パキスタン:女の子の教育環境を整える
パキスタン北西部のハイバル・パフトゥンハー州には、隣国アフガニスタンから逃れてきた多くの難民が暮らしています。しかしもともと給水システムなど生活の基盤となるインフラが脆弱なため、難民はもちろん地域住民も厳しい生活を強いられています。AAR Japan[難民を助ける会]はここで2011年から、未来を担う子どもたちを支援するため、小学校での教室増築やトイレ・手洗い場の設置など教育環境の改善に取り組んできました。現在は、3つのアフガニスタン難民キャンプを抱え、約84,000人の難民が住んでいるといわれているハリプール郡で、女子児童が通う小学校への支援を実施しています。難民キャンプ内にある学校と、難民を受け入れている地域のパキスタン人が通う学校の両方が対象です。
女の子が学校に通えない理由
ハリプール郡には男子小学校が613校あるのに対し、女子小学校は356校と半数ほどしかありません。女性が教育を受ける機会が圧倒的に不足しているその背景には、 「女性に教育は要らない」、「早く結婚して家を守るべきだ」といった伝統的な差別や習慣、貧しく金銭的余裕がないために女の子よりも男の子を優先的に学校へ通わせているといった事情があります。さらに、家から学校が遠く、危険な地域を通って通わせることを嫌がる、あるいは、女子教育を敵視するイスラム原理主義の標的になることを恐れている親もいます。このようなさまざまな障壁を乗り越えて学校に通ったとしても、さらに女性の教育を阻む問題があります。AARがハリプール郡の公立女子小学校で、児童90名を対象に調査を実施したところ、40%と半分近くが、トイレや手洗いの問題を理由に「学校に行きたくない」と答えたのです。
トイレがあっても...
日本では当たり前の安全な水が不足しているため、ハリプール郡の公立女子小学校の多くには、学校内に給水施設がありません。特に乾季の夏には水量が不十分となり、教師や児童はトイレがあっても使用できず、手洗いや掃除もできません。支援を開始する前に教師に聞き取り調査を行ったところ、毎日、全校児童の7~10%が体調不良を理由に欠席しており、特に夏はその割合が20%にまで増えるとのことでした。また、難民キャンプ内にある女子小学校も、教室やトイレは数だけを見れば十分にあるのですが、実はトイレの大半は故障しており(下写真)、手洗い場などもありませんでした。近年、パキスタン政府は難民のアフガニスタンへの帰還を促しており、パキスタンに留まっている難民への支援は限定的です。国際機関による支援も緊縮財政などを理由に減少しており、このような学校の設備を整えることは困難な状況です。
女子児童の就学率の低さの要因の一つとなっている劣悪な衛生環境を改善するため、AARは、パキスタンの公立女子小学校と難民キャンプ内にある女子小学校で、井戸の掘削、手洗い場や給水タンクなどの設置(右写真)、トイレの修繕を行いました。また、パキスタンとアフガニスタンの女子児童230人を対象に調査したところ、98%の児童の家庭で殺菌されていない水が飲み水として使用されており、「トイレの使用後に手を洗っている」と答えた児童がわずか35%だったことなどから、衛生啓発活動にも取り組んでいます(左下写真)。パキスタン人小学校で衛生教育を受けている5年生の女の子に「いつ手を洗う?」と聞くと、「トイレの後、お昼ご飯の前と後!」とはっきり答えてくれました。
女の子が安心して勉強に取り組める環境を作るために、引き続き皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
パキスタン事務所 山本 祐一郎
2015年1月より2016年12月までパキスタン駐在。米国の大学、英国の大学院、インドネシアでの教育コンサルタントなどを経て、2011年11月にAARへ。大阪府生まれ、カリフォルニア育ち