シリア難民支援:「私が難民になったら」 トルコの小中学生に出張ワークショップ
近くて遠い存在
AAR Japan[難民を助ける会]はトルコで2012年からシリア難民の支援を実施しています。シリアの隣国であるトルコには、2016年11月現在276万人のシリア難民が暮らしています。シリア難民が流入してきたことで、家賃や物価が高騰するという事態も起き、地元のトルコ人の不満が徐々に表面化しつつあります。トルコ人の中には、自分の仕事がシリア難民に奪われるという危機感を持っている人もいます。そんな中でAARは、トルコ南東部のシャンルウルファで、トルコ人とシリア難民がお互いの文化や生活を知り、両者の相互理解が進むようイベントやワークショップを開催しています。
先日、トルコ・イスタンブールの私立学校「ユートピア」の先生と、当会の活動について話していたところ、先生より、シリア難民についてのワークショップを子どもたちに行ってほしいとの依頼を受けました。ユートピアは子どもたちの自主性と国際感覚を養うことを大きな柱にしています。ワークショップを依頼した理由として「イスタンブールにも避難生活を強いられているシリア難民は多いが、子どもたちが難民と接する機会はほとんどなく、他人ごとだと思ってしまっています。また、ものを大事にしなかったり、食べ物を残す子どもたちに、ワークショップを通じて、同じトルコに生活するシリア難民について学び、自分たちの生活を見つめなおすきっかけにしてほしい。また、シリア難民のために自分たちができることについて考えてほしい」と話してくれました。
11月16日、ユートピアの小学3年生から中学1年生までの約40人を対象に、ワークショップを行いました。ワークショップを始める前に、2011年、トルコ・ワン県でおきた地震の際のAARの支援活動についてと、その際、余震により命を落とした当会職員、宮崎淳さんについて話をしました。生徒は静まり返り、集中して話に聞きいってくれました。
ワークショップでは、今年の8月に東京事務局で開催した子どもイベント「ワタシが難民になったら...」で使用した題材をもとに、トルコが内戦状態になったという想定で、子どもたちに難民の疑似体験を行ってもらいました。
ワークショップを通じて他人ごとが自分ごとに
自分が難民になったら「避難先の隣国に留まるか」、「ヨーロッパでの生活を目指してさらに移動するか」、「内戦状態の祖国トルコに戻るか」という3つの選択では、子どもたちは自分の境遇と重ね合わせ、「ヨーロッパに行くんだったらイギリスを選ぶ。なぜなら自分は英語ができるので、言葉の壁はすぐにクリアできるから」「家族と一緒に安全な場所で生活したいから、避難先の隣国の難民キャンプに住み続けたい」「自分は内戦状態のトルコに帰る。そして祖国のために戦う」というそれぞれの考えを持って自分の人生を選択していました。日本の子どもたちの反応と大きく違ったところは、陸路で隣国に逃げることが現実的に考えられたことと、内戦状態にある自分の国というものを想像することができたことでしょうか。
ワークショップの最後に流した、トルコに逃げてくる際に地雷を踏んで、自分の右足と弟を失った少女の動画を目にした子どもたちは、大きなため息をついたり、眉間にしわを寄せながら動画から目を離さないなど、反応はさまざまでした。動画の最後に校長先生が「自分が突然足を失ったらどうする?家族を突然なくすことって考えられる?」と質問すると、生徒たちは、言葉もない様子でうつむいていました。
校長先生は「子どもたちにとって、今後シリア難民のために何ができるか考えるよいきっかけになりました。今後も、また機会があったらこのようなワークショップを行ってほしいです」と話してくれました。多くのシリア難民が避難しているトルコで、地元住民のシリア難民に対する理解が深められるよう、支援活動と並行して啓発活動を継続していきたいと思います。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 栁田 純子
2013年5月より東京事務局でシリア難民支援事業を担当。トルコで7年間、ピアノ教師として働いた後、AARへ。東京都出身