緊急調査・ギリシャの難民はいま~難民を市民の力で支える~
ギリシャに密航船でたどり着き、難民申請をしない移民や難民を、EUがトルコに送還しはじめて2ヵ月。現地の難民の窮状を探るため、AAR Japan[難民を助ける会]は5月に調査を行いました。そこで出会ったのはさまざまな理由で、母国を後にせざるをえなかった人たちでした。6月20日は「世界難民の日」。ギリシャの現状を報告します。
財政的余裕のないギリシャ
ギリシャでの調査は5月1日から11日にかけて行いました。5月17日現在、ギリシャにはシリア人やアフガニスタン人など約54,500人の難民がいます。トルコからギリシャにボートで渡り、ドイツなどの国を目指していましたが、今年に入り欧州の国境が次々と閉ざされ、ギリシャから先に進むことができなくなってしまいました。彼らのほとんどは戻ることも進むこともできずに、首都アテネ、マケドニア国境近くの北部地域、島嶼部などに設置された難民キャンプで生活しています。しかしギリシャは経済危機の最中であることから、政府に財政的余裕はありません。そのため、一部の難民は劣悪な生活環境のなかで過ごさざるを得なくなっています。
NGOが中心となって運営しているレスボス島のカラテペ・キャンプ(上写真)はゴミ収集やトイレの整備なども行われ、比較的環境がよいのに対し、政府を中心に運営されているモリア・キャンプ(下写真)は二重のフェンスに囲まれて自由に出入りができず、シェルターの数も足りず、長蛇の列に並んで受け取れる食料はビスケットとお茶だけという状態です。
またアテネ近郊のピレウス港では、行き場のない難民たちがテント生活を強いられています(下写真)。NGOが食料配付などの支援を行っていますが、この「テント村」も観光シーズンを前に撤去されるだろうとのことでした。
難民の多くはギリシャ政府に対して難民申請をしており、申請が認められれば合法的にギリシャで生活することができ、他のEU加盟国に移ることも可能になります。とはいえ、申請の数が多いため、ギリシャ政府の審査は追いついておらず、まだかなりの時間がかかることが予想されます。
難民を支えているのはNGO
こうした状況から、ギリシャにいる難民を支援する必要性が高まっていますが、ギリシャは欧州連合(EU)の加盟国であるため、「ギリシャの難民問題は欧州の問題」と見なされています。しかし欧州各国も自国に押し寄せた難民への対応で手一杯で、充分にギリシャを支援できていません。そして欧州以外の国際社会もギリシャへの支援に消極的です。日本の外務省も「ギリシャは政府開発援助(ODA)の対象外」としているため、動く気配がありません。各国政府の動きが鈍い中、ギリシャの難民を支えているのはNGOなのです。このことは今回の調査で最も印象深いことでした。「難民」を看板に掲げている私たちも、ギリシャの難民支援に立ち上がるべきだと感じました。
現在、AARは現地協力団体を通じ、ギリシャのレスボス島に一人で密航してきた子どもたちを、宿泊施設を提供するなどして保護しています(右写真)。また、ギリシャにいる難民は、今後同国やEUの制度に沿って、難民申請、移住、定住などの段階を踏んでいきますが、それらの制度は煩雑で、理解が困難です。難民それぞれが最も適切な判断をするには、制度をわかりやすく説明するなど、法的な支援を行っていく必要があります。AARは今後、こうした法的な支援を中心にしてギリシャの難民を支援していきます。
この支援を行うにあたって政府からの助成はなく、皆さまからのご寄付のみが頼りです。国が動かなくとも、市民が動けばギリシャの難民を支援することができます。どうかご協力をお願いします。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 景平義文
2012年11月より東京事務局でシリア、南スーダン事業を担当。大学院卒業後、ケニアでのNGO勤務を経てAARへ。大阪府出身