【国際女性デーに寄せて】あなたには価値がある
3月8日は国連の定める「国際女性デー」。女性の自由と平等を目指す記念日です。女の子だから、女性だから、という理由で学校に行けなかったり、意思を尊重されなかったり、という現実に直面している人たちは、残念ながら今でもたくさんいます。AAR Japan[難民を助ける会]の活動地のひとつ、ケニア北西部にあるカクマ難民キャンプで、そんな女の子のために奮闘している人たちに会いました。
女子生徒はたった2割。カクマ難民キャンプの中等校
ここは男子校? そう錯覚してしまうほど、ケニアのカクマ難民キャンプにあるビジョン中等校では、女子生徒の姿が目立ちません。それもそのはず、生徒全体のうち女子は2割にも届きません。校長を務めるケニア人のジョージ・ナンディ先生は、学校の課題として、「まず学齢期の子どもたちの人数に対して学校がまったく足りないこと、あっても設備が整っていないこと、そして、女生徒の退学率が高いこと」の3つを即座に挙げました。
カクマには約18万人の難民が暮らし、その出身国は南スーダンやソマリアを筆頭に18ヵ国に及びます。日本でいう中学1年から高校3年の学年に対応する中等校が5つあり、そのうち4つは共学で、全体の生徒数は約7,000人です。小学校入学時は男女が半々ずつにも関わらず、中等校になるとたった2割に。卒業するころにはさらに減ってしまいます。ビジョン校に限らず、どこの学校でも、同じ状況だといいます。いったい何が起こっているのでしょうか。
女の子から多く寄せられる相談とは?
「親に結婚させられそうだとか、妊娠してしまった、という悩みを訴えてくる子が特に多いですね」
カクマ難民キャンプのソマリ・バントゥ中等校でカウンセラーをしているリリアン・ジェプレティン先生は、生徒からどんな相談が多く寄せられるのかという私の質問にこう答えました。リリアン先生はケニア人で、英語を教えながら学校のカウンセラーも務めています。AARがカクマで行っている中等教育の支援のうち、大きな柱のひとつがカウンセリング活動です。それぞれの学校で教員にカウンセリングのトレーニングをしたり、安心して相談できる場所をつくるため、カウンセリング棟を建設するなどしています。定期的にAARのカウンセラーが学校を回り、直接生徒たちの相談に乗ることもあります。
リリアン先生は元々カウンセリングの資格を持っており、AARの頼もしいパートナーのひとりです。「早期結婚や妊娠の慣習を持つ国は多くて、難民キャンプでもそれが受け継がれているのです」。それが、女の子の就学率の低さや、退学率の高さにつながっています。「少しずつ人々の考えは変わってきてはいるのですが、まだまだ13歳、14歳くらいで結婚させられる女の子が多いんですよ」
妊娠した子には、赤ちゃんが生まれたら復学するように薦めていますが、なかなか実現しません。理由の一つは、家族の反対です。結婚すると女性は夫やその家族の意見に従わなくてはならず、まだまだ、女の子が教育を受ける価値を認めていない人も多いのです。
「女の子は早く結婚するもの...と思っていたけれど」
南スーダン出身のアン・ニャデンさんは18歳、中等校の卒業を間近に控えています。5年前に、内戦を逃れて叔父とともにカクマに逃れました。将来の夢は建築家。キャンプ内で開かれていた講座で建築の3Dソフトの使い方を学んだことがあり、興味を覚えたのだと言います。無事卒業できたら、さらに専門的に学んで、仕事に就きたいそう。
叔父のニャルさんは30歳で、難民キャンプ内でなんとか仕事を見つけて働いていたものの、最近、失業してしまいました。それでもアンさんが通学を続けられるよう、やりくりしてくれています。ニャルさんは、アンさんの将来についてどう考えているのでしょうか。「女の子というのは、所持金のようなもの。できるだけ早く、高いお金を出してくれる求婚者を見つけて結婚させるよ!」と声を張り上げました。それから笑い出し、「と、そう思っていたけどね。キャンプでいろんな人たちと会って、考えが変わったよ。女の子だって教育を受けるのが当たり前だし、自分の進みたい道に進むべきなんだ」。アンさんは満面の笑みで叔父さんの話を聞いていました。
あなたの思いを応援してるよ
アンさんをはじめ、中等校で女の子たちに「卒業したら何をしたい?」と聞くと、口々に「奨学金をもらって大学に行きたい。できれば留学したい」と希望を語ります。難民キャンプという厳しい環境の中でも明るい表情で将来の夢を語ってくれる子どもが多いことに勇気づけられる反面、奨学金をもらえる子はごくごく一握り。奨学金なしに高等教育や専門教育を受けることは、日々の食料すら満足にない多くの難民家庭にとって、ほとんど現実的ではありません。
「女の子の将来は確かに厳しい。たとえ中等校を出ても、大学はもちろん、仕事につける可能性も高くはないし、すぐに結婚させられてしまうことが多い」とリリアン先生。では、そんな女の子たちにとって、学校に通うことや、カウンセリングの活動は、どんな意義があるのでしょうか。「もちろん意義があります」リリアン先生は即答します。「教育を受けることで、彼女たちは自分の権利を知ることができます。それを侵害されれば、自分には権利があるのだと説明することができます。何か悩みを持っていたとしても、私に話してくれれば、その悩みをどう扱ったらいいのか伝え、力づけることができます。もし妊娠しても、また戻ってこようと思えるようになる。つい数年前までは、中等校を卒業する女の子はほとんどいませんでした。でも今では少しずつ増えています。私はこの仕事が、子どもたちが、大好き。もちろん男子生徒もですよ」
10代という多感な時期に、紛争の恐怖を味わい、先のまったく見えない難民キャンプで生活を送り、望まない妊娠や結婚を迫られる女の子たち。親と離れ離れという子もいます。そんな中で、あなたはあなたでいいんだよ。結婚するのも仕事に就くのも学業を続けるのも、あなたには自分のしたいことをする権利があるんだよ。あなたの思いを応援してるよ。いつでも力になるよ。そう言い続けてくれるカウンセラーは、とても大事な存在です。男の子たちにとってももちろん同じです。それによって得た自信は、卒業した後に続く厳しい日々の中でも、きっと彼女・彼らの大きな力になってくれることでしょう。
【報告者】 記事掲載時のプロフィールです
東京事務局 広報部長 伊藤かおり
2007年11月より東京事務局で広報・支援者担当。国内のNGOに約8年勤務後、AARへ。静岡県出身