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シリアの「母の日」~わが子への深い愛を胸に~

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3月21日は、シリアの「母の日」。この日、トルコでAAR Japan[難民を助ける会]が運営しているコミュニティセンターで、母の日イベントを開催しました。イベントを担当したトルコ駐在員の五味さおりからの報告です。

「子どもを守るため、どんな苦境に立たされても頑張る」

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発表者の語る体験に聞き入るシリアのお母さんたち。イベントの間、すすり泣きと励ましの声が途切れることはありませんでした  (2017年3月21日、トルコ・シャンルウルファ)

「母の日」のイベントには、近くに住むシリア難民の女性27人が参加しました。紛争で子を失ったり、家族散り散りで避難するしかなかったりといった経験や、その辛さをいかに克服してトルコでの避難生活を送っているかを語り合い、お互いに励まし合いました。

サナさんは、まだシリアで暮らしていたとき、公務員だった息子が、結婚式の3日前に家の前で射殺されたと言います。犯人はわかっていません。遺体は、埋葬に向かう途中で政府に取り上げられてしまいました。もう一人の息子もそのときに拘束されましたが、75日後に釈放され、今はその息子と孫とともにトルコで暮らしています。「息子をきちんと埋葬し、お墓を立ててあげられなかったことを、今でも悔やんでいます。毎日遠く離れた地から、コーランを読んで捧げることしかできません」。手を固く握り締め、嗚咽しながら語るサナさんに、周囲の女性たちから「コーランを読んであげるだけでも十分。きっと彼の魂に届いているはず」と、次々と励ましの言葉がかけられました。

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コミュニティセンターの音楽教師の伴奏に併せ、シリアの母の歌を披露するトルコ人の男の子。アラビア語で熱唱する姿に参加者は大喜びです(2017年3月21日、トルコ・シャンルウルファ)

アミネさんの息子は、ダマスカスでパスポートの取得手続きをしている途中に拘束され、7ヵ月もの間、居場所が分かりませんでした。彼女は毎日、どんな危険な場所にも赴いて必死で息子を探し、ある日やっとの思いで再会することができました。「今はもう何も怖くありません。息子が生きていてくれている、ただそれだけで十分です」。真っ直ぐに前を見つめる瞳がとても印象的でした。

16歳で結婚して一児をもうけたというファトマさんは、不仲の夫との離婚を望んでいました。しかし夫は離婚に応じないばかりか、別の女性とも結婚をしてしまいました。シリアでも重婚は法律的には認められていませんが、複数の女性との婚姻を認める風習が、地域によっては残っているのです。そのうえ、子どもまで取り上げると言ってきていました。彼女はこの状況を乗り越えるため、まずは教養と知識を身につけようと、このコミュニティセンターでトルコ語の読み書きや手芸などを学んでいます。「子どもを守りたいから、どんな苦境に立たされても頑張ろうと思えるんです」。

ひとりひとりが 体験を語る間、部屋では女性たちのすすり泣きと、共感と励ましの声が始終聞こえてきました。

シリア難民のお母さんたちの支えとなる場所に

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コミュニティセンターでの料理教室の様子。知り合いもいない異国で様々な心配事を抱えた女性たちが、仲間を見つけ、楽しいひとときを過ごしています(2016年8月16日、トルコ・シャンルウルファ)

シリアの母親たちが経験したことは、日本の私たちの想像を絶するようなことばかりです。子どもがヨーロッパやアメリカ、中東地域に散り散りになっているという方も多かったので、私は、私自身の母親への気持ちを語りました。「私の母は、治安も不安定な異国に子を送り出すという辛い立場にありながら、結局、トルコで働きたいという私の決断を後押ししてくれました。母には本当に感謝しています。きっと皆さんのお子さんたちも同じように、感謝していると思います。お母さん、信じてくれてありがとう、と」。皆さんが泣きながら聞いてくださるので、不覚にも私も涙目になってしまいました。

着任してすぐの頃は、このコミュニティセンターに通っている方たちがまさかここまで壮絶な体験をしているとは、思いもよりませんでした。皆、センターではいつも笑い合ったり、冗談を飛ばし合ったりして明るくふるまっているからです。彼女たちはこれほどに辛い思いに耐えながら前に進もうとしているのだと、あらためて痛感しました。そんな彼女たちの生きる支えのひとつとして、いつでも気軽にコミュニティセンターにいらしていただけるように力を尽くしたいと、思いを新たにした一日でした。

 (※シリアの政治状況に鑑み、登場する方々やその家族に不利益の生じないよう、仮名を使用しています。)

【報告者】 記事掲載時のプロフィールです

トルコ事務所 五味さおり

2017年2月よりトルコ事務所駐在し、シリア難民支援に従事。アメリカで育ち、大学卒業後に日本へ。大手広告代理店で3年半働いたのち、AARへ。

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