ミャンマー:障がい者雇用の理解を深める
ミャンマーでは、障がい者の失業率は85%以上、軽度の障がい者に限った失業率でさえ58.2%という報告もあり、障がい者への福祉サービスは十分とは言えません。AAR Japan[難民を助ける会]はミャンマー・ヤンゴンで、障がい者のための職業訓練校を運営し、障がい者の就労を支援し続けています。
17年間で1600名が卒業
訓練校には、理容美容、洋裁、コンピューターの3コースがあり、3ヵ月半の間、各コースで約15名の訓練生が基礎技術を習得します。
2000年の設立以来、卒業生の人数は約1,600名に上ります。長年に渡って改善を重ねてきた、きめ細やかな技術訓練や就労支援が実を結び、2016年には146名が卒業し、卒業後の就労率は92%にもなりました。
これまでは、洋裁、理容美容コースは自宅開業か町の小さな洋裁店、理容美容店、そしてPCコースは、町の印刷・タイピングショップ、本屋のデータ入力、現地企業の事務職、雑誌出版社、テレフォンオペレーターなどが主な就労先となっています。近年、ミャンマーでは経済発展や外国企業の参入に伴い、サービス業や縫製工場など、社会全体としては雇用が拡大していますが、障がい者の就労への理解はまだまだ進んでいません。また、企業側が求める能力も変化しています。
障がい者の就労への理解を広めるために
こうした状況に対応するため、2017年6月から、職業訓練校の制度を見直すとともに、企業を対象とした、障がい者の就労への啓発活動に力を入れています。
訓練校では、就労先の変化に合わせてカリキュラムを改訂し、ビジネスマナーやコミュニケーション力といったビジネススキルに関する授業数を増やし、職場での報告・連絡・相談やチームワーク、問題解決、お客さま対応などについて、座学やロールプレイを通して教えています。縫製工場で使われる工業用ミシンの扱いを学ぶ科目も取り入れました。また、卒業生を対象に、技術不足などで就労継続が困難な卒業生の再履修制度を導入しました。さらに、就労定着を手助けするために、卒業生のフォローだけでなく、卒業生が問題なく働いているか企業に確認し、必要に応じて卒業生との間に入り、企業側の不満を伝えるなどして、課題解決に努めています。
また、障がい者の就労への理解を広めるために、ほかの障がい者団体と協力して啓発活動を行っています。訓練校では、(視覚障がい者、介助が必要な重度の障がい者を除く)身体障がい者を受け入れていますが、ほかにもさまざまな種類の障がいがあります。障がい者の就労を広く促進するためには、さまざまな障がいのある方の声を取り入れることが不可欠です。そのため、知的障がい者や精神障がい者などへの支援を行う他団体とともに、障がい者の就労に関する、企業向けの冊子を作成するほか、研修やシンポジウムを開催します。また、訓練校の職員が中心となり、約100社の企業を訪問し、障がい者の就労に関する基礎知識や、訓練校の卒業生の能力などを伝えて、障がい者の就労への理解促進と障がい者の新規雇用を働きかけていく予定です。
これから新しい活動が本格化するにあたり、訓練校の2人の職員に意気込みを聞きました。
理容美容コース主任教員 ミャッ・モー(男性、51歳) |
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私自身も障がいがあり、訓練校の卒業生です。軍で働いていたときに地雷の被害に遭い、右足の膝から下を失いました。それ以来、義足や松葉杖を使って生活しています。2003年に訓練校を卒業した後、2004年から13年間、理容美容コースの教員として働いてきました。 |
就労支援担当 スェ・スェ・ライン(女性、36歳) |
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2017年7月から就労支援担当として働き始めました。それ以前は、2010年に訓練校コンピューターコースが開設されてから7年間、主任教員としてコースを運営していました。コンピューターコースでは、卒業生はほぼ全員、企業やお店へ就職するため、そのために必要なビジネススキル科目の実施や就職斡旋、卒業生のフォローを行いました。しかし、就職した卒業生の中には、スキル不足やビジネスマナーが身に付いていない、人間関係などの理由で、就労が続かないこともあります。これからは、就労支援担当として、各コースと連携を取りながら、すべてのコースの卒業生の就労に関わります。これまでの経験を活かして、訓練生が働くための心構えやビジネススキルなどの習得を支えるとともに、就職後の卒業生と雇用者の双方のフォローにも力を入れ、就職定着を目指して取り組んでいきたいです。 |
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
ヤンゴン事務所 中川 善雄
2011年3月よりタジキスタン事務所、2013年10月よりミャンマー・パアン事務所での駐在を経て、2015年1月より同国ヤンゴン事務所駐在代表。大学卒業後、日本赤十字社で約5年間の勤務を経てAARへ。神奈川県出身