すべての人が「障がい者とともに」ある社会を目指して ー 国際会議参加報告
2016年9月27日から29日まで、障がいに関する国際会議、「第2回CBR世界会議」が、マレーシアの首都クアラルンプールで開催されました。今年は、国連障害者権利条約の採択から10年の年です。会議には、78ヵ国からNGOや政府関係者、障がい当事者など1000人以上が参加し、各地・各分野で、この10年間どのような取りくみがなされてきたかを振り返るとともに、国連障害者権利条約および、昨年国連で策定された、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて、今後の障がい者支援のあり方を協議する場となりました。AAR Japan [難民を助ける会]からはカンボジア事務所の向井郷美と現地職員のラタナ・イェン、東京事務局カンボジア事業担当の大室和也の3名が参加しました。向井郷美が報告します。
「できない人」ではなく「異なる能力がある人」
CBRとは、Community Based Rehabilitationの略で、日本語では「地域に根ざしたリハビリテーション」と言います。特に途上国で見られるような、農村部の貧困層や障がい者に適切な医療やリハビリサービスが届かない状況を改善しようと生まれた社会開発の手法のことです。障がいの有無に関わらず、誰も排除されることなく、すべての人を取り込んだ社会を築いていくことを目的にしています。現在、リハビリテーションという言葉から想起されるような医療面だけでなく、教育や職業訓練、雇用創出、さらには、芸術やスポーツを通した社会参加など、障がい者のエンパワーメントにつながる幅広い分野の活動が世界各国で実践されています。
3日間の会議を通して、障がい者支援に携わる者が果たす役割、各地域の実践例、WHOやユニセフなどの国際機関の取り組みなど、多岐に渡る内容について学ぶことができました。特に参加者同士の協議では、CBRの持続性を高めるために必要なことや、今後のCBRのあり方などについて活発な意見交換が行われました。3日目の協議で一緒になったインドネシア人の女性は、空港で、同行者の中で車いすを利用している彼女だけが、一人特別な待合室に案内されたという経験を話してくれました。その部屋で待つ間、彼女は痛切に「自分は障がい者なんだ」と自覚させられたそうです。彼女の話を聞きながら、本当の意味で障がい者が排除されない社会を築いていくためには、障がい者自身やその家族、地域住民、行政などすべての人が、「障がい者のために」ではなく「障がい者とともに」の視点を持って、CBR実践者となることが必要なのではないかと感じました。
最終日には、AARがカンボジアで実施している「インクルーシブ教育推進事業」について発表する時間もありました。私たちは、障がいの有無に関わらず、すべての子どもが適切な支援を受けながらともに学べるよう、「子ども」ではなく、「教育システム」を変えていくことを目指しており、障がい児の就学を阻むさまざまな要素に対応するため、包括的な取り組みをしています。例えば、校舎のバリアフリー化や教員研修の実施、地域住民や生徒の障がいに対する理解促進など、障がい児をとりまく環境を改善すると同時に、障がい児ごとに異なる困難に対応するための個別支援を行っています。また、この取り組みが地域に根付いていくよう、事業の鍵となる推進部会は、障がい当事者、障がい児の家族、教員や教育事務所関係者、保健センタースタッフ、村の代表者など、さまざまな分野のメンバーで構成されています。発表では、2013年の事業開始からこれまでの成果や、さらに取り組んでいくべき課題を報告しました。新たに学校に通い始めたり、授業に積極的に取り組むようになった子どももいます。今後は、本会議で得たネットワークを生かし、他地域の成功例をさらに学びながら、推進部会を強化しつつ、特に手の届きにくい重度障がい者への支援についてもあらゆる可能性を考えていきたいと思っています。
ある参加者が、障がい者は"Dis-abled(できない人)"ではなく、"Differently-abled(異なる能力がある人)"だと話していました。AARは、異なる能力のある人々が、その能力を十分に発揮しながら社会に参加していけるよう、その基礎となる教育支援に引き続き取り組んでいきます。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
カンボジア事務所 向井 郷美
2013年11月より東京事務局で主にカンボジア事業を担当し2015年3月よりカンボジア駐在。日本の中学校や中国の高校で教師として働く中で、教育を受けたくても受けられない子どもの問題に関心を持ち、大学院で国際協力について学ぶ。青森県出身