12月3日国際障がい者デーに寄せて ~子どもたちがともに遊び、 学べる環境を目指して~
12月3日は国際障がい者デーです。AAR Japan[難民を助ける会]は、障がいの有無や人種、言語の違いなどに関わらず、すべての子どもが、暮らしている地域で、一人ひとりの個性や能力に合わせて教育を受けられるインクルーシブ教育を推進しています。障がいのある子どもが暮らしやすくなることを目指してAARが実施する、タジキスタン、カンボジアでの取り組みを報告します。
普通校に学習支援室を設置し、障がい児をサポート~タジキスタン~
タジキスタンの障がい児数は2.5万人と報告されていますが、実際の数はそれ以上であるといわれています。AARが障がい者支援を行う多くの国同様、障がい認定制度がうまく機能していないことや、障がいへの偏見や差別が根深いため、親が子どもを家から出したがらず、行政機関による把握がされていないことが理由に挙げられます。生まれたときに子どもに障がいがあると分かると、その場で周囲の人から「この子は孤児院に入れた方が良い」といわれることもあると聞くほどです。タジキスタンでは、障がい児は親元を離れ寄宿学校で暮らすか、学校に行かず家の中で過ごすのが一般的です。
AARは障がい児も地域の普通学校で学べるよう、2014年より首都ドゥシャンベでインクルーシブ教育の推進を始め、今年6月からは近郊のヒッサール市での活動を開始しました。7歳~17歳が学ぶ初等中等教育校2校で、スロープや手すりの設置、車いす用トイレへの改修を行い、校舎をバリアフリー化しました。また、地域で障がい児への学習支援を行っている団体「ヌリオフト」と協働し、周辺の学校を含めた7校で、障がい児の受け入れに向けた教員への研修や啓発活動を行い、障がい児の教育の権利などの基礎知識、各種障がいへの理解やそれに合わせた指導やケアの方法を学んでもらいました。
そして、AARの働きかけにより10月末に支援対象の2校に学習支援室が完成し、11月から障がい児19名が利用を開始しました。2校の支援室では、ヌリオフトのソーシャルワーカー3名とAARの研修を受けた教員36名が障がい児の学習をサポートしています。支援室の担当教員となったエリモドバ先生は、教員歴22年の大ベテラン。「もっとその子どもの特性に合わせた教え方ができるように勉強していきたい」と意欲的に語ってくれました。
ヨロフくん(10歳)は自閉症で、「お母さん」「お父さん」という言葉しか話さないそうです。幼稚園に一度通ったことがありますが、他の子どもに押されて転落し頭に大怪我を負ったことがあり、それ以降は幼稚園や学校には通っていませんでした。お母さんは、「学校に通えることになりとても嬉しい。ヨロフはコンピューターや携帯電話が好きで得意。言葉で理解するのは難しいが、写真や物などを見せたら、ちゃんと理解できる。サポートがあれば字も書ける」と笑顔で語ってくれました。ノートはヨロフくんが練習したキリル文字(タジキスタンで使われている文字)でいっぱいでした。
メリコワちゃん(14歳)は、少し恥ずかしがり屋ですが、とても俐発な女の子。生まれつき聴覚障がいがあり、これまで一度も幼稚園や学校には通ったことがありませんでした。昨年秋にヌリオフトが家庭訪問を行った際、メリコワちゃんが自宅で過ごしていると知り、同団体が運営するデイケアセンターに通うようになりました。メリコワちゃんのお母さんは「ありがとうと1,000回でも言いたい。ヌリオフトが私たちを見つけて訪ねてくれたこと、そして今回学校にこのような環境を整備してくれたおかげで娘が学校に行けるようになったことを本当に感謝しています」と話してくれました。
ラヒモフくん(8歳)は聴覚障がい・言語障がいがあり、話せないという理由で学校には通っていませんでした。2ヵ月前からヌリオフトのデイケアセンターに通い始め、少し話せるようになりました。お母さんは「学校のすぐ近くに住んでいるので、子どもが学校に通えるようになり、ありがたく思う。」と嬉しそうに語ってくれました。
ダウン症のアブドゥラくん(9歳)。医者であるお父さんは、アブドゥラくんを育てる上で困ったことは特になかったといいますが、教育を受けるための環境づくりだけが問題だと感じていました。「これまで、同じ年の子どもたちと過ごす機会がありませんでした。一緒に学んで遊び、過ごせるようにしてほしいです」とアブドゥラくんのお母さんが話してくれました。
