを感じながら日々仕事に励んでいます」と、富永さんは言います。

「震災は終わっていない」

2015年9月の避難指示解除に伴い、避難先で生活を続ける障がい者たちと福祉作業所は今、故郷に帰るか、帰らないかの選択を迫られています。帰還を決めた事業所では、震災前まで使っていた施設や設備の修繕、移転先探しなど、避難先にとどまる決断をした事業所では、公的支援の終了に伴い、運営資金をどう確保するかなど、いずれの場合も新たな問題に直面しています。刻一刻と変化する福島の現状を見るにつけて、震災は終わっていないことを身にしみて感じます。福島での活動は、「三歩進んで二歩下がる」の繰り返し。障がい者や事業所スタッフの方々と一緒に、前に進んでいる喜びを感じるときもあれば、環境の変化によって、また振り出しに戻ってしまったと落胆するときもあります。
 

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「ぽるぼろん」プロジェクトを紹介するイベントには、企業のCSR担当者や自治体職員の方など、さまざまな職種の方々が参加してくれました(2015年12月16日)

こうした行きつ戻りつの歩みを支えているのが、「ぽるぼろん」プロジェクトです。2015年12月16日には、事業所スタッフがプロジェクトの紹介と福島の現状を発信するイベントを東京都内で開催しました。参加したある自治体の職員の方は「この取り組みと福島の障がい者の方々の現状を回りの人に 伝えたいと思います」と感想を話してくれました。さらに、当日用意した「ぽるぼろん」は完売。「福島のために何かしたい」と思ってくださる人たちの共感の輪の広がりを実感できるイベントとなりました。またプロジェクトのホームページで各事業所を紹介するなど、さらに共感と支援の輪が広がることを期待しています。

事業所で働く障がい者も職員も、プロジェクトに携わる企業もNPOも、そして「ぽるぼろん」を購入いただくお客さまも、一人ひとりが自分のできることをしながら、福島の問題と向き合い、乗り越えようとしているのが、この「ぽるぼろん」プロジェクトではないかと思います。もちろん、「ぽるぼろん」プロジェクトだけで、福祉事業所や福島県が抱える問題は解決しません。しかし、険しい復興の道のりから目を背けないために、AARもこの「ぽるぼろん」プロジェクトを通して福島の現状を発信し続けていきたいと思います。

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

仙台事務所 宮崎 佐和子

震災後、支援活動に携わりたいとAAR でのインターンを始め、2012年2月から職員に。2015年12月まで、主に福島県の復興支援を担当し、福祉事業所商品の販売促進などに携わる。東京都出身

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