パキスタン:健康で、安心して勉強ができる環境づくり
AAR Japan[難民を助ける会]は2011年から、パキスタン北西部のハイバル・パフトゥンハー州の小学校で、トイレや手洗い場を整備するなど、衛生環境の改善に取り組んでいます。こうした活動が必要とされている背景には、パキスタンの小学校が抱える、どのような事情があるのでしょうか。イスラマバード事務所のシーマ・ファルークがお伝えします。
おもらしをして、泣きながら家に帰る小学生日本の皆さん、こんにちは。AARパキスタン・イスラマバード事務所で女子小学校向けの衛生啓発事業を担当しているシーマ・ファルークです。 先生が学校のトイレに鍵をかけるのは、水が足りない状態でトイレを使うと、さらに衛生環境が悪くなるからです。しかし、そうすると、子どもたちは学校にいる間、排泄を我慢するか、わざわざトイレのために家に帰らなければならず、授業に集中することができません。また、低学年の児童がおもらしをすると、学校にいるその児童の姉がパンツを洗うように指示されます。もしそれができない場合、おもらしをした児童は家に帰されてしまうのです。 大忙しの母親たちを説得する私たちは、先生や母親向けに、安全な水の大切さや手洗い・歯磨きの仕方など、基本的な衛生習慣についての研修も行っています。研修に参加した先生や母親が、子どもたちや家族、同じ地域の住民に、その知識を広めてくれることを期待しています。 この研修に参加する先生や母親の多くは、すでに基本的な衛生習慣についての知識を持っていますが、実際にその習慣をきちんと実践しているかと言えば、そうではありません。ある母親は研修で、「水を煮沸してから飲むべきだとか、手洗いや歯磨きが大切なことは知っています。イスラムの教えでも、身の回りを清潔に保つことが重要だと言われているから。でも、毎日忙しすぎて、とてもそんな時間がないのです」と言いました。 私たちAARの衛生啓発チームは、母親たちに、「せめて子どもたちだけにでも、煮沸処理をした水を飲ませてほしい」と説得しています。私たちが支援校の児童に対して行った調査では、71%もの子どもたちが、直近1ヵ月の間に、下痢を経験していたからです。また、「きちんとした衛生習慣を子どもに実践させるには時間がかかるけど、子どもが病気や下痢になれば、回復するのにもっと手間と時間がかかる」ということも伝えています。先生たちにも、学校で衛生教育を推進し、家庭での母親の負担が減るようにと、協力を呼びかけています。 私たちが支援している学校では、とても協力的に、私たちの活動を受け入れてくれています。学校を訪れる度に、目を輝かせて笑顔で出迎えてくれる子どもたちを見ると、私はとても勇気づけられます。 |
この活動は皆さまからのご寄付に加え、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
イスラマバード事務所 シーマ・ファルーク
大学で、パキスタンの政治や歴史、地方自治を専攻。卒業後は、欧米に拠点を置く国際NGOでの勤務や、5年間講師として大学で教えるなどした後、2016年8月より、AARパキスタン事務所で勤務。夫と娘の三人暮らし