ショイスタちゃん(6歳)は脳性まひがあり、4ヵ月前からデイケアセンターに通い始めました。以前は興奮しやすいことがありましたが、通い始めてからは落ち着いている様子をお母さんが話してくれました。また、学校や学習支援室には素晴らしい設備が整っているので、何もいうことはないと評価してくださいました。今後、ショイスタちゃんには読み書きを学んでもらいたいそうです。
ヒッサール市での活動はまだ始まったばかりですが、同市教育委員会および学校、保護者など関係者との協働を通して、学校が主体的にインクルーシブ教育を推進し、障がいの有無に関わらずに子どもたちがともに遊び、学べる環境づくりを行えるように支援をしていきます。
地域の人々とともに、一人ひとりに合った支援を~カンボジア~
AARはカンダール州クサイ・カンダール郡で、2013年からインクルーシブ教育の普及を進めています。校舎のバリアフリー化や教員への研修、地域での啓発活動のほか、これまで284人の障がい児を対象に、障がいの状態や環境に応じたきめ細かい支援を行っています。
重度の難聴のあるスン・ロザーちゃん(12歳)は、AARの支援を受け、補聴器を使っています。以前より意思の疎通が容易になり、聴力も向上しています。本人と家族は定期的に専門機関を受診し、医師が補聴器の状態や聴力の変化を確認しています。
ロザーちゃんがそれまで補聴器を使っていなかったように、障がいの知識や情報不足、家庭の経済状況などが理由で、障がいがある、またはその疑いがある子どもが、適切な支援を受けられていない例は少なくありません。また、ほかの子どもと比較して、できない点ばかり気にしてしまう家族もいます。AARは、それぞれの家族に対して障がいの早期発見や適切な対応の重要性を伝えるとともに、家族が抱える悩みや不安にも耳を傾けています。障がい児本人とその家族一人ひとりに寄り添った支援を行うことを重視しています。専門の病院などを受診したあとも、問題があればすぐに対応できるよう、地域住民からなるインクルーシブ教育推進部会を組織し、そのメンバーやAAR職員、行政機関職員が、定期的に家庭を訪問して状況を確認しています。
ヴァイ・ヴィサルくん(11歳)は、以前治療を受けた耳の状態悪化と家族や学校の理解不足が原因で長期間学校を休んでいました。家庭訪問をした部会メンバーから報告を受けたAARは、専門の病院を受診できるよう調整し、同時に家族と学校に適切な配慮をするよう働きかけました。部会メンバーも学校を訪問し、校長や教員に対してヴィサルくんへの理解を促しました。その後、ヴィサルくんは手術を受けて耳の状態が改善。周囲の理解と協力が得られ、再び通学できるようになりました。
生まれつき右足に障がいがあり、不就学児だったモン・チャンディくん(12歳)は、AARと学校による働きかけによって通学を始めました。また、AAR は、足の関節を支える補助具のほか、通学用の自転車も提供しました。右手に力が入らず、文字は左手で書いているそうですが、「時間はかかるけど友達も助けてくれるから、学校が好き」と話してくれました。
斜視のあるチェン・ペイちゃん(12歳)は、学習が遅れがちでした。AARは知的障がい児の診断や療育等を行うセンターへの訪問を調整しました。また、学校を長期間休んでたため、教員とAARが家庭訪問をし話を聞くと、学級内での友人関係が問題の一つであることがわかりました。その後、学校の配慮によって同学年の別の学級で学べるようになり、今では毎日学校に通い勉強に励んでいます。
AARは今後も学校や地域と協力し、障がいがある子もない子も学ぶ権利が保障される社会の構築を目指し、活動を続けていきます。
【報告者】記事掲載時のプロフィールです
タジキスタン事務所 山根 利江
大学卒業後、英国の大学院で保健システム管理などを学んだ後、日本で看護師として勤務。2013年5月にAARに入職、2016年11月より現職。静岡県出身
カンボジア事務所 園田 知子
大学卒業後、在外公館勤務を経てイギリスの大学院で教育開発を学ぶ。青年海外協力隊員としてカンボジアで活動後、2011年5月にAARへ。山口県出身