ギリシャ:保護者のいない子どもの難民を守る
シリアをはじめ、各国からEU諸国を目指す難民・移民が押し寄せるギリシャ。AAR Japan[難民を助ける会]は2015年から現地団体METActionを通じて、ギリシャに避難する保護者のいない子どもの難民への支援を行っています。METActionから届いた報告です。
たった一人で海を越えて ― あらゆる危険にさらされる、保護者のいない子どもの難民
2015年以来、100万人を超える難民や移民が、海を渡ってギリシャにやってきました。命からがら到着した人たちの中でも、とりわけ保護を必要としているのが、大人の同伴者なしに単身で避難してきた未成年の子どもたちです。ギリシャ当局の報告では、その数は2016年以降に限っても、実に6,189人を数えました。
人々がまず辿り着くのが、ギリシャの中でもレスボス島やサモス島、キオス島といった島々です。しかし小さな島への急激な難民の流入に、受け入れ態勢はまったく追いついていません。
EUではもともと、難民申請を希望する人はEU域内で最初に到着した国で申請しなければならない、という決まりがありましたが、多くの難民、移民はEU域内であるギリシャに最初に到着した後も、ギリシャを素通りし、他のEU加盟国を目指していました。しかし2016年初頭以降、次々とEU域内の国境が閉ざされた結果ギリシャから移動できなくなり、また、2016年3月にはEUとトルコの間で、最初に到着した国で難民申請をしない人たちをトルコに送還するという取り決めがなされたことにより、ギリシャに滞留する人は膨大な数になりました。
ギリシャでの2016年の難民申請は、前年に比べ3倍近い51,092件。そのうち子どもによるものが19,720件です。ギリシャに到着した人たちが滞在できる公的な施設はごく限られ、多くの人が設備の整わない非公式のキャンプや、公園に張った粗末なテントで過ごしています。こうした場所に身を寄せる子どもは、誘拐や人身売買、レイプといった犯罪や暴力事件に巻き込まれる危険性が非常に高いのです。申請手続きはあまりの数の多さに遅々として進まず、人々は長期間にわたって劣悪な環境下で手続きが進むのを待ち続けなければなりません。
こうした中、子どもたちが安全に滞在できる施設が、緊急に求められていました。そこでAARは2015年から、現地NGOを通じて単身で避難している子どもたちの支援を始めました。
子どもたちの保護に奮闘する現地NGO・METAction
AARの協力団体・METAction(以下、META)は、レスボス島やキオス島、アテネなどで、単身で避難している未成年の難民を保護する現地NGOです。子どもたちの安全な施設への移送や、保護ネットワークの構築、外国籍の子どもたちの里親制度の試行、そして2015年末には島々に一時滞在施設を建設しました。
METAが運営する施設のひとつ、キオス島中心部にある一時滞在施設は、最大20人を受け入れることができます。ここにはソーシャルワーカーや心理士、教育者、社会学者、看護師などの職員がフルタイムで働いており、夜間には警備員も配備しています。彼らの活動は、教育や医療面などをサポートする、国内外の多くのボランティアに支えられています。
METAは子どもたちの安全を確保するとともに、権利を保護し、個別の状況に合わせたケアを提供することを使命としています。
キオス島に設立した一時滞在施設では、METAが構築した子どもたちの保護ネットワークと密接に連携をとっています。このネットワークは、子どもたちの法的支援や教育、医療、そして離散した家族や親戚との再会の支援などを含み、公的機関の認証を受けた人たちで構成されています。
施設のスタッフとこの保護ネットワークによって、子どもたちの権利を守っていきます。
医療、教育......キオス島でのさまざまな課題
キオス島では様々な課題がありますが、そのひとつが医療です。難民・移民の流入で人口が急増する中、島の公立病院は、限られた医師や設備、医薬品で、受入可能な人数をはるかに超える患者を診てきましたが、健診や手術などの措置は著しく遅れています。さらに、島の公立病院には精神病医はたったひとりしかいません。子どもたちは、元々単身で国を出た子もいれば、避難の途中で親とはぐれてしまった子もいます。母国での、そして避難中の過酷な経験から、多くは、PTSDや他の精神的な問題を抱えています。子どもたちの深刻な精神状態に対応するため、METAでは民間の専門家に診療を依頼することもあります。その専門家もごく限られています。
教育の問題も、医療と同様に大きな課題です。国際法やギリシャの法律では、難民の子どもたちは無償で教育を受ける権利があります。ギリシャの教育省も受け入れの努力をしていますが、圧倒的多数の子どもたちは学校に通えていません。島嶼部の学校でも受け入れが計画されていますが、宙に浮いたままです。
そこでMETAの運営する施設では、学校に行けない子どもたちに対して、彼らのニーズや特性に合わせ、語学コースをはじめ、さまざまなレクリエーションの機会を提供しています。
METAへのAARの支援
AARは2015年からMETAの活動を支援しています。2016年度は、これまで費用の問題から整備できていなかった、IT設備や通訳サービスの機能を整えました。
この施設でこれまで受け入れた24人の子どもたちは、ほとんどがシリアとアフガニスタンの出身です。AARの支援でまずアラビア語の通訳をフルタイムで雇えるようになり、最も多いシリア難民の子どもたちと施設の職員の意思疎通が可能になりました。また、他の言語を話す子どもが来た時も、必要な時に通訳サービスを頼めるようになりました。子どもたちにわかる言葉でコミュニケーションをとり、彼らがここに来るまでに辿ってきた背景、家族、ニーズ、将来の計画などの重要な情報を得て、難民申請手続きや家族との再統合など、彼らが必要とする支援を迅速に把握することができます。さらに通訳者は、施設の職員や弁護士などの支援者と子どもたちとの間に良い関係を築くという、とても重要な役割を担っています。
アテネで母子世帯の難民の支援も始動
METAでは2017年度も引き続き、保護者のいない未成年の難民の保護を行っています。それに加え、新たにアテネで母子世帯の難民の支援も開始しました。母親と子どもだけで避難生活をしている世帯も、子どもだけで避難している難民と同様に、人身売買や性暴力などの犯罪に巻き込まれる危険性が高く、こうした世帯が安全に身を寄せることのできる施設がいまだに圧倒的に不足しています。そこでAARは2017年度から、METAがアテネに開設した母子世帯の難民のための保護施設を支援しています。この施設では宿泊に加えて、心理士やソーシャルワーカー、通訳を配置し、法律相談、難民申請の手続き支援、医療や教育など、彼らが適切なサービスを受けられるようサポートします。
ご近所さん、こんにちは!~こどもの日を祝って~ |
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昨年11月の世界こどもの日を祝って、METAの一時滞在施設に暮らす子どもたちは、職員と一緒にパーティーを催しました。子どもたちは大いにはりきって自分たちの"家"に人々を招待。やってきたのは、近所の住民や他のキャンプに暮らす友達、ボランティアの先生、そしてMETAの保護ネットワークを構成する通訳、弁護士、マネージャーなどのメンバーです。 子どもたちは故郷の料理を作ったり、別の子はDJの役割をしたりと、お客様を大喜びでもてなしました。みんなで踊った様々な国のリズムは、子どもたちを、彼らが失った遠い故郷へと運んでくれました。 